ダイキン工業は、昨年来のコロナ禍のなかで、換気機能搭載型ルームエアコンや全熱交換器ユニット「ベンティエール」のラインアップ充実などで難局を乗り切った。同社空調営業本部の依田優副本部長は、電材卸店に対しても「当社の提案を受け止めて賛同いただいたことに感謝している」との心情を表す。今回、市場の動向・見通しや商品展開とともに、電材卸店とともに取組んだ仕事についても聞いた。
(取材協力:石井克典空調営業本部副本部長)
ダイキン工業株式会社 専任役員 空調営業本部 副本部長 依田 優氏
付加価値提案=単価アップ
——まずは、これまでの経歴についてお聞きします。
依田 1998年に東京で販売企画系の業務に従事したのち、2011年に販売会社であるダイキンHVACソリューション近畿に出向しました。17年に本部に戻ってふたたび販売系企画の業務に従事し、18年から営業部門に移り現在に至っています。
——コロナ禍発生から1年半以上が経過していますが、電材業界は他業界と比べて大きく落ち込んではいないように思われます。厳しいなかでも踏みとどまっているのは、空調が下支えしているように受け止められます。
依田 たとえば、昨年のルームエアコンは、年間で業界が対前年105%でした。とくに、コロナ関係の給付金や巣ごもりなどで6〜7月に量販店さん含めて前年比115%となりました。コロナ禍のなかで住宅における一定の需要が発生したことによって、電材卸店さんのお仕事にもプラスの動きがあったかと思います。
当社は20年来、換気のできるエアコンを展開していますが、換気が安全・安心の大きなキーワードになったので電材卸店さんに従来よりも多くご販売いただけたのではないでしょうか。
電材卸店さんでは換気扇を扱われています。ですから換気というものに対する理解があるなかで、ユーザーの皆様からも「換気ができるもの」というご要望があり、得意分野の換気とエアコンがセットになったうるるとさららは提案しやすかったのかと捉えています。
——withコロナを見据える意味でも空調が今後電材業界の大きな柱になるかと思います。
依田 今年上期の需要は、昨年増えた反動もあり対前年同期で8%減となっています。長雨などの影響があったなかで8%減にとどまっているのは、コロナ対策としての買い増し・買い替えといったものが一定数寄与しているのではないかと考えています。この冬シーズンもまた、各社いろんな新製品を投入する時期ですので、冬シーズンにおいても安定した需要が一定数見込めると考えています。このような意味では、この冬も電材卸店さんの商売に貢献できるのではないかと感じています。
大きくパッケージエアコンとルームエアコンとに分けますと、パッケージエアコンは昨年度に大幅に下がって対前年80%程度となった一方で、ルームエアコンは巣ごもりとか換気・健康というキーワードで販売が好調でした。電材卸店さんにおいてもこれまでのパッケージエアコンだけでなくルームエアコンの取扱いが大きく増えていますので、販売のお役に立てる商品だったと思っています。
——上期の動向と下期の見通しについてあらためてお聞きします。
依田 ルームエアコンに関していいますと、今年は天候不順などで業界のトップシーズンである7〜8月が対前年17%減という数字でした。それにもかかわらず、上期トータルでは8%減で落ち着くものとみています。先ほども申し上げましたが、天候の影響こそあったもののベースとなる買い替え・買い増しで下支えしたのではないかと思っています。
下期についても、昨年ほどの伸びは見込めない状況ではありますが、年間トータルでは930万台という非常に大きな需要があるものとみています。
ユーザーの皆様も、買い替えに対しては少しでも良いものをという感覚がございますので、付加価値提案イコール単価アップと考えれば非常にチャンスが多い市場になるとみております。
それから、寒冷地における暖房能力については、当社だけでなく各メーカーとも性能が上がってきています。いままでエアコンは暖房機として採用されませんでしたが、暖房能力の向上とともに、今後は寒冷地での需要拡大もまた、伸びしろとなるものとみています。
——商品戦略についてお聞きします。まずは先ほどから出ている換気機能搭載型ルームエアコンから。
依田 商品ラインアップでいいますと、これまで換気機能は最上位機種フラッグシップの「うるるとさらら」しか搭載していなかったのですが、今年の春から3シリーズで展開しています。「フラッグ」「ミドル」「普及ゾーン」という形で換気シリーズの拡大を行いました。これからも新しい価値を市場に提供し、皆様のお役に立ちたいと考えております。
——ベンティエールについてお聞きします。
依田 昨年露出型を発売し、今年は床置き露出を発売しました。ユーザーの選択肢が広がったと思います。露出型は、コロナ禍を受けて当社が初めて発売しました。店舗などでは来店者のみならず従業員の方の安全安心という面でも寄与できたものととらえています。
