日本電機工業会(柵山正樹会長、JEMA)はこのほど、電機業界の今後の取り組みについて取りまとめ、発表した。
2017年度電気機器の状況
2017年度の重電・白物家電機器を合わせた電気機器の国内生産は、5兆6797億円、前年度比106・0%と2000年度以来の水準となった。
重電分野は、IoTを含めた生産設備や自動車・スマートフォン向けの電子部品・半導体の需要増などを背景とした国内及び中国を中心とするアジアでの旺盛な設備投資を受け好調に推移し、3兆7580億円、前年度比108・3%となった。
白物家電分野は、消費者の省エネ・高付加価値製品に対する関心が継続したことから堅調に推移し、1兆9217億円、前年度比101・7%となった。
電機業界の今後の取組み
JEMAは本年5月に創立70周年という節目の年を迎えた。直近10年間だけを振り返ってもリーマンショックや東日本大震災など、100年に一度といわれる歴史に残る大きな出来事があった。今や電機業界は、IoTやエネルギー環境分野における新たな事業創出などを展開することによりさまざまな課題を乗り越え、次の10年を展望し、更なる歴史を創り出そうと歩みを進めている。
2018年度の世界経済は、海外の政治・経済の不確実性に注意が必要だが、中国の安定的な成長、米国・ユーロ圏等の先進国の着実な回復など、全体として緩やかな回復基調が継続するとみられる。わが国経済についても、世界経済の回復を受け、外需や設備投資を中心に緩やかな回復が続くとみられている。このような背景の下、わが国電機産業は引き続き堅調に推移する見通しである。
中長期的な観点からは、日米欧を中心に、世界的なIoTやIndustrie4.0の動きの中で、わが国として目指す超スマート社会(Society5.0)と、それを実現するための産業のあり方(Connected Industries)を具体化させる動きが加速することとなる。この動きは、電機業界自体の事業・ものづくりの革新を生み出すと共に、新たな製品・サービスの創出・提供につながると期待される。
重電分野は、国内では今夏見直しが予定されている「エネルギー基本計画」に基づき、「主力電源」と位置付けられる再生可能エネルギーの導入拡大をはじめ、引き続き「重要電源」である原子力の利活用・新増設、より高効率な火力発電所の新増設又はリプレース、省エネルギー製品の普及などが見込まれ、今後も堅調な需要が期待される。グローバル市場では、厳しい受注環境が続くものの、新興国を中心に、旺盛なエネルギー需要を背景とする市場拡大が続くと予想される。
白物家電分野は、国内では、消費者のニーズを的確に捉えた付加価値の高い製品や省エネ性能の高い製品の堅調な需要が見込まれ、グローバル市場においても新興国の需要拡大は継続するものと考えられる。また、エネルギーマネジメントの観点からスマートハウスやHEMSに対応した製品や、IoT時代のスマートホームを構成するスマート家電も、今後新たな需要を創出していくことが期待される。
このような状況の中、今後は、「電機業界の持続的成長戦略の推進」、「エネルギー・環境戦略の推進」、及び「新たなものづくり、サービス産業の創出の推進」を重点項目と捉える。
1、電機業界の持続的成長戦略の推進
①新たな経済社会の実現を目指すSociety5.0推進のもとでの電機産業のイノベーション創出、人口減・高齢化に対応し、安全・安心、快適、健康な社会実現の中での電機市場拡大(世界に先駆けた社会システム実現構想の下、電機産業として世界を牽引する技術・付加価値の提供)
②わが国財政健全化に向けた着実な推進、及び国内で生産を維持するための環境整備の提言
消費増税を実現できる経済環境実現、デフレ脱却の確実な実現と金融緩和政策の出口えた戦略策定、電力安定供給・低廉な電力料金の実現、働き方改革と将来的な労働人口減少対策、研究開発促進税制拡充などを含む税制改正、サイバーセキュリティ対策強化など
