トップインタビュー 昭和電線ホールディングス 長谷川 隆代社長

建設電販  シェアより、適正な収益力の向上図る
昭和&古河5工場の生産品目再編にも着手

昭和電線ホールディングス 代表取締役社長 長谷川 隆代氏

昭和電線ホールディングス(HD)の長谷川隆代社長は共同取材の中で、「建設・電販向け汎用電線事業はシェアではなく、適正な収益力の向上を図る。古河電工の知見を合わせ、業務の標準化やシステム化を進める。そのため昭和電線ケーブルシステム(CS社)に加え、冨士電線などグループ全体で、新たな電線物流の取り組みを進めている。SFCCブランドの製品は、両社グループの5工場で生産し、配送距離や製造コストなどを鑑み工場ごとの生産品目再編にも着手することになるだろう。巻線は成長が見込まれ品質力が生かせる車載市場向けにかじを切る。巻線の製造を1社に集約し一気通貫でスピード感ある態勢を整えた。国内子会社のダイジは解散する方針だが、決してハーネス事業をやめるわけではない」とした上で、改革について「建販事業等の改革に着手してきたが、まだ道半ば。昭和電線グループの企業価値向上を図っていく、これからが本番と考えている」とした。


―御社ビジネスの足下の状況は?

「建販・電線向けは東京五輪関連の需要などもあり、19年は堅調に推移してきた。また、電力関連向けの更新需要等も堅調を維持している。

情報通信市場は、光ファイバの輸出単価が下落したままであり、これからの市場回復に期待している。

一方、5Gを念頭に置いた工場向けのインフラ整備需要等が見込まれており、高スペックのLANケーブルは堅調に推移するとみている。無酸素銅は健闘しているが、汎用巻線は設備関連向けが鈍化している。半導体装置向け需要の底打ち感は出てきたが、産業機械向けの需要は軟調が続く」

 ―古河電工との建設・電販用汎用電線の共同販社SFCCは、4月から業務が開始されるが、そうした再編の経緯についても伺いたい。

「SFCCは、20年4月からの開業に向けて着々と準備を進めている。足元の当社業績は、汎用電線を含むエネルギー・インフラ事業を軸に収益が出ている。

しかし、長期的な建設・電販向け汎用電線需要は、追い風になっていた東京五輪関連の特需が終焉を迎え、少子高齢化なども背景にあるため、事業環境の変化により情勢は楽観視できない。当社が生き残るためには、将来に備えた事業を育てるとともに、既存事業の収益基盤を強固にする必要がある。当社業績が回復し財務体質が改善する中で、私は社長に就任し、会社に必要だった改革を実行する機会をいただけたと思っている。その改革のひとつとしてSFCCを設立することを決断した。SFCCに限らず、様々な改革への取り組みはまだ始まったばかりであり、これから加速させていく。

建設・電販向け汎用電線事業はシェアの拡大ではなく、適正な収益力の向上を図る。古河電工の知見を合わせ、業務の標準化やシステム化を進める。そのため昭和電線ケーブルシステム(CS社)に加え、冨士電線などグループ全体で、新たな電線物流の取り組みを進めている。倉庫のレイアウトや自動化、在庫・切断・配送の効率化など将来に向けた展開を遂行している。SFCCブランドの製品は、両社グループの5工場で生産し、配送距離や製造コストなどを鑑み、工場ごとの生産品目再編にも着手することになるだろう。新システム導入や生産品目の最適化には、ソフト面でITソリューション子会社であるアクシオを活用していく」

成長見込め品質力 生かせる車載へ舵

―巻線事業への取り組みは?

「巻線については、成長が見込まれ品質力が生かせる車載市場向けにかじを切る。フジクラとの巻線合弁会社のユニマックを19年10月に完全子会社化し、今年4月には昭和電線ユニマックが、多摩川電線(宮城県亘理郡山元町、野崎裕人社長)を吸収合併することを予定しており、当社グループの巻線事業を担う製造会社は1社に集約されることになる。この施策により、一気通貫でスピード感を持った取り組みができる態勢を整えた。また、モーター用の巻線は、上工程の銅荒引線と連携が強まり製品力を高められるメリットもある。さらに、シートヒータ線は幅広い選択肢から適宜、提供できるようになる。いずれにしても今回の再編で、グループ全体での巻線事業の最適化を図る」

――無酸素銅への取り組みは?

「CS社三重事業所で社を挙げて無酸素銅の増産態勢の構築を進めている。新たなモニタリング手法の技術や計画的な設備更新を駆使し、銅荒引線全体の中で、無酸素銅の品位アップを推進する。これによって導電性などに優れる高品位な無酸素線の拡散を、自動車や電子関連の市場向けに図る」

―中国での銅荒引線の事業は?

「中国拠点で展開する銅荒引線事業は、鉄道関連のモーター材料や電子部品などに使われている。生産コスト低減に取り組みながら、現地ニーズに沿ったかたちで特性を高め、収益力を強化する方針だ」

―機器用ハーネスのダイジについては?

「国内子会社のダイジは解散する方針だが、決してハーネス事業をやめるわけではない。国内のユーザーとの連携を密接にし、グループの総力を挙げて研究開発をし、これからの種まきをしていく。事業をCS社や販売子会社のSDSに移管し、開発力や営業力を強化する。国内製造拠点は日本に試作拠点が必要であり、そうした点も考慮しながら今後については検討中である。

一方、CS社の充実した開発リソースを使った高難易度製品を、中国やベトナムの工場で量産を図りたい。特に中国では浙江省の2工場を、同じ市内の新工場に集約して生産能力を拡充する計画であり、準備は着実に進んでいる」

スマートファクトリーのモデルに、古河工場

―無酸素銅などを除いた設備投資については、どうか?

「CS社の古河工場(茨城県古河市)で自動化などを進めていくプランがある。当工場をスマートファクトリーのモデルにするため、準備を進めている。また、全体的に生産工場のインフラ強化を考えている。これからの災害リスクに対し、工場の生産態勢の強靭化を図っていく」

―研究開発については、どうか?

「大別すると、電力などに関するスマートインフラ、自動車を軸にしたモビリティー、医療や産業機械などのスマートインダストリーの3つの分野に集約させていきたい。

スマートインフラでは、電力分野など強みをさらに活かす戦略を練る中で、『施工省力化』を一つのキーワードとして取り組みを進めていく。モビリティーは、リソース投入が薄かったが、これから投資を増やす。スマートインダストリーはロボットや医療分野など向けの製品開発に注力している。また、これまで研究開発の動きが停滞気味だったが、大きく動かすために目的の共有化、優先順位のつけ方をあらためて考え、研究開発を加速させていきたい」

―再び伺うが、改革については?

「社長就任以来、改革に向けアクセルを踏んできた。建設・電販事業等の改革に着手してきたが、まだ道半ば。昭和電線グループのさらなる企業価値の向上を図っていきたく、これからが本番と考えている」

電線新聞 4189号掲載