【トップインタビュー】 住友電工・井上治社長

住友電工株式会社 代表取締役社長 井上 治氏

欧州53万V直流大案件、ジョインター増やし需要捕捉へ
車用WH1万人を増員、平角線は3倍に増産


住友電工の井上治社長は、「北海〜ドイツ南部等を結ぶ直流52・5万V陸上CVケーブル等の案件が複数ある。一連の案件は相当大規模で、技術対応できるのは(当社含め)世界で4社程度。当社は、みなと工場(日立市)に超高圧ケーブル設備を新設するなどコスト競争力向上を図った。同時にジョインター育成センターの開設を進めるなど、一連の需要捕捉に動いている」と述べた。また、井上社長は「自動車WH市場で当社シェアは、22%で世界№1。さらに22FYには18FY比2ポイント増の24%を目指す。WH受注増に応じこの2年、全世界で毎年約1万人ずつ増員し、加えて東南アジア、北アフリカ、メキシコ等の新拠点立ち上げで20FYも約1万人ほど増えそう」とした。同社は、自動車の電動化に向け平角巻線の増産を中国やタイで進めており、22年頃には全体の同生産能力は、現状の3倍になる見込み。


 —御社の電線事業等の取組は?
「電力ケーブル市場は、国内では老朽化更新需要が堅調、海外は欧州を軸に大型案件が旺盛なほか、アジアでも島嶼間を結ぶ電力海底線の案件があり活発だ。
その中で当社は、国内では大型陸上風力や洋上風力発電など再生エネルギー案件の需要捕捉に注力している。当社が電力ケーブルを、子会社・日新電機は変電設備を、同・住友電設は敷設工事を、それぞれ担当。三位一体で電線と変電設備との高い親和性や高い技術力等の総合的な強みを活かしソリューション展開する。
一方、海外では、北海の洋上風力発電の電力をドイツ南部まで送る直流52万5千V陸上CVケーブル等の案件がある。欧州では、こうした大規模な案件が複数あり、一案件だけでも相当のケーブル長(量)になる。技術面で一連の案件を受注できるのは、世界で4社ほどに限られる。案件が大掛かりなので、落札まで1年は掛かりそう。また、それもあり、当社は、超高圧ケーブル製造設備をみなと工場(茨城県日立市)に新規導入し19年から本格稼働させた。コスト競争力向上を図りながら、一連の需要捕捉に積極的に動いている」

 —電力ケーブルの接続作業者(ジョインター)の育成は?
「ジョインターが不足しているので、新人を採用し、その育成を急ぐ。当社・大阪製作所(大阪市此花区)横の住友電設跡地に『ジョインター育成センター』を21年夏頃に開設する」

20年の東京五輪後も建販電線需要に期待

 —建販電線への取組は、どうか?
「業界筋等によると東京五輪後も、人手不足等で工期が遅れた案件、都市再開発のプロジェクトや万博絡みの案件が控え建販需要が堅調に続くことに期待したい。適正利益確保を主眼に、そうした受注獲得に力を注ぐ」

 —光ファイバなど情通分野への取組は?
「汎用光ファイバは、中国での価格下落をきっかけに、グローバルで値崩れを起こし、需要量も減っている。一方、データセンター(DC)向け超多心光ケーブルや光海底線などの高機能製品市場は拡大しており、当社光ファイバ事業は、汎用品の鈍化や価格下落を高級品の受注増でカバーしている状態。一方、DC向け光回線機器やデバイスなどの売上は増え、光ファイバ事業が伸び悩んだ分を補っている」

 —御社の5Gへの取組は?
「5G携帯電話市場の進展で携帯電話の基地局用途に、GaN(ガリウムナイトライド)デバイスの受注が19年初頭から急増している。基地局の小型化、低消費電力化にともない、効率特性に優れたGaNデバイスが採用された。基地局アンテナにGaNデバイスが60以上搭載されている。このため情通の収益が急回復。今後グローバルで5Gの基地局投資等が増える潮流にあり、当社もGaNデバイス関連の設備投資を増やす。
GaNデバイス関連製品は、生産が需要に追いつかない状態。生産ラインの増強を進めている。5G用M—MIMO向け製品の全体的な生産能力は、20FYには17FY比で約10倍になるだろう」

