脱炭素社会に向けた 企業への影響調査 帝国DB

脱炭素経営に不安の声も マイナス回答上回る

帝国データバンクはこのほど、脱炭素社会に向けた企業への影響についてアンケート調査した結果を公表した。脱炭素社会が与える自社事業への影響についてはマイナス回答がプラス回答を上回り、EVの普及が与える自社事業ならびに自動車関連業種への影響についてもマイナス回答が上回った。

■脱炭素社会の進展による事業への影響

炭素社会の進展は、今後の自社の事業にどのような影響があるか尋ねたところ、「プラスの影響」があるとした企業は14.0%と、2021年に実施した同様の調査から0.8ポイント減となった。一方、「マイナスの影響」とした企業は同3.4ポイント増の19.5%となり、マイナスの影響がある企業はプラス影響がある企業を5.5ポイント上回った。
他方、「影響はない」は、1.2ポイント減の33.8%だった。
プラスの影響があると考えている企業をおもな業種別にみると、「金融」が23.3%となった。また、「農・林・水産」(22.6%)や「電気機械製造」(22.3%)なども2割超だった。
一方、マイナスの影響では、ガソリンスタンドなどを含む「専門商品小売」(55.8%)が全体(19.5%)を36・3ポイント上回った。また「自動車・同部品小売」(42.2%)、「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(35.8%)、「運輸・倉庫」(35.5%)は全体より15ポイント以上高くなった。
企業からは、「脱炭素を踏まえた融資商品の設定など、取り組みが進みつつある」(金融/和歌山県)といった声が聞かれた一方、「脱炭素社会が進むにつれて、実際にどのような設備投資が必要になるかが不透明であり、設備投資を行う際の資金面においても不安であり課題でもある」(ガソリンスタンド/北海道)といった、先行きに対する不安感を述べる意見も聞かれた。

■EV普及による事業への影響

EVの普及は、今後の自社の事業にどのような影響があるか尋ねたところ、EVの普及が「プラスの影響」とした企業は前回調査から1.1ポイント減の12.3%であった。
他方、「マイナスの影響」とした企業は同1.1ポイント減の13.8%となり、「影響はない」は1.6ポイント増の42.3%であった。
プラスの影響がある企業をおもな業種別にみると、「電気機械製造」が29.8%と、全体(12.3%)を17.5ポイント上回った。また、「家電・情報機器小売」(25.4%)や「自動車・同部品小売」(22.9%)は全体より10ポイント以上高くなった。一方、マイナスの影響では、ガソリンスタンドなどを含む「専門商品小売」(50.8%)は全体(13.8%)を37.0ポイント上回った。また、「自動車・同部品小売」(43.1%)、自動車や自動車部品メーカーを含む「輸送用機械・器具製造」(39.8%)、「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(32.3%)などでもマイナスの影響があるとする企業が多い。
企業からは、「EV化のための部品開発をする顧客への装置を製作している。初めての仕様に挑戦している」(SW電源等製造/徳島県)といった具体的なプラス影響を示す声がある一方、「EV化にともない、取り扱いを終了する商品群が出てくる予定」(自動車部分品・付属品小売/大阪府)など、厳しい声も聞かれた。

■EVの普及による自動車関連業種への影響
EVの普及による「自動車関連業種」への影響に限定すると、「プラスの影響」とした企業は16.5%となった。一方、「マイナスの影響」とした企業は46.5%となり、全体(13.8%)を32.7ポイント上回った。他方「影響はない」は13.2%となった。
EVの普及が今後の事業拡大のチャンスと捉える企業の声は一部あがっているものの、電動化による部品の減少や設備投資・技術面での対応について懸念する声が、自動車部品メーカーといった川上産業から川下産業である自動車整備業まで、数多くあがっている。企業からは、「EV化については自社固有の技術で生産する部品が使われなくなる可能性が高い」(自動車部分品・付属品製造/和歌山県)や「自動車修理業にとってEVへの転換は、既存設備や技術等だけでは対応が難しく、設備投資やEVサービスパーソン育成等必要なことが多岐にわたる」(自動車一般整備/静岡県)などの声が聞かれた。こうしたなか、「自動車関連以外の取引先を開拓している」(自動車操縦装置製造/長野県)といった声にあるように、すでに対応を行っている企業もみられた。

■まとめ
調査の結果、脱炭素社会の進展により、14.0%の企業でプラスの影響があることが分かった。一方で、マイナスの影響があると考える企業の割合は前回調査より上昇した。特にガソリンスタンドなど化石燃料を取り扱う企業では先行きに対する不安の声が多くあがっている。
他方、EVの普及による影響については、プラスの影響とマイナスの影響があると考えている企業はそれぞれ1割超でほぼ同程度となった。しかし、「自動車関連業種」でみると、半数近くの企業がマイナスの影響があると捉えている。
国は省エネ・脱炭素に関する補助金制度の実施や技術開発・研究への公的支援を行うほか、CO2排出に課金することでCO2の削減を進める「カーボンプライシング」なども検討している。他方、消費者の間では環境に対する意識が高まる傾向にあり、いわゆる「エシカル消費」が主流化しつつある。企業はこうした市場環境の変化に対応するために「脱炭素経営」を取り入れていくことが必要不可欠であろう。

電材流通新聞2022年10月13日号掲載