脱炭素社会に向けた住宅・建築物に おける省エネ対策等のあり方・進め方 =2=

国土交通省ならびに経済産業省、環境省はこのほど、共同でとりまとめた「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」を公表した。後半2回目は、「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取組みの進め方」を紹介する。

2、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取組みの進め方

Ⅰ、家庭・業務部門
■住宅・建築物における2030年までの省エネ対策の考え方
2013年度の我が国のエネルギー総需要の実績値は原油換算で約3億6千万klであり、業務その他部門が5920万kl、家庭部門が5280万klである。2015年7月16日に策定された長期エネルギー需給見通しにおいては、2030年度に向けて、我が国全体で5030万klの徹底した省エネルギーを行うとしていた。このうち、家庭部門に1160万k

l、業務その他部門に1226万klの削減が求められていた。
2030年度46%削減目標を達成するためには、さらなる省エネルギーの深掘りが必要とされ、一部精査中ではあるが、現状としては我が国全体で約6200万klの省エネルギーが必要であると試算されている。6200万klの省エネ量とは、我が国の業務部門で使用しているエネルギーをゼロにすることに匹敵する量であり、各部門での更なる努力が必要とされている。

なお、省エネ量とは、需要の変化量ではなく、対策による削減効果量である。各分野における追加的な省エネ対策による省エネ量は、2030年度におけるBAUシナリオのエネルギー需要(対策が講じられず、省エネ性能の改善が進まないシナリオ)と対策シナリオのエネルギー需要(対策の効果等による省エネ性能の改善が進むシナリオ)の差分で算出される。つぎに述べる対策を行うことで、第6次エネルギー基本計画(素案)における、住宅・建築物分野の省エネ量889万klが確保されるものと試算している。

■住宅・建築物における2030年までの省エネ対策の強化

検討会において2030年までの住宅・建築物分野の省エネ対策の強化として検討を行っているのは、「住宅の省エネルギー化(新築)」「住宅の省エネルギー化(改修)」「建築物の省エネルギー化(新築)」「建築物の省エネルギー化(改修)」項目に関する削減量計889万●klである。これら以外の家庭部門、業務その他部門における省エネ対策についても着実に実行して行くことが必要である。

①住宅・建築物における省エネ対策強化の基本的な進め方
2030年の野心的な削減目標達成に向けて、まずは省エネルギーを徹底する観点から、住宅・建築物が基本的に備えるべきものとして省エネ性能の確保を進めることとし2030年における新築の住宅・建築物について少なくとも次に示す省エネ性能の確保を目指す。
2030年度以降に新築される住宅については、ZEH基準の省エネ性能(強化外皮基準及び再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を現行の省エネ基準値から20%削減)に適合させる。
2030年度以降に新築される建築物については、ZEB基準の省エネ性能(再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を現行の省エネ基準値から用途に応じて次のとおり削減)に適合させる。

▽ホテル・病院・百貨店・飲食店・集会所等:現行の省エネ基準値から30%削減(BEI=0.7)

▽事務所・学校・工場等:現行の省エネ基準値から40%削減(BEI=0.6)

▽小規模建築物については再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を現行の省エネ基準値から20%削減に適合させる
なお、新築建築物に係るこれらの目標については、後述の誘導基準の見直し状況を踏まえて見直す。

また、これらの確保すべき省エネ性能については、2030年までに達成できれば良いという考えを持たず、可能な限り早期に達成できるよう、つぎに示す取組みについて見直しを加えつつ、継続的に行っていく。

②2030年までの住宅・建築物における省エネ対策強化の進め方
2030年における住宅・建築物における省エネ対策を達成するためには、そこに至るまでの段階的な対策強化が必要となる。しかしながら、省エネ対策を徹底するに当たっては、特に住宅や小規模な建築物が国民の生活基盤として不可欠なものであることからビジョンを実現することに努力しながらも、その負担に配慮し、適合を義務付ける省エネ基準については合理的な水準とし、その水準を段階的に引き上げることにより省エネ性能の向上を図ることとする。

●(1)省エネ基準への適合義務化による、省エネ性能を底上げするための基礎となる取組み(ボトムアップ)

●(2)誘導基準やトップランナー基準の引上げとその実現に対する誘導による、省エネ性能を段階的に引き上げていくための取組み(レベルアップ)

●(3)誘導基準を上回るより高い省エネ性能を実現する取組みを促すことによる、市場全体の省エネ性能の向上を牽引するための取組み(トップアップ)
対策の実施に際しては、誘導基準への適合率など取組み状況を適時適切に把握して進めるとともに、対策効果により取組みが早期に進展している場合には、基準引き上げの時期を早めるなど、早期の省エネ性能向上に努める。
また、2031年以降についてもこれらの取組みについて、継続的に見直し、実施していく。

③住宅・建築物における省エネ性能の底上げ(ボトムアップ)の取組み
住宅も含めて省エネ基準適合義務の対象範囲を拡大することとし、省エネ基準適合義務化の取組みを進める。

個人が建築主として直接規制を受ける注文住宅について、規制の必要性や程度、バランス等を十分に勘案する。

適合を義務付ける基準の水準については、現状において少なくとも確保されるべき省エネ性能として、現行の省エネ基準を基本とする。

特に住宅の増改築時における基準適用のあり方について、過度な負担となることで増改築そのものを停滞させないよう配慮する。

また、適合義務化に向けた準備を早急に進める。
供給側の体制整備の取組みとして、未習熟な事業者に対する地域の実情を踏まえた断熱施工に関する実地訓練を含む技術力向上に対して支援するとともに、関係事業者等に対して対策強化に関する情報提供を行う。

