【TDK】温度保護素子の使い方 テックノートを公開

テックノート
温度保護素子の使い方:チップNTCサーミスタ

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チップNTCサーミスタ NTCサーミスタは温度上昇とともに抵抗値を急減する感熱抵抗素子です。この性質を利用して、温度センサほか、過熱から回路を守る温度保護素子として利用されています。
TDKでは蓄積した材料技術と積層工法を駆使して、各種サイズのチップNTCサーミスタを提供しています。本記事では温度検知や温度補償など、温度保護素子としての応用例をご紹介します。

チップNTCサーミスタの特長

NTCサーミスタは、温度に対する電気抵抗が負の温度係数(NTC:Negative Temperature Coefficient)をもち、その変化率がきわめて大きな半導体セラミックスを利用した感熱抵抗素子です。この性質を利用して温度センサとして多用されるほか、温度検知や温度補償などの温度保護素子として利用されています。
温度補償(temperature compensation)とは、温度により特性が変動する電子部品や電子回路に対して、その変動を補正するように作用させることをいいます。たとえば、トランジスタや水晶振動子などを用いた電子回路は、温度変化によって動作が微妙に不安定になります。そこで、温度上昇とともに抵抗値が下がる性質をもつNTCサーミスタを回路に組み込むことで、安定した回路動作を維持します。

NTCサーミスタの形状にはディスク、SMD、ガラス封止ダイオード、樹脂封止被膜線などがありますが、温度保護素子として回路に組み込まれるのは、積層工法で製造されるSMD形状のチップNTCサーミスタです。以下に、温度検知や温度補償など、温度保護素子としてのチップNTCサーミスタの応用例をご紹介します。
※文中および図中のチップNTCサーミスタは、NTCサーミスタという略表記で記載しています。また、回路図は簡略化しています。

チップNTCサーミスタの応用例
応用例:スマートフォン/タブレットにおける温度検知と温度補償
応用例:モバイル機器のバッテリ充電における温度検知
応用例:マイクロコントローラの温度検知
応用例:LED照明システムの温度検知
応用例:HDDの温度検知
応用例:HDDヘッド書き込み時の温度検知
応用例:サーマルプリンタの温度検知
応用例:LCD(液晶ディスプレイ)の温度補償
応用例:水晶発振器の温度補償
応用例:半導体圧力センサの温度補償
応用例:半導体の熱保護

応用例:スマートフォン/タブレットにおける温度検知と温度補償

スマートフォンやタブレットには、温度検知用および温度補償用として多数のNTCサーミスタが使用されています。


図1 スマートフォン、タブレットにおけるNTCサーミスタ(温度検知用/温度補償用)の主な使用例
その基本回路は、NTCサーミスタと固定抵抗を直列接続した分圧回路です。CPUやパワーモジュールなど、発熱部近くに配置されたNTCサーミスタは、温度上昇とともに抵抗値を下げるので、分圧回路の出力電圧が変化します。この変化をマイクロコントローラなどに送り、回路部品を過熱から保護したり温度補償したりします。


図2 温度検知/温度補償の基本回路

応用例:モバイル機器のバッテリ充電における温度検知

スマートフォンなどのモバイル機器のバッテリパック(リチウムイオン電池)には、+端子と-端子のほかに、もう1つの端子があります。これはT端子などとも呼ばれる温度監視用端子で、内部にNTCサーミスタが搭載されています。バッテリの温度が上昇すると、NTCサーミスタの温度も上昇して抵抗値が下がり、上限充電温度を超えると充電制御ICにより充電を停止します。下図は、その基本回路例です。バッテリパック内の保護ICは、バッテリの電圧を測定し、過充電や過放電を防止します。
急速充電など、より正確な充電制御が求められる場合、周囲温度の測定用として、別のNTCサーミスタが充電制御ICに接続されます。


