加藤康次アイホン新社長に聞く

新しい技術・サービス開発へ
従業員全員が経営理念や歴史を共有

4月1日、アイホンの新社長に加藤康次氏が就任した。同社初のプロパー社長として今後どのように舵取りをするのか、さらには電気工事業界や電材卸業界とどのような関係を構築するのかを聞いた。

――まずは、これまでのご経歴についてお聞きします。
加藤 私がアイホンに入社したのは、1986年になります。これまでアイホンでのほとんどを技術本部に籍を置き、開発の仕事にずっと携わってきました。
入社当時は、前年(1985年)に電電公社の民営化(現在の日本電信電話株式会社・NTT)にともない、電気通信事業への新規参入、および電話機や回線利用制度の自由化が認められたことを受け、電話機能付きインターホンを開発していました。私は、電話機の設計・評価を担当しておりました。当時は民間のマンションデベロッパー様よりも住宅・都市整備公団(現UR都市機構)様からの引き合いを多くいただいていたように記憶しています。
2000年ころからは、モニター付のインターホンが主流となり、私は、マンションやアパートなどに採用されていた集合住宅用インターホンシステムの開発業務に携わりました。当時の当社の主力商品でありましたシリーズ「DASH VHX」のプロジェクトリーダーを任され、お客様のため開発業務に勤しんでいたことが思い出されます。その後、2015年には1年間ではありましたが、海外の生産子会社である「アイホンコミュニケーションズ タイランド」の社長を務め、海外生産の管理、統括を行っておりました。
帰国後は、取締役としてアイホン株式会社の経営に携わるとともに、技術本部長として、主に新商品開発を管理してきました。

――社長就任を受けて、いまの率直な心境をお聞きします。
加藤 昨年10月に市川(周作)前社長(現会長)から社長就任を要請されました。正直なところ、創業家が2代続いていたこともあり次もその路線かと思っていたのですが、将来、会社としてどうあるべきかを一番に考え、私に社長を任せたいと言われました。
私は、この想いに感銘し「社長」という大変重要な役割を、お引き受けすることを決断いたしました。
これからは、会長である市川とともに経営の舵を取り、私に課せられたミッションを一つ一つ確実に実施してまいりたいと考えております。

――営業のご経験は。
加藤 新商品に関連することでお客様を訪問させていただいた以外は、経験としては、全くございません。そのため、当面、私は国内営業に注力し、海外営業は引き続き市川が担当します。

――電材業界での営業活動はお客様に足しげく通い続けることが重要でもあります。
加藤 これまで2代の社長が築いてきたお客様との関係を、さらに発展させていくのがトップである私の役目だと考えています。そのためには、まず、私自身がお客様との信頼関係をしっかりと構築し、当社商品が社会に貢献するためのビジネス提案を進めていくことが重要と考えております。
また、ものづくりの環境も今後、劇的に変化していく状況ではありますが、当社としては企業理念をしっかり持たなくてはなりません。当社の経営理念には「お客様」という芯が一本通っていますので、常にそれを念頭に新しいことに取り組みたいと考えています。

――電材業界においての位置づけは認識されています。
加藤 いまの事業だけをみればインターホンのリニューアル需要も好調で当社にとっては非常にありがたい状況ではございますが、新設住宅着工戸数をみたときに、現状のインターホンのままでは、売上げはこの先大きく増加していくことは望めないという話になってきます。カメラなどもいまやスマートフォンなどにとって代わられていますが、当社としてはインターホンを核とした新しい市場を見出していかなければなりません。
また、インターホン業界では、品質、保守メンテナンスがしっかりできるかという観点は切り離すことはできません。現在の地位に甘んじることなく、体制を維持拡充しながら、お客様の潜在ニーズを具現化し続けてまいります。

――これから、どのような意識を持って経営にあたるのでしょうか。
加藤 取締役として経営に携わるなかで、当社が世の中のニーズに応える新しい技術・サービスをどう開発するべきか考えるようになりました。
たしかに、いまの事業は売上げが伸びており、順調に見えるかもしれません。しかし私は、当社は変化をしていくことが重要であると考えております。このほど策定した中期の経営計画には、現状に対してどのように情報を共有し実行すべきか、また何を変えていくべきかについても言及しています。これからはいままでの事業と並行して新しい開発に取り組めるような力をつけなくてはいけないのですが、そうした考えを社内で啓蒙することも重要な責務となります。
営業に関しては、インターホンを販売していくだけではなく、ソリューション提案が不可欠です。お客様がどんなことに困っているのかを把握したうえで、その内容に対応するソリューション提案力を強化していく、専門メーカーとして当社は、その旗振り役を担わなくてはいけないと考えています。
これらを実行するには、当社従業員全員が今一度、経営理念や当社の歴史を共有していくことが大変重要です。当社は昨年、70周年を迎えることができましたが、この先100年を超えて持続していくためには、当社従業員のベクトルを合わせていく必要があると思っています。

