トップインタビュー 新事業戦略㊤ 矢崎エナジーシステムの矢﨑航社長

コロナも、矢崎らしく
20年6月期電線 減収増益、出荷 計画比2.6%増
20年6月下旬まで件名先物案件健闘

矢崎エナジーシステムの矢﨑航社長


矢崎エナジーシステムの矢﨑航社長はコロナ禍の状況について「20年6月末(58期)の通期当社全体の決算(タイ矢崎除く)は、減収増益になった。売上高割合が高い電線事業部門が減収増益になったのが影響した。また、出荷銅量は前期比並みで計画比2・6%増加となった。今年6月下旬までは件名先物案件が健闘するなどコロナ禍の影響をあまり受けず、銅量では業界水準を上回った。また、SFCC社設立に伴う再編やコロナ禍で、顧客に影響が及ばないようにフォローに取り組んだ。再編よりも、コロナ禍での顧客の色々なサービス依頼の方が多く、様々な顧客に対し一つひとつ丁寧に対応し、矢崎らしさを発揮できるよう尽力した」と述べた。次期に関しては「59期の電線事業の売上高は、前年度比10%未満の減に留めるため、社員一丸となって取り組む」と述べた。


―建販電線・ケーブル市場など御社を取り巻く情勢と今後の見通しは?

「20年6月末(58期)の通期当社全体の決算(タイ矢崎除く)は、減収増益になった。売上高割合が高い電線事業部門が、減収増益になったのが影響した。また、非電線部門の一部が、コロナ禍で減収だったのも左右した。

電線事業の減収は、コロナ禍よりも銅価下落の影響が大きかった。58期の出荷銅量は57期並みで計画比では2.6%増加となった。

当社の出荷銅量が業界水準を上回ったのは、今年6月下旬まで件名先物案件が健闘するなど、コロナ禍の影響をあまり受けなかったためだ。

7月以降、全国的に件名先物案件など電設系の需要が鈍くなり、さらに電材系の需要も伸び悩んでいる。従って、足下の建設電販分野を軸とした電線需要は、総じて鈍化している。東京オリンピック・パラリンピック案件が終息し、学校の空調整備もほぼ完了した。

首都圏の再開発などは25年頃まで継続しそうだが、20、21年度はその需要の端境期に入り、やや鈍化するだろう。

また、観光産業の建設投資や工場向け設備投資の抑制などがあり、楽観視できない」

タイは政情不安続く 市販分野がコロナで4%減も長期は成長

―タイの電線市場の見通しは?

「長引く不況でタイ市場の反応は、鈍い状態が続く。タイ矢崎の20年6月期末売上高は、市販分野において新型コロナ拡大の影響を受け前年度比4%減少し、売上高計画比で9%下降した。タイは、政情不安が電線需要に影響を及ぼす。そのため電線需要の踊り場が継続しそうであり、今期の業績向上は難しく、早急な政情の安定化に期待している。

ただ、長期的には、タイ経済は成長基調にあり、タイ矢崎も発展していくだろう。いずれにしても、いかなる情勢にも対処できるよう態勢を整えている」

 ―あらためて伺いたいが、国内事業へのコロナの影響は?

「顧客と社員の安全・安心を第一にビジネスを進めてきた。幸い、当社の新型コロナ感染者は、ゼロだった。地域によって比率は異なるが、リモートワークを実施してきた。現状、東京支店の出社比率は3、4割で対応している。58期の当社全体のコロナの影響は、4~6月に集中し、この間売上高で約5~6億円(全売上高の0.4%)減少した。事業部門別には、ガス機器と電線事業はほぼ影響がなかった。空調関係で環境システム事業部と、デジタコ等の関係で計装事業部が影響をこうむった。

今後、政府が打ち出した一連のGo To トラベル/Eatキャンペーンによって、計装事業部などの業績が上向くことに期待している」

再編よりもコロナ禍のサービス依頼多く一つひとつ丁寧対応

―昭和電線HDと古河電工の共同出資で発足したSFCC社が、建販電線の販売会社として4月から営業を開始したが、その影響は?

「SFCC社設立にともなう再編やコロナ禍によって、顧客に影響が及ばないようにフォローに取り組んだ。とりわけ、再編よりも、コロナ禍の異常事態による顧客の様々なサービス依頼の方が多かった。多くの顧客に対し一つひとつ丁寧に対応し、矢崎らしさを発揮できるよう尽力した」

―御社の58期通期業績(タイ矢崎除く)は?

「冒頭、一部触れたが、売上高1千467億円(前年度比6・5%減)、営業増益となった。減収は銅価の下落が最も大きかった。増益は、計装事業部門の補助金活用などが牽引した。うち電線事業部門は、売上高869億円(同4・8%減)と減収増益となり、銅価下落が大きかったものの、電設向けが健闘し出荷銅量は前年度並みだった」

59期通期では減収でも電線、営業増益に傾注電材店も積極サポート

 ―御社全体の21年6月末(59期)通期業績見通し(タイ矢崎除く)は?

「売上高は1千438億円(同1・9%減)で利益重視を推進する。当社では新型コロナが流行する前に事業計画を立てた。従って、計画比では同7~10%ダウンする見通し。電線事業部門は売上高830億円(同5・8%減)で、銅価変動を考慮した営業損益では、増益を目指す。

コロナの影響で7~9月累計の電線出荷量は、当初の計画比で7%減少している。同非電線事業は、計画比で10億円減少した。10月以降は、電線および非電線事業とも不透明感があるものの、電線を筆頭に下期は回復するとみている。出荷銅量は、全体では前年度比4%減、建販向けは同3%減を見込む。

建販分野における分野別の売上高割合は、電設が端境期のためやや減り、その分市販が増えるだろう。GIGAスクール構想向けには分電盤メーカーが繁忙かもしれないが、どの程度、電線の需要に繋がるか読みきれていない。

また、市販分野もコロナ禍で電材店の展示会が従来よりも減っている。ただ、リモート展示会を実施する電材店もあり、当社なりにサポートしている。いずれにしても、21年6月末(59期)の電線事業の売上高は、前年度比10%未満の減少に留めるため、社員一丸となって取り組む」

 ―御社の注力製品は?

「これまでの基本路線を変えずに、『やわらか電線』もしかり、顧客の現場にやさしく、喜ばれる製品を開発することにある」

(次号へ続く)

電線新聞 4219号掲載