図3 モバイル機器のバッテリ充電における温度検知

応用例:マイクロコントローラの温度検知

スマートフォンなどのマイクロコントローラは、動作信頼性を確保するために過熱から保護する必要があります。下図はNTCサーミスタと固定抵抗を組み合わせたマイクロコントローラの温度保護回路例です。NTCサーミスタは固定抵抗RSと分圧回路を構成しています。過度の電流が流れると、NTCサーミスタの温度が上昇して抵抗値が減少し、マイクロコントローラの駆動電圧を抑制します。使用する回路部品は、小型SMDチップタイプのNTCサーミスタおよび抵抗器であるため、回路基板や発熱部に直接実装することで、効果的な温度保護が実現します。


図4 マイクロコントローラの温度検知

応用例:LED照明システムの温度検知

LED照明システムは低消費電力と長寿命を特長としますが、使い方によっては寿命が短縮したり、発光効率が低下したりします。
LED素子は発光層である半導体のPN接合面で発熱します。その温度をジャンクション温度(接合温度)といいます。LEDに流す電流を大きくすると光度が上がりますが、発熱量も増えてジャンクション温度が高くなり、寿命の短縮をもたらします。また、ジャンクション温度が低すぎる場合は、発光効率を低下させて光度を落とします。このため、LEDの最大効率を達成するには、最適温度で動作させる必要があります。
NTCサーミスタを回路に組み込み、LEDと熱結合させると、簡便な温度保護回路として動作させることができます。最適動作温度からのずれは、NTCサーミスタの抵抗変化として現れるため、LEDに流れる電流が補正されます。結果として、LEDの電力損失が低減するとともに、長寿命化も達成されます。


図5 LED照明システムの温度検知

応用例:HDDの温度検知

パソコンの記憶装置などに使用されているHDDは、温度に対して繊細な装置で、高温になるとエラーや故障を起こす可能性が高まります。このため、温度センサにより温度検知し、所定の温度以上になると、ファンで送風して冷却します。NTCサーミスタと固定抵抗を用いた温度検知回路の精度は、温度センサICを下回るものの、きわめて低コストで実現できるのがメリットです。下図は温度センサICからの置き換え例です。


図6 HDDの温度検知

応用例:HDDヘッド書き込み時の温度検知

HDDへのデータの書き込みは、記録ヘッドのコイルが発生する磁気で、プラッタ(磁気ディスク)の磁性膜に磁気記録することで実行されます。過度の書き込みはヘッドを発熱させ、ヘッド素子に悪影響を与えます。そこで、下図のようなNTCサーミスタを用いた温度検知回路によりヘッドに流れる電流を制御します。


図7 HDDヘッド書き込み時の温度検知

応用例:サーマルプリンタの温度検知

POSレジのレシートプリンタ、バーコード/ラベルプリンタなどには、感熱紙を印刷するサーマルプリンタが用いられています。サーマルヘッドの温度は印字濃度と相関し、温度が高いと濃くなり、温度が低いと薄くなります。そこで、検知したサーマルヘッドの温度に応じて、サーマルヘッドに送るパルス電流の幅を変えて電圧制御することで、一定の印字濃度を保つしくみとなっています。NTCサーミスタを用いた温度検知回路ブロック例を下図に示します。


図8 サーマルプリンタの温度検知

応用例:LCD(液晶ディスプレイ)の温度補償

スマートフォンやタブレットなどに使用されるLCD(液晶ディスプレイ)の液晶物質は温度依存性があり、周囲温度によってコントラストが変化します。このため、周囲温度に応じて駆動電圧を調整する必要があります。下図は、NTCサーミスタと固定抵抗を組み合わせた代表的な温度補償回路例です。


図9 LCD(液晶ディスプレイ)の温度補償

応用例:水晶発振器の温度補償

パソコンなどの電子機器で、基準周波数(クロック基準信号)をつくるのに、水晶振動子を用いた水晶発振器が利用されています。水晶振動子の温度特性は下図のグラフの曲線(赤線:温度補償なし)のように、基準温度(通常、25℃)を変曲点とする3次曲線を描き、発振周波数偏差(縦軸)が温度によって大きく変動します。そこで、低温領域と高温領域のそれぞれに、水晶振動子と逆の温度特性の補償回路を挿入することで発振周波数偏差を小さくします(青線:温度補償あり)。この補償回路はアナログ方式と呼ばれるもので、低温領域と高温領域の補償回路は、それぞれNTCサーミスタとコンデンサ、抵抗で構成されます。温度補償回路を内蔵した水晶発振器は、TCXO(温度補償型水晶発振器、Temperature Compensated Xtal Oscillator)と呼ばれます。