③グローバル市場の旺盛な需要取込みのための戦略的施策に関する提言・推進
TPP11、日EU、EPA、RCEPなど各国情勢をみつつ基本的にグローバリズムの堅持による経済連携を実質的に推進し、貿易摩擦回避へ注力。インフラシステム輸出推進・面的展開、官民連携した国際標準化強化、世界各地域のニーズに応じた付加価値を提供することでの電機産業のグローバル展開推進など
2、エネルギー・環境戦略の推進
①2030年度長期エネルギー需給見通し・地球温暖化ガス削減目標の確実な実現、エネルギー基本計画の見直しと 2030年度以降2050年度を見据えた中長期エネルギー政策に対する意見発信
② エネルギー・環境戦略に対する電機産業としての推進
a、省エネルギーの更なる推進:電気機器トップランナー制度など高効率・省エネルギー機器開発促進・普及、業務・家庭・運輸部門における省エネルギーに対する電機産業としての貢献
b、再生可能エネルギーの導入拡大のための取組み:最大限の導入と国民負担抑制とを両立させるFIT制度の見直しや、主力電源化に向けたコスト低減・長期安定電源化のための導入拡大策、規制改革への継続的検討と意見発信、並びに技術開発・国内外標準化の推進
c、火力発電の高効率化、次世代火力発電システム開発・実証・商用化加速とインフラ輸出に向けたグローバル展開
d、原子力発電の安全対策を踏まえた再稼働加速、長期エネルギー需給見通しを踏まえた新設・更新の必要性への理解促進、ならびに、自律的・継続的な安全性向上を目指した仕組み作り(新組織を設立し、メーカーが原子力事業者・関係団体と連携して共通技術課題への対応策を検討)
e、電力システム改革の中、容量市場創設、再生可能エネルギーの最大限の導入に向けた広域運用・系統増強・費用負担などの検討、調整力確保など電力安定供給を確保し長期エネルギー需給見通しを実現する制度設計への意見発信
f、新たなエネルギーシステム構築への取組み:エネルギー・リソース・アグリゲーションビジネスの立ち上げ、需給調整市場の創設、バーチャルパワープラント実現のプラットフォーム構築などの推進
③地球温暖化対策計画に対する電機産業としての推進
2030年わが国の地球温暖化対策計画、温室効果ガス削減目標の実現に向けた電機業界としての貢献、電機業界の「低炭素社会実行計画」の着実な推進、2030年以降の長期戦略策定への意見発信
④強靱で高品質かつ環境負荷低減を徹底的に追求したエネルギーインフラ構築、付加価値が高く環境に貢献する電気機器・システムを開発し、提供し続けることで、世界をリードする高いエネルギー効率社会実現の推進
3、新たなものづくり、サービス産業の創出の推進
① IoT、Industrie4.0の世界的な動きの中、わが国として様々なつながりによる新たな付加価値が創出される産業社会:Connected Industries実現への貢献
ものづくりの変革と製造業の革新に対し、政府・関係団体・研究機関及び海外の関係団体との連携による具体的進め方の立案、実現の推進
4月19日、JEMAはIVI〈インダストリアル・イニシアティブ・バリューチェーン〉との連携・協力を推進するための協定を締結
②将来の製造業(スマートマニュファクチャリング)を実現するためのプラットフォームの構造検討、プラットフォームのなかのモジュール化の検討、実現のための先行事例の推進
JEMAでは、プラットフォームとして「フレキシブル・ビジネス・アンド・マニュファクチャリング:FBM」を提案
③製造業における企業間の協調領域と競争領域の明確化、協調領域における電気機器(モータ等の動力機器、製造ラインの制御機器、エネルギー監視機器など)に関するIoT対応方式の提案、先行事例の推進
④世界、わが国での先行事例を踏まえた国際標準化、認証戦略の立案、標準化活動への参画