ベンティエールのみならず、全熱交換器の業界が、この上期で前年の1・2倍という形で大きく伸びています。全熱交換器といえばこれまで、大きなビルの換気システムとして定番商品でした。
しかしながら、コロナ禍のなかで夏場に窓を開けたままエアコンをつけて過ごしてきた中小のオフィス・店舗に全熱交換器を増設するとか、あるいは換気設備の更新といった、新築ビル以外の新たな需要を創出したいという我々の提案を皆様に受け止めていただきました。電材卸店さんや電気工事店さんとパートナーシップを組み、ユーザーの皆様への提案活動を一緒に進めてきました。難局を乗り越えようという思いのなかで、「一緒に工事店さんにPRしましょう」「あのお客さんに一緒に提案してみましょう」というふうに、ひとつの需要を作った実感があります。
また、電材卸店さんだけでなくHVACソリューションも新たな売り方の手応えをつかんだものと受け止めています。当社の活動に賛同していただいた電材卸店ならびに電気工事店の皆様には、心より感謝しております。
——続いて、今年UVタイプも発売された空気清浄機についてお聞きします。
依田 ユーザーさんと換気やコロナ対策の話になったときに、「地下で換気量アップの工事が無理なら空気清浄機を置きましょうか?」とか、料理屋さんで「メインの換気に加えて座敷に空気清浄機を設置しましょうか?」というふうに、提案が換気だけではないことも少なくありません。「換気がむずかしければこういうUVの空気清浄機がありますよ」という感じで、安心・安全の提案をいくつか持ち合わせてユーザーの皆様と密に話すことが可能になります。そういった意味では、電材卸店さんにも積極的にご提案いただける商品だと考えています。これから、人の集まる保育園や塾などが再開するなかで、コロナ禍以外にもインフルエンザなどいろんな困りごとがあります。そうした施設に提案する安心・安全のアイテムとしては換気同様、我々と一緒に取組んでいただける商品ではないかと思います。
——UVタイプのラインアップ拡充のご予定は。
依田 現行機種が大きな反響をいただいていますので、いずれはラインアップを拡充したいと思っています。
——パッケージエアコンも新商品の発売が予定されています。
依田 当社がパッケージエアコンを発売して今年で70周年のタイミングでのモデルチェンジになります。カーボンニュートラルや安全・安心とともに省施工が求められるなかで、新製品では電気工事店さんの人手不足に対応するフレアレスジョイントを採用しています。フレアレスジョイントは、冷媒が漏洩しないように手間をかけて工事して頂いている部分での省施工につながると思います。万が一での工事での間違いをカバーし、機械側でもすぐに漏洩を感知できるということで、カーボンニュートラルに対応したパッケージエアコンと考えています。
パッケージエアコンについては、「カーボンニュートラル」「フレアレスジョイント」「清潔」の3点を軸とした商品展開を進めたいと考えています。
——こちらの期待度も高いかと思います。
依田 新製品は、電気工事店さんに選んでいただき、電気工事店さんからユーザーさんに提案していただけるものと期待しております。
将来的には、省エネと環境がイコールになるような気がします。いずれどちらかを望んでどちらかを捨てるという時代でなくなるかと思いますが、その時代に対応した一歩先行くパッケージエアコンだと考えています。
——最後に電材卸店、電気工事店の皆様にメッセージをお願いします。
依田 いまの換気とか安心・安全の問題に対して、当社も答えを出して流通の皆様と一緒に普及活動に取組むことを進めていきます。しかしながら、大きな話でいえば脱炭素とか、ビルでいえばZEBとか、住宅でいえばZEHといった取組みは今後拡大するものとみています。ZEBやZEHに関しては、創エネ・省エネ・蓄エネとセットになると思われます。蓄電との組み合わせや創エネとの組み合わせなど、ユーザーの皆様のメリットとなるものがどんどん出てくることが想定されます。
そうなりますと、単品商品でご商売をされるのではなく、電材卸店さんが最適なパックをセッティングしたり、ユーザーの皆様と直接付き合いのある電気工事店さんが提案されたり、あるいはどのように工事をするのかということで、電材卸店さんも電気工事店さんもユーザーの皆様と綿密な打ち合わせが必要になります。当社としましても、ヒートポンプや換気の商品を通じて提案の幅を広げるためのお役に立ちたいと考えています。
当社としましては、これからも価値のあるさまざまな商材を世に出したいと考えておりますので、電材卸店、電気工事店の皆様とは各地域でこれからも強力なパートナーとして一緒に取組みたいと思います。
——ありがとうございました。
石井副本部長㊨と