図10 水晶発振器の温度補償

応用例:半導体圧力センサの温度補償

家電機器、FA機器、車載機器などに、MEMS(微小電気機械システム)技術によって製造されたピエゾ(圧電)抵抗型の半導体圧力センサが多用されています。シリコン基板をエッチングして空洞状の薄い感圧ダイアフラムをつくり、圧力によって応力を生じる部分に、センサ素子となるピエゾ抵抗部(歪ゲージ)を4個形成し、それらをブリッジ状に接続したセンサです。気圧や水圧などによってダイアフラムに応力が加わると、センサ素子に抵抗差が生じるので、これをブリッジ回路の両端から電気信号として取り出します。
ピエゾ抵抗型の半導体圧力センサは、小型・高感度を特長としますが、センサ素子の圧力感度は温度によって変動するため補償回路が必要です。下図はNTCサーミスタと固定抵抗を組み合わせた補償回路例です。温度によるサーミスタの抵抗値の変化を利用して、半導体圧力センサに印加する電圧を変化させることで温度補償を実現しています。このほかにも、さまざまな補償回路が考案されています。


図11 半導体圧力センサの温度補償

応用例:半導体の熱保護

半導体は動作中に過度の温度から保護する必要があります。NTCサーミスタは、モジュールが取り付けられているヒートシンク温度を監視するために、パワーモジュール内部の基板上に配置されます(図12 )。NTCサーミスタの端子はコントローラのコンパレータに接続されます。NTCサーミスタの抵抗が設定値を下回ると、コントローラはすべての半導体の電力を減らしてパッケージ内の温度を下げます。
特に、パワーモジュールでワイドバンドギャップ半導体(GaNまたはSiC)を使用する場合、標準シリコンに比べて動作温度が高くるため、部品の実装方法を変更する必要が生じる場合があります。標準的なシリコンの場合は、はんだ付けや接着剤が適していました。しかし、ワイドバンドギャップ半導体を使用する場合は、焼結プロセスでコンポーネントをDCBに取り付ける(ダイレクト銅ボンディング)ことや、金、銀またはアルミニウムワイヤを用いたボンド接続で相互接続を実装することが必要になります。


図12 パワーモジュール内部の基板に実装されたSMD NTCサーミスタ

接合部温度に達したときにIGBTをオフにして、過度に高温になって損傷を受けないようにする必要があります。この温度制御は、IGBTパッケージに含まれるNTCサーミスタによって実行されます。


現在、多くの機器で半導体素子が用いられています。それらの機器の安定動作を行うための温度補償回路や、半導体素子が異常温度となったに警報を発生させるために用いられているのが、チップNTCサーミスタです。
半導体で構成される基板上に設置されているチップであり、半導体機器であればこの素子が使われていないことはないと言っても過言ではありません。
温度が上昇すると抵抗値が低下するという特徴的な特性を持っていることから、様々な用途に用いられています。
半導体を用いた回路は温度による誤動作を起こしやすいという特徴を持っています。
カーナビや工場の生産ラインなど幅広い用途に半導体を用いた制御を使用していますが、夏の暑い時期でも冬の寒い時期でも、安定した動作が行えているのがNTCサーミスタは設置されているからということになります。
また、太陽光発電設備などのパワー半導体では、規定の温度以上となると半導体素子が破損してしまいます。
これを防止するために一定温度以上となった場合に警報を発するためにもNTCサーミスタを用いた警報回路が構成されています。
半導体回路設計に重要な役割を果たす温度保護素子を、具体的な回路構成や使用例、計算式などを用いてわかりやすく解説しています。

公式プレスリリースはこちら: チップNTCサーミスタ:「温度保護素子の使い方:チップNTCサーミスタ」が公開されました。