⑤IIFES(旧:システム コントロール フェア〈SCF〉/計測展TOKYO)における展示・セミナー、及び提言書「2017年度版製造業2030」など、日本発のものづくりの革新に関する情報の国内外への発信
分野別の具体的な取組み
1、重電分野
①世界をリードするわが国の高効率、低環境負荷、及び高品質な重電技術を更に強くする革新的エネルギー・環境技術・製品の開発、国内での実証・普及、及びグローバル市場への展開
②スマートコミュニティ、スマートグリッド、デマンドレスポンスなど、再生可能エネルギー・蓄電システムを含めて構成される地域全体・需給システム全体での最適エネルギー管理・運用ビジネスの拡大
③電力システム改革における高品質かつ低廉な電力の安定供給を可能とするシステム機器の対応及び電機産業ビジネスとしての展開
④インフラシステム輸出の強力な推進と面的展開:エネルギー・環境戦略に関する継続した各国との信頼・協力関係構築のもと、わが国の高性能、低環境負荷、高品質な重電システムのビジネス拡大
⑤産業システム・機器の高効率化・環境負荷低減としてトップランナー変圧器・モータなどの普及・促進、定置用蓄電システムの適正処理・リサイクル回収スキーム構築
⑥電力技術研究、インフラシステム保全、制御システムセキュリティ、サイバーセキュリティ対策強化の推進
⑦PCB廃棄物の合理的処理・処理推進に対する協力
2、原子力分野
①福島第一原子力発電所事故の収束に向けた廃炉・除染・汚染水の対策及び福島復興への最優先での支援
②産業界としての原子力に対する自律的・継続的な安全性向上への取組みを強化するための仕組み作り
③原子力発電、核燃料サイクル、放射性廃棄物処理・処分に関する理解促進活動の推進
④わが国の長期エネルギー需給見通しの実現及び原子力の基盤技術・人材の維持に不可欠な原子力発電所のリプレース・新増設及び原子力損害賠償制度等、原子力事業の環境整備についての意見発信、国への要望・提言
⑤ウラン資源有効利用や放射性廃棄物の減容・有害度低減の観点から重要な、高速炉技術開発の継続を含む核燃料サイクル政策の維持、放射性廃棄物処分の現世代における道筋の確立に向けた提言
⑥原子力発電を推進する海外諸国・地域に対する福島第一原子力発電所事故を踏まえた、わが国の原子力技術提供の推進と、それに係る国への要望・提言
⑦放射線利用医療機器の普及及び輸出の促進(原子力応用技術の医療分野への適用)
3、白物家電分野
①環境配慮、エネルギー利用の最適化、消費者ニーズを実現する製品創出と市場拡大
(1)スマートハウスの構成要素の一つであり、家庭におけるエネルギー利用の最適化と消費者の利便性を実現する HEMSに対応した製品群や、IoT時代のスマートホームを構成するスマート家電としての製品群
(2)環境をキーワードとした、リサイクル技術と環境配慮設計による製品群
(3)美容家電、高機能調理家電など消費者のニーズを捉えた製品・高付加価値製品群
②グローバル市場における各地域の文化・生活・習慣・価値観にマッチした製品開発と拡販
③トップランナー家電等、省エネ機器の普及促進
④循環型社会構築の中で、家電リサイクル法の着実な推進・回収率向上など課題への対応、及び使用済み小型家電機器リサイクルの円滑運営への対応
⑤家電事業のグローバル展開での課題把握と対策、各国工業会との連携強化
4、新エネルギー分野
①再生可能エネルギーの最大限導入と国民負担の抑制を両立させるFIT制度の見直しや主力電源化に向けたコスト低減・長期安定電源化のための施策への継続的意見発信、並びに規制・系統制約/立地制約などの課題に対する意見発信・提言
②太陽光発電・太陽熱発電・風力発電・燃料電池発電の導入課題への取組み、並びに規格化・標準化の推進、技術基準及び認証制度への対応
③太陽光発電等の分散型電源の系統連系課題への対応のため、技術規定の整備、認証制度への反映などを関係機関と連携して推進