5G用GaNデバイス生産能力20FYに10倍

 —御社の自動車事業の展開は、どうか?
「調査会社によれば、19CYの世界自動車生産台数は、米中摩擦等もあり例年になく前年比で減少する見通し。一方、当社の19FYの自動車用ワイヤーハーネス(WH)受注量は前年を上回った。WHの受注は、数年先の車種が対象なため今後、数年は毎年3〜5%ずつ伸びる見通し。ただ、研究開発が約100億円増えたうえ、一部WH製品の生産立上げコスト増などで19FY上期の収益は鈍化した。その状況において、(22年度を最終年度とする)中計の22ビジョンで定めたとおり、WHをコアに自動車関連事業でメガサプライヤー(売上高2兆円以上など)を目指す」
—御社のWHシェアは、どうか?
「(総重量6㌧以下の車両台数でみた)世界のWH市場における17年の当社のシェアは、中国独資を除けば約27%、中国独資を含めると22%で世界№1といえる。今後は、新規顧客の開拓を一層推進し、拡販を進め、22年には18FY比2ポイント増の24%を目指す。現状の割合は日系3対非日系2で日系、欧米系、中国独資系とも増える見通し。
製造面ではWHの受注増等に応じて、この2年ほどで全世界で毎年約1万人ずつ増員し、全体的に拠点も伸長している。さらに東南アジアや北アフリカ、メキシコ等の新拠点の立ち上げがあり、20FYも1万人ほど増えそう。主な増強は①東南アジア、②北アフリカと③メキシコ。
①東南アジアでは、20年秋以降に比国で2工場を新たに立ち上げる。工場を建設中で、社員数は2工場合計で数千人規模になる。さらにベトナムで、既存工場の増強を進める。両国拠点とも対象顧客は、北米の日系。
②北アフリカはチュニジア、エジプト、モロッコの3カ国で工場を拡充する。チュニジアでは2工場を新設し、エジプトと合わせて21FY以内にも、数千人規模の増員も考えている。いずれも欧州の顧客向けとなる。
③メキシコは、特に北米の非日系顧客の増産に備え、5拠点(シナロワ、トレオン、ファーレス、アグアスカリエンテス、ナヤリ)を軸に、昨年から工場と人員を拡充し、生産能力の増強を図っている」

環境エネで目標1兆円ポスト自動車用WH

 —アルミワイヤーハーネス(AlWH)への取り組みは?
「現状、新規立上車両ベースで、当社WHのうちAlWH回路の割合は、20%強。25FYには60%程度(うち0・75以上標準Al電線45%、0・5以下高強度Al電線15%)を目指す。
AlWH用アルミ電線ケーブルは、そのアルミ導体を富山住友電工とタイ拠点で製造し、生産能力アップは一段落した。この導体を用いタイ・ベトナム拠点等でアルミケーブルを製造している。アルミケーブル増産に向けベトナム拠点(住友電装)にて現在、新工場の建屋を建設中である。20FYには新工場が稼働する予定で、同生産能力を従来比約1・5倍にする計画」

—ポストWH・自動車事業への取組は
「環境エネルギー関連事業をポストWH・自動車事業(内訳=巻線、電力ケーブル、荒引線、住友電設、日新電機)と考えており、これで売上げ規模1兆円を目標にしている。環境エネ事業のうち巻線事業が、期待分野の一つになっている」

 —巻線への取組は?
「自動車の電動化向けに平角巻線事業に傾注している。住友電工ウインテックの信楽事業所は、フル稼働なうえ設備が満杯なため、中国・常州に新拠点を建設中であり、21年に稼働を始める予定。さらにタイ拠点でも車載用平角線を増産しており、21FY中に全機稼働する計画でいる。中国の新拠点が立ち上がる22年頃には、全体の同生産量を現状比約3倍に引き上げる。また、丸線も現状通りに製造を続ける」

 —それ以外の期待事業分野は?
「先に挙げたGanデバイス事業のほかに、タブリード線もある。これはリチウムイオン電池などから、電気を取り出すためのリード線。導体に直接表面処理をし、耐久性に優れている。さらに熱変形を抑制した絶縁層を備え、高い絶縁・封止信頼性を実現した。今後、電動車用に需要拡大が見込め、増産した」

 —設備投資は?
「19FYは全体で約2千億円。内訳は、各部門とも注力事業を軸に自動車1千億円強、情通が240億円、エレ事業160億円、環境エネは270億円となっている」

——御社の20年度の最重要課題は?
「17FYをピークに収益が落ちているため、収益力の改善にある。これに全社員が一丸で取り組んでいきたい」

電線新聞 4187号掲載