――2018年度の業界を取り巻く経営環境・市場動向についてお聞きします。
加藤 国内に関しては、集合住宅のリニューアル市場や病院のリニューアルの需要がまだまだあると考えております。直近では、既設の賃貸アパートへの提案営業活動に注力し、専任部隊を設け、さらなる拡大を図ります。当社としては、今後も、集合住宅のリニューアルと新設集合住宅での当社商品の採用化活動をしっかり行ってまいります。
また、業務市場に関してもIPネットワーク対応インターホンシステムなど新商品を発売しております。業務市場は裾野が広いと考えており、今後の拡大に大いに期待をしております。
 ――海外市場はいかがでしょうか。
加藤 当社の海外市場での売上げは北米と欧州で約8割を占めるのですが、いずれもその売上高は好調に推移しております。北米ではセキュリティニーズが高まるなかでIPネットワーク対応インターホンシステムの売上げが大きな伸びを見せています。このIPネットワーク対応インターホンシステムは、他社の監視カメラなどとも連携がとれることから、積極的なソリューション提案を現在も進めています。
欧州では集合住宅や戸建用インターホンを積極的に展開しています。集合住宅に関しては、スマートフォンとの連携ニーズが高まってきており、当社としてもそこに応える必要があります。また、ITホームセキュリティの需要も拡大しつつあり、ソフトウェア機能をますます拡充していくことが求められています。
北米や欧州以外の地域については、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイなど、東南アジアでの市場を積極的に開拓していく必要があると感じております。

 ――今後の見通しについてお聞きします。
加藤 国内市場におきましては、新設住宅着工戸数は戸建・集合住宅ともに縮小していく傾向が予測されます。また、病院市場の新設着工件数も増加することは期待できず、高齢者施設等におきましても高齢者の増加で需要自体は拡大するものの、介護従事者の人員不足等により市場環境といたしましては厳しい状況が予測されます。
しかしながら、引き続き戸建・集合住宅ともにリニューアル需要は拡大することが予測されることから、戸建住宅では、ワイヤレステレビドアホンを中心とした新商品の投入を、集合住宅については、管理会社様との連携を強化し売上げの拡大を図っていきます。
一方、海外市場では、セキュリティニーズはさらに高まり、住宅市場、業務市場ともIPネットワーク対応商品のニーズのさらなる加速が予測されます。昨今、IoTやAIなど情報技術の進化が非常に激しくなっており、今後はそれが5Gの普及と共にさらに加速し、新たなサービスが生活の中に浸透し、生活のあり方そのものに、様々な変化が生まれてくることが予測されます。こういった変化を新たな成長の機会とするためにはそれらの技術を取り込み新たなサービスを創造する技術力が非常に重要となってきます。いまやインターホンは、住宅や病院をはじめ、様々な施設においてお使いいただき、多くのお客様との接点を持つ情報端末となっております。そのインターホンが進化することで、お客様の生活がより豊かになるような価値が創られる可能性は十分にあると考えております。

――新規事業などについてお聞きします。
加藤 第7次中期計画を策定するにあたり、ビジネスドメインを再定義しました。従来のものづくりに留まらず、コミュニケーションとセキュリティの技術とサービスを通して人々のくらしやはたらく人々の、「安心・安全・快適」「生産性と価値の向上」を提供していくことを提起しています。
当社の「NEW IXシステム」を核としたIPネットワーク対応インターホンによる新たな市場形成を目指しつつ、顧客嗜好をさらに推進するため新規事業への取組みを強化していきます。
また、住宅・病院・高齢者施設での保守ビジネスを推進する為に専任の推進担当を配置し、ナースコールシステムなど当社システムを長くご愛用いただくための保守サービスのご提案にも力を注いでまいります。

――最後に電気工事業界・電材卸業界に向けてのメッセージをお願いします。
加藤 我々製造業としては、工事店の皆様や電材卸商社の皆様とともに、交流を深め課題や情報を共有し、今後、めまぐるしく変化する環境の中で、業界にどのように貢献できるのかを考えることが大事です。リニューアルに関しては潜在する需要がまだまだ残っていると考えており、その需要をさらに掘り起こすことが可能です。需要の確保のためには何が必要なのかということについても、工事店の皆様や電材卸商社の皆様と連携を取りながら模索していきたいと思っております。
また、これからはIoTやAIといったデジタル分野への対応が不可欠であり、モノづくりを担う製造業と、施工いただく工事店様、そして両者をつなぐ電材卸商社様が同じ歩幅で、知識や技術、情報を共有しながら進んでいかなければならないと思っております。
今後、ホームネットワークやホームセキュリティがあたりまえの社会となるうえで、メーカーとして最終ユーザーの使いやすさを追求していくことは勿論のこと、工事店の皆様が施工・設定しやすい商品づくりに取り組まなくてはならなりません。
今後も継続して工販製の連携を強め、技術力向上、市場形成、後継者育成、新規事業へのチャレンジ等、更なる業界の発展に向けて一緒になって進めてまいりたいと考えております。
引き続きのご指導ご鞭撻を、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

――多忙のなか、ありがとうございました。

電材流通新聞2019年7月25日号掲載