現状はほぼ横バイも…
新型コロナウイルスの感染が住宅用分電盤の売れ行きにどのような影響をもたらすかを予測するのは、いささか困難である。ただ分電盤が使われている業種などから追っていくのも一つの方法と思われる。今回は2008年のリーマンショックを超えると言われているコロナショックが今後どのように分電盤に影響を及ぼすかをリポートした。
分電盤のメーカー各社にとっては、2020年度の業績は、学校の空調工事などが大きく寄与したことにより至って好調であった。新型コロナが騒がれ始めても当初は残工事などで仕事量はそれほど落ち込まなかった。
ところが、日銀が発表した3月の短観(全国企業短期経済観測調査)では、製造業の業況判断指数(DI)はマイナス8というように景況は日ごとに厳しさを増している。
大企業・非製造業ともに22ポイントの悪化で、リーマンショック後の2009年3月調査以来の大幅な下落幅で、景気の冷え込みの大きさがうかがえる。訪日外国人などに支えられて順調に推移してきた経済も、訪日客の急減に加え、様々なイベントの中止や外出自粛による消費低迷が大きく響いてきている。
特に懸念されるのが今後の動向である。3カ月後の先行き見通しについては、大企業・製造業・非製造業、中小企業の製造業・非製造業とほぼすべての業種で悪化がより厳しくなると予測されている。また、北海道から九州・沖縄に至るまですべての地域が悪化するとみられている。
主要30業種の天気図の4〜6月産業景気予測でも、在宅勤務を促すサービス業などごく一部を除き天気図は曇りから雨マークになっている。住宅用分電盤に大きく関連する「マンション・住宅」産業もまた、首都圏の新築分譲マンションの売れ行きは4月以降厳しさが増してきている。ここ数年で価格が高騰してきたことに加え、新型コロナウイルス感染拡大による景気悪化が響く。不動産各社は在庫圧縮に注力することで新築販売は大きく減少する見通しで、大手メーカーの戸建て注文住宅も低迷が続く。
国土交通省によると、分譲マンションの新設着工戸数は19年11月から3カ月連続で前年同月を下回り、うち2割以上減った月が2度ある。今年2月は前年を上回ったものの、業界では向かい風が続くとの見方が多い。
マンション着工減の理由としては、都心を中心にマンション価格が高騰して消費者が購入に慎重なったことと消費増税にともなう購入意欲の減退も重なったとの見方がある。加えて、新型コロナの感染が拡大し、景気の冷え込みによる実需の減退とも重なる。
景況感は日増しに悪化しており、政府が発表した4月の月例経済報告でも景気判断を引き下げ、新型コロナの影響で、急速に悪化しており、極めて厳しい状況にあるとの見方を示した。悪化の文言を使うのはリーマンショック後の2009年以来、約11年ぶり。経済の落ち込みぶりが伺える。
国土交通省が発表した令和元年度の新設住宅着工戸数と床面積は、前年度比7.3%減、4.5%減と減少。新設住宅着工戸数は前年度比7.3%減の88万3687戸で、昨年度の増加から再びの減少。床面積は同4.5%減の7310万7千平方㍍でこちらも昨年度の増加から再びの減少となった。
我々にとってもっとも気になるのが、住宅着工と密接に関連する住宅用分電盤の売れ行きである。足下ではそれほど落ち込んでおらず「昨年と同等程度か少し悪いぐらい」と言った声が多く、他業種とくらべるといたって恵まれている。とはいえ、今後の見通しがどうかと言えば「コロナの影響がどこまで続くかによる」との見方が多い。
最近の分電盤は、住宅以外にも店舗とか小規模施設などにも使われており、いまのところ影響はでていないようだ。地域別にみても、これまでとほぼ同等で推移している。
営業戦略や新製品の取組みは 従来路線進めるメーカー各社
メーカー各社がもっとも懸念しているのが、コロナの影響がいつまで続くのかと冷え込んだ経済が回りまわってどのような形で表れるかである。それでも営業戦略、新製品の取り組みは従来路線を着実に進めていくことに変わりはなさそうだ。
パナソニック ライフソリューションズ社は、「感震機能付商品はリフォーム・リニューアルに包含されるが、まだまだ普及率が低く、行政の後押し、補助も継続する」と予測している。レジリエンス観点での安心安全の備えの補強という需要は、継続して伸びるとみている。加えて、「EVやIoT家電の普及など家庭内の機器の高機能化、ネットワーク化への需要は着実に伸びる」と予測しており、こちらも引き続き注力する。
テンパール工業は、「卒FITに関連した蓄電地関連は市場規模が急拡大しており、切替盤や特定負荷分電盤として住宅用分電盤をベースとした需要が伸びている。これからは注文をもらった分電盤を販売するだけでなく、電気設備の管理者や居住者の人を対象としたアフターサービスなどの付加価値を付けることで、自社の商品への特長を持たせる必要性を感じている。またリフォーム市場の受注強化のため、マンション管理組合などへの訴求に注力する必要がある」との考えを示す。
日東工業は、「変化し続ける市場ニーズを的確に捉えて対応することが重要である。たとえば、FIT制度では開始年度に契約した住宅が今期売電期間の満了を迎えている。自家消費・減災対策として蓄電地などを新たに設置する住宅も増えている状況であり、早い段階からこのような需要を見込んで商用電源と非常用電源を切り替える分電盤を市場投入していることが、売上増に寄与している。減少見通しの新設住宅着工件数などを勘案すると、付加価値を持った製品をいかに提案するかが取組みとして必要」との見方を示す。
河村電器産業は、「リフォーム・リニューアルの需要内容として新築同様、蓄電地やV2Hといった『クルマ(VehicIe)から家(Home)』を採り入れた自家消費型の電力形態が注目を浴びつつあり、それに対応する分電盤が求められると予測される。電力自由化はじめ様々な住宅の電力事情が交錯するなか、分電盤にさらなる付加価値が求められる」と捉えている。
一見、成熟商品のようにみえがちな住宅用分電盤も世の中の流れとともに変わり、時代が要請する分電盤へと変化している。降ってわいたようなコロナ騒動ではあるが、分電盤もリーマンショック、東日本大震災と幾多の苦難に直面し逞しく成長してきた。
技術は日進月歩。世の中は流れる水のごとく止まってはいない。住宅用分電盤もまた、長い年月をかけて今日まで成長してきた。これからも時代の要請をくみ取った分電盤へと変貌することが望まれる。
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