- ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバーのハラルド・クローガー:「eモビリティ向けSiCチップの生産で世界をリードすることを目指しています」
- SiC半導体により、電気自動車の航続距離の延長や充電の高速化が可能に
- 量産開始は2021年12月を予定。ボッシュは2021年初めから、顧客の評価用にSiCチップを生産
- ドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi)が技術開発を支援
ロイトリンゲン(ドイツ) – SiC(炭化ケイ素)半導体は、非常に小型かつパワフルで、きわめて高効率です。ボッシュは数年に及ぶ開発期間を経て、この革新的な原材料を用いたパワー半導体の量産を開始し、世界中の自動車メーカーに供給します。将来的には、より多くの量産車へのSiCチップの搭載が見込まれています。
「SiC半導体には大きな将来性があり、ボッシュではeモビリティ向けSiCチップの生産で世界をリードすることを目指しています」と、ロバート・ボッシュGmbHの取締役会メンバーであるハラルド・クローガーは述べています。グローバル規模でテクノロジーとサービスを提供するボッシュは、2年前にSiCチップの開発と生産開始を発表しました。
ボッシュは非常に複雑な製造工程を独自に開発し、まずは顧客向けの評価用サンプルとして2021年初めから特殊半導体の生産にSiCチップを搭載してきました。「eモビリティへの需要拡大に伴い、受注は好調です」と、クローガーは述べています。ボッシュは将来的にSiCパワー半導体の生産能力を億単位の規模に引き上げたいと考えており、ロイトリンゲン工場ではすでにクリーンルームスペースを増設しています。
これと並行して、第2世代のSiCチップの開発も進められており、2022年の量産開始を目指してさらなる高効率化を図る予定です。ボッシュはSiC半導体の革新的な製造工程の開発にあたり、「IPCEIマイクロエレクトロニクス」プログラム(欧州共通利益に関する重要プロジェクト)の一環として、ドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi)から支援を受けています。
「当省は、数年前からドイツにおける半導体生産体制の確立を支援してきました。ボッシュの非常に革新的な半導体生産体制は、欧州におけるマイクロエレクトロニクスのエコシステムを強化し、デジタル化の中心となるこの分野での自立に向けたさらなる一歩となるでしょう」と、ペーター・アルトマイヤー連邦経済エネルギー相は述べています。
航続距離の延長を実現する素材
SiCパワー半導体の需要は世界中で高まりをみせています。市場調査・コンサルティング会社のYoleによると、SiC市場全体は毎年平均30%成長し、2025年には25億米ドル超に達する見込みです。このうち、車載用SiC市場が約15億米ドルと、最大のシェアを占めると見られています。
「SiCパワー半導体によって、既存のエネルギーを非常に効率的に利用することが可能になります。この素材は、eモビリティのようなエネルギー集約型の用途で特に威力を発揮します」と、クローガーは述べています。電気自動車のパワーエレクトロニクスの場合、SiCチップを使用すれば、バッテリーを1回フル充電して走行できる距離が、シリコン(ケイ素)チップに比べて平均して約6%延長されます。
ロイトリンゲンにあるボッシュのウエハ工場では、増加の一途をたどる半導体需要に対応するために、2021年にクリーンルームスペースを1,000m2増設し、さらに2023年末までに3,000m2が追加される予定です。クリーンルームでは最新鋭の生産設備を導入し、独自開発した工程でSiC半導体を生産します。そこには、ボッシュの半導体の専門家が数十年にわたり培ってきたチップ製造のノウハウが活かされています。
SiCチップを自社生産する唯一の自動車部品サプライヤーであるボッシュは、将来的に200mmウエハを用いて半導体を生産することを計画しています。これにより、現在使用されている直径150mmのウエハと比較して、大規模なスケールメリットが得られることになります。
ウエハは、数カ月をかけて数多くの装置で数百もの工程を経て加工されます。「ウエハのサイズが大きくなれば、1回あたりに製造できるチップの枚数が増え、より多くのお客様に供給することも可能になります」と、クローガーは述べています。
小さな原子、大きな効果
SiCチップの優れた性能の秘密は、小さな炭素原子にあります。通常半導体の製造に使用される高純度シリコンの結晶構造に炭素原子を結合させることで、シリコンチップよりも高いスイッチング周波数を実現するなど、特殊な物理的性質をもたせます。
また、熱として失われるエネルギーがほぼ半分で済むため、電気自動車の航続距離が延長されます。このチップは800Vシステムにとっても重要で、システムの性能向上と充電の高速化が可能になります。また、SiCチップでは熱の発生をかなり抑えられるため、パワーエレクトロニクスの冷却機構を簡略化することもできます。これにより、電気自動車の軽量化だけでなく、コスト削減にもつながります。
ボッシュは今後、このSiCパワー半導体を単独のチップとして、またパワーエレクトロニクスやeAxleのようなトータルソリューションに組み込んだ形で世界中のお客様に提供します。モーター、トランスミッション、インバーターを一体化させた電動パワートレイン「eAxle」は、システム全体のより効率的な設計により、システム効率が最大96%まで改善されています。これによってより多くのエネルギーを駆動に利用でき、航続距離の延長に繋がります。
公式プレスリリースはこちら: 航続距離の延長に向けて:ボッシュ、SiC(炭化ケイ素)チップの量産を開始