日本電線工業会がメッセージ 「2019年度活動の振り返 りと2020年度に向かい」

見通せない2020年度の需要

小林会長

新型コロナウイルスの感染拡大対策へ最大限の努力

3月理事会で、来年度の事業計画、予算について書面審議の上、承認され、これで新年度活動に関する6月の総会審議の準備を整えることができました。会員をはじめ当会に関係する皆様には、あらためて当会の活動へのご理解、ご協力を賜り感謝申し上げます。
さて、この1年を振り返ってみますと、2019年度の日本経済は、米中貿易摩擦の影響や中国経済の減速が進む中、上半期は緩やかな成長を持続したものの、10〜12月期GDP2次速報値では前期比マイナス1・8%、年率換算マイナス7・1%と、消費税増税による消費や設備投資の冷え込み、東日本を中心とした台風などの自然災害の影響で一気に雲行きが悪くなろうとしています。

また、足元では新型コロナウイルス(COVID-19)感染が全世界に広がり、世界経済に深刻なダメージを与えることは避けられない状況となっています。
政府は、自然災害への対応や先行きリスクが視界に入りつつあるいまこそとして「安心と成長の未来を拓く・総合経済対策」を昨年12月に打ち出し、補正予算、令和2年本予算に具体的施策を反映した機動的且つ万全な対策を進めていましたが、これに加えて新型コロナウイルスの感染拡大防止対策、リーマンショック時を上回る未曽有の規模の緊急経済対策を、機を逸することなく推し進め、日本経済への影響が最小限となりV字回復の実現を期待しています。そのためにも当会も最大限の努力をしていきたいと思います。

2019年度の銅電線の需要は、五輪関係需要の刈取期を迎え、首都圏の大型再開発や公立学校のエアコン設置に伴う構内配電系需要も加わり、建設電販部門が前年度比約プラス2%と堅調であり、自動車部門も電動化や自動安全システム等高機能化の進展により好調で、前年度に対し約プラス6%となる見込みです。

一方で米中貿易摩擦、中国経済の減速や消費税増税影響を受けた電気機械、その他部門が減少し、輸出も電力大型案件向けがひと段落したことで前年度に対し大きく減少する見込みです。部門毎で好不調の差が大きく、新型コロナウイルスの影響もある中、2019年度の銅電線出荷見通しは前年度を約5千トン、0・7%下回る69万3千トンとなる見込みです。

アルミ電線は、輸出がアジア向け大型架空送電プロジェクト向けで伸び、国内電力向けが発送電分離前の需要端境期にあたったため低調ではありましたが、前年をわずかに上回る約3万と見込んでいます。

また、国内の光ケーブル需要は、通信事業者向けの5G関連事業が伸び、公衆通信部門が前年度比約10%プラスとなる見込みで、全体で前年度比約2%プラスの644万キロメータコアとなる見込みです。

2020年度銅電線需要は、2020年頭の段階では、主力の建設電販が、五輪関連需要がピークアウトにより反動減はあるものの、首都圏を中心とした再開発案件需要や建築工事の平準化対応により減少幅は抑えられ、5G、IoT、医療や電力の高経年設備更新といった一部の需要も期待できるため、全体では2019年度を若干下回るとみておりましたが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による影響は全く見通すことができない状況であり、例年の電線需要見通しの発表は中止としました。世界規模でのサプライチェーン崩壊につながる可能性もありますが、社会に欠かせない電線の安定供給のために、当会会員は懸命に取り組んでいるところです。

次に、来年度の事業計画案をご紹介します。

当会は、電線産業の発展を通じて広く社会に貢献するとする基本方針の下に活動を推進していますが、世界が一丸となって推進する「持続可能な開発目標SDGs」においては、気候変動に関する具体的な対策や、働きがいのある経済成長に貢献できる活動など、また日本が目指す超スマート社会『Society 5.0』の実現に向けた事業を、会員とともに考え、実行していくことが重要な責務と認識し、2020年度の活動を進めていきます。

2019年度の重点活動テーマとして取り組んできた環境問題への対応、中堅中小企業の経営基盤強化支援、グローバル化への対応、商慣習の改善の4点は、いずれも引き続き重点テーマとして取り組むこととしています。

環境対応は、低炭素社会実行計画目標値の着実な達成と業界内活動の更なる拡がり、プラスチックごみ削減に資する検討等を進めていきます。昨年9月「環境と経済性を配慮した電線・ケーブルの最適導体サイズ設計」の国際規格(IEC)が発行されましたが、当業界の環境に関する活動の内外への発信強化に努めていきたいと思います。

中小企業の支援につきましては、「中小企業生産性革命事業」など国の支援施策情報の早期入手と提供、電線総合技術センター(JECTEC)と協業した技術・技能継承支援研修など、研修事業の充実化を進めます。また、IoT利活用現場見学会などを通じた最新IT技術の共有化など、会員各社の皆様の声を直接伺い、より有効な支援施策の具体化を進めます。

グローバル化の対応ですが、世界情勢は、米中の貿易摩擦やBrexit、中東情勢など予測の難しい状況が増していますが、電線業界においてはグローバル化が着実に進展し、多くの会員が世界を舞台とした企業活動を拡大しています。当会は、我が国電線産業のグローバルな発展支援を目的に、国際的な視点に立ち、会員の海外進出企業の調査、海外現地法人出荷実績調査と発信、欧州電線工業会との技術交流の継続、国際規格・標準化の推進として「カーボン心等を使用した架空送電線用コンポジットコア及びコンポジット電線要求性能」など規格化国際会議にエキスパートを派遣し、日本側の意見が反映されるよう積極的に審議に参加していきます。

商慣習の改善ですが、従来の電線取引自主ガイドラインのフォローアップ活動に加え、昨年に需要家団体に発信した「電線の輸送費高騰等に関する要請」、この3月に策定した「適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」の周知・啓発活動を進め、アンケート等により商慣習の改善状況を定量的に把握し、次の施策の検討に繋げていきます。

最後に、2020年度の世界、日本経済は厳しい状況が予測されますが、電力や通信インフラにおける、社会の血管および神経として重要な位置づけを担う当業界が、品質の安定、向上の弛まぬ努力、イノベーションの推進により、国が目指す社会づくりに貢献し、将来に向かい、着実に発展していけるような年になるように努めていきたいと思います。

電材流通新聞2020年4月16日号掲載