④IoTを活用した電力取引システム、バーチャルパワープラントなど、再生可能エネルギー・省エネルギーを融合した新たなエネルギーシステムの構築や、新ビジネス創出、技術実証、エネルギー機器の通信規格の整備などに向けた取組み
5、地球環境保全活動
①電機業界「低炭素社会実行計画」の着実な推進と政府「地球温暖化対策計画」への貢献に向けた、生産プロセスに係る「エネルギー原単位改善率年平均1%」の進捗管理、製品・サービスによるCO2排出抑制貢献量に係わる対象製品の追加・拡大と主体間連携を含む実績のアピール、政府審議会フォローアップへの報告、2030年以降を見据えた長期取組みの方向性検討
②RoHS・REACHなど欧州・中国等の化学物質規制への対応、事業所関連揮発性有機化合物
(VOC)排出抑制自主的取組みの推進等、国内外の化学物質関連法規制見直し・改正への対応
③産業廃棄物最終処分量の削減や資源循環の質の向上に向けた、「循環型社会形成自主行動計画」の推進、即ち、2020年に向けて、「最終処分量:2・5万t以下/最終処分率1・8%以下」の目標達成に向けた着実な推進とフォローアップ、及び、廃棄物処理法改正を中心とした国内環境関連法規制対応
④製品のライフサイクル環境影響評価を通じた環境配慮設計の促進、及び、国際標準化の推進、即ち、製品のグリーン購入に係るライフサイクル環境影響評価や情報開示の検討、欧州及び各国・地域の環境配慮設計規制への対応、IEC・ISO共同WG「環境配慮設計国際標準規格」の開発をWG幹事として主導
⑤生物多様性保全における会員企業への普及啓発・活動推進支援や各主体との連携・コミュニケーションの充実、新たな国際動向・課題への対応
6、国際標準化推進・国内標準化の強化
①日本の製品、システム等の優位性を正当に評価する国際規格化の推進、事業戦略に基づくルールメーキングを軸とする新たな標準化を推進する人材の育成、認証基盤整備、アジアを中心とした規格の適応、普及促進活動と支援事業など、官民が協力する国際標準化の推進
②高電圧試験分野など世界に通用し国内での試験を可能とする試験・認証機関構築
③世界的に導入の進む新エネルギーの国内産業振興と普及基盤の構築、さらに安全・品質確保のための日本主導の早期国際標準化と認証基盤の構築
7、共通技術基盤強化、その他
①電気用品安全の推進(電安法体系見直し・安全JIS整備への協力)
②長期的な理科系人材育成を目的とした小学校理科教育支援推進
③電機業界の人材確保のための大学生向け電機業界説明会の開催
8、製品取扱時における安全啓発活動
①電気設備機器の保守及び設備診断受診に係る啓発活動の推進
②制御システムセキュリティ、サイバーセキュリティ対策強化の推進
③家電製品の上手な・正しい使用方法、及び事故未然防止のための啓発活動を、JEMAウェブサイトやチラシ、地域セミナー等を通じて実施
9、表彰事業
①JEMA会員を対象に、毎年実施している「電機工業永年功績者表彰」ならびに「電機工業技術功績者表彰」を推進すると共に、政府等、他機関表彰への推薦または審査について協力
10、3支部(大阪・名古屋・福岡)の活動
①本部方針に基づきJEMAの役割・機能を各地域に展開し、地域の電機業界の発展、消費者生活の向上に貢献するため、家電製品の安心・安全啓発講座や地域行政機関との意見交換会等、 地域に立脚した事業活動を積極的に実施
11、統計・調査事業
①重電、白物家電業界の市場動向把握と活用のため、官庁統計、自主統計、関連業界団体等の国内統計に分析を加え、統計情報として会員企業に提供。一般向けにも情報を発信中
12、IIFES(旧システム コントロールフェア〈SCF〉/計測展TOKYO)
①ファクトリーオートメーション(FA)分野をはじめとする広く産業界の最先端技術・情報が集う場を提供し、出展者、来場者、主催者間相互のバリューコミュニケーションの創造を実践