ロボットメーカーの動向インタビュー ABB RA事業本部長 中島 秀一郎氏

ABB RA事業本部長 中島 秀一郎氏

車基盤に物流・医療も注力 電動化でWH組込増に期待


ABBの中島秀一郎ロボティクス&ディスクリート・オートメーション(RA)事業本部事業本部長兼ロボティクス事業部事業部長は、グローバルの中長期戦略について「車・部品生産ライン向けを基盤に物流・医療にも注力する。従来、自動車等工場内の設備投資が中心だったが、今後は物流・医療分野向けなどが増え、将来的にこの割合が同等になるとみている。また、車が電動化すると、生産工程が変わる。WHの組み込み工程が増えるだろう。さらにWHの組立てライン向けにもロボットの需要増が見込める」とし、国内設備投資需要は、「20年7月以降に需要が回復するのではないか」と述べた。


—ロボティクス事業部の役割は?
「当社は、電気自動車向け充電インフラなどを製造販売するエレクトリフィケーション事業、制御システムや計測機器などを扱うインダストリアル・オートメーション事業、発電機とモータなどを製造販売するモーション事業、ロボティクス&ディスクリート・オートメーション事業の4事業本部で構成され、世界100カ国以上で社員数は約14万7千人に及ぶ。
ロボティクス&ディスクリート・オートメーション事業本部は、ロボットなどを製造販売するロボティクス事業と、設備機械コントロール向けのPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)を製造販売するディスクリート事業を担う。両事業部の18暦年地域別売上構成は、欧州5割弱、米州1割強、アジア・中東・アフリカ4割弱割となった。
ロボティクス事業部は、世界53カ国に100以上の販売拠点を構え、社員数は5千人以上。ロボットの製造拠点は、中国・上海、スウェーデン・ヴェステロース、米・ミシガン州の3工場で構成している。上海はアジアの顧客向け、ヴェステロースは欧州向け、ミシガンは北米・中南米向けを担う。用途別売上高の割合は、自動車・自動車部品が6割、エレクトロニクスや三品事業などが残りの4割を占める」

国内の自動車、電子部品、三品市場開拓

—日本法人の役割は?
「自動車・部品、電子部品、三品(食品・医療品・化粧品)市場の新規開拓を担っている。国内の展開は、営業所5拠点、開発1拠点(静岡県の島田テクニカルセンター)、顧客向けデモ・試験などの役割を持つアプリケーション・センター2拠点(東京の東日本センターと愛知県の中日本センター)で組織的な戦略を進めている。アプリケーション・センターは、東日本は実証テスト、中日本は顧客へのデモを主眼とする。国内の社員は約150人。
当社製ロボットの特長は、ハードとソフト両面で豊富なラインナップがあり、生産ラインに一括で提供できる点にある。ハード面は、垂直、多関節、パラレルリンク、協働、スカラなど全ての品種を揃え、多関節単体、グリッパー、塗装、カメラなどアプリケーターもある。また、ソフト面は、ロボットを実装した生産ラインをシミュレーションする『RobotStudio+PowerPac』やピッキング用途に特化した『PickMaster3』などがある」

—御社ビジネスを取り巻く市場動向は?
「グローバルのFA・ロボット市場は、米中貿易摩擦などの影響を受け、縮小傾向が続く。特に中国・東南アジアに軸を置くロボットメーカーは大きく影響を受けたとみられる。
この環境下、当社は中国への依存度が低いため、市場の落ち込みほど影響を受けておらず、持ちこたえた。
国内は、自動車分野では自動車・自動車部品向け塗装分野を主軸とし、三品分野では特に食品分野に実績を積んでいる。ロボットの市場動向と連動し、全体の受注数が減少したが、自動車部品、三品の引き合いが増え、特に食品分野は人材確保の難しい中小メーカーが多く、自動化の設備投資が堅調に推移した。
ロボットの国内設備投資需要は、来年の7月以降に回復するのではないかとみている。国内の労働人口は確実に減少しており、長期的には労働力を代替する自動化が必要になる。昨年は、過度な設備投資もみられたが、その調整が済むと設備投資は回復してくる。これにともないFA・ロボットケーブル需要も伸びてくるだろう」
—御社のグローバル19暦年第3四半期(19年1〜9月)連結業績は?
「20年に売却するパワーグリッド事業を除く当社のグローバル19暦年第3四半期連結業績は、売上高209億1千万㌦(前年同期比3・2%増、1㌦108円換算=2兆2千750億円)、営業利益12億9千万㌦(同33・8%減、1千405億円)となった。ロボティクス&ディスクリート・オートメーション事業本部は、米中摩擦などの影響でアジアが減少し、減収となった」

—御社の中長期的戦略は?
「25暦年の世界ロボット市場は1千300億㌦(国際ロボット連盟調べ。18暦年対比62・5%増、約14兆円)でアジアが大きく増加するとみている。自動車・部品生産ライン向けを基盤に物流・医療にも注力する。従来、自動車の生産ラインなど工場向けの設備投資が中心だったが、今後は物流・医療など工場外の設備投資が増え、将来的にはこの割合が同等になるとみている。特に病院は人手の作業が多く、ロボット導入の余地がある。また、自動車が電動化すると、生産工程が変わる。エンジン組立て生産ラインが不要になるため、モータやバッテリを組み込む作業のみになる。ただ、搭載量が増えるワイヤーハーネス(WH)の組み込みの作業工程が増えるだろう。さらに、WHを含む電装品の組立てライン向けにも、ロボットの需要増が見込める」

ロボットがロボット造る中国工場、21年操業

—御社の研究開発・設備投資は?
「アジアの需要伸長を見据え、当社は19年9月、上海近郊の康橋(カンチャオ)の工場建替え工事に着工した。約1億5千万㌦を投資し、敷地面積6万7千㎡の新工場に建替える。操業は21年に開始する予定。新拠点は、全てのロボットモデル(垂直、多関節、パラレルリンク、協働、スカラなど)を製造し、生産能力を倍増する。さらにAGV(無人搬送車)が生産ロボットに部品を供給し、そのロボットがロボットを製造する最先端の工場となる。AIなどの研究開発を行うR&Dセンターも工場内に新設する。
また、医療分野では10月、テキサス州ヒューストンのテキサスメディカルセンターのキャンパス内に、世界初となる医療技術開発拠点を開設した。この拠点では、臨床研究や物流業務を支援する双腕型ロボット『YuMi』をAGVに搭載し、移動しながら医薬品の調製、遠心分離機への装填・取り出し、液体の抽出、試験管のピックアップを行う。
国内では、アプリケーション・センター中日本で、自動車・工作機械向けの実証テスト機を増やした。一方、東日本は『YuMi』やパラレルリンクなど小型ロボットでのデモを中心に行い、ラインナップを充実させている」

—御社の最重要課題は?
「先ほども述べたが、国内の設備投資需要は、来年の7月以降に立ち上がってくるとみており、それに向けて販売戦略を策定し、着実に実行していく」

電線新聞 4183号掲載