供給側・審査側双方の手続負担を軽減する取組みとして、基準の簡素合理化に努める。

住宅・建築物における省エネ対策の必要性については、その建築行為が検討されるタイミングにおいて、省エネ住宅の必要性やメリット等に関する具体的な情報を建築主となる者に対して伝えることが効果的である。本年4月から施行されている戸建住宅等の設計委託に際して義務付けられている説明において、これらの情報が適切に伝わるよう、住宅・建築物の設計や建設を行う事業者の説明スキルの向上に向けた取組みを推進する。

なお、新築に対する支援措置については、適合義務化に先行して省エネ基準適合を要件化することにより早期の適合率向上を図る。

2030年度以降新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の省エネ性能の確保を目指し、現行の省エネ基準にとどまるのではなく、ボリュームゾーンのレベルアップの取組みを経て、省エネ基準を段階的に引き上げる。

まずは省エネ基準適合義務化が先行している大規模建築物について、省エネ基準(一次エネルギー消費量基準)を引き上げることとし、規模別、用途別にエネルギー消費性能の実態等を踏まえて、引上げ水準を検討する。

大規模建築物以外の住宅・建築物についても、順次、省エネ性能の実態や建材・設備の普及・コスト低減の状況を踏まえて、省エネ基準(住宅については一次エネルギー消費量基準及び外皮基準)の引上げ水準を検討する。
基準の見直しに備えて、設計・運用実態に関するデータ整備を進めるとともに、省エネ性能の評価についても実態を反映した改善の取組みを行う。
④住宅・建築物における省エネ性能のボリュームゾーンのレベルアップの取組み
ZEH・ZEBの取組み拡大に向け、各種制度における要求水準を整合させ、誘導基準として明確化する。

住宅について、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)に基づく誘導基準や長期優良住宅及び低炭素建築物の認定基準をZEH基準(一次エネルギー消費量基準及び外皮基準)の水準の省エネ性能に引き上げ、整合させる。

あわせて住宅性能表示制度における断熱等性能等級及び一次エネルギー消費量等級について、それぞれZEH基準の水準の省エネ性能に相当する上位等級(断熱等性能等級5及び一次エネルギー消費量等級6)を設定する。

建築物については現状ZEBの取組み実績が少ないことから、当面の間は、建築物省エネ法に基づく誘導基準や低炭素建築物の認定基準について、再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量の基準値を用途に応じてそれぞれ次の値に設定し、用途別・規模別に取組み状況を検証し、外皮基準を含め見直す。

▽ホテル・病院・百貨店・飲食店・集会所等:現行の省エネ基準値から30%削減(BEI=0.7)
▽事務所・学校・工場等:現行の省エネ基準値から40%削減(BEI=0.6)
国や地方自治体をはじめとする公的機関が建築主となって新築する庁舎、学校施設、公営住宅等については、それぞれこれらの誘導基準に適合させることを原則とし、官庁施設整備に適用する基準類の見直しを行うとともに、学校施設や公営住宅等については補助の要件等の見直しを行う。

ZEH、ZEB等に対する支援措置を継続・充実する。
2030年に向け、ZEHや長期優良住宅、ZEBの取組み拡大を図るため、価格低減に努めつつ、3省連携による支援措置を継続・充実するとともに、募集期間の工夫等、柔軟な運用等に努める。

特にZEBについては、建築や環境施策に携わっている者には、徐々に認知されつつあるものの、建築物の所有者・管理者をはじめとして、一般的にはまだ十分に浸透しているとはいえない状況であることから、認知度を高めるための情報提供を行う。

⑤住宅トップランナー制度の充実・強化
2030年度以降新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の省エネ性能の確保を目指し、ボリュームゾーンのレベルアップの取組みを拡げるため、住宅トップランナー制度に分譲マンションを追加する。

トップランナー基準については賃貸アパート同様の基準とする。住宅トップランナー制度の建売戸建住宅、賃貸アパート、分譲マンションに係るトップランナー基準について、ZEH基準の水準の省エネ性能に引き上げる。注文戸建住宅についてはBEI=0.75とする。具体の基準見直しに際しては建材・設備の性能向上や普及状況、コスト低減の状況を踏まえて判断する。

⑥誘導目標よりも高い省エネ性能を実現するトップアップの取組み
全体の省エネ性能の向上を牽引する取組みとして、ZEH+やLCCM住宅など、より高い省エネ性能を実現する取組みを促進する。

再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量が現行の省エネ基準値から25%以上削減されることを目標とするなど、ZEHを上回る省エネ性能の向上を図る。

LCCM住宅については、現状取組みが進められている戸建住宅に限らず、低層の共同住宅や建築物にもその展開を図る。

鳥取県におけるZEHの断熱性能を更に上回る断熱強化の取組み(T-G1/G2/G3)等については、こうした積極的な取組みが促進されることで、より省エネ性能の高い住宅の供給促進、ひいては各種基準の早期引上げにつながることも期待されることから、経済産業省、国土交通省、環境省などの公的なホームページなどで取組みを紹介するとともに、住宅性能表示制度においてさらなる上位等級として位置付けることとして、位置付ける際の多段階の水準を整理する。

住宅・建築物の省エネ性能の向上とそのための新技術の開発・普及を促す観点からも、既に実証段階に入っているZEBの未評価技術等の新技術に対応した評価方法の速やかな整備等に努める。

⑦機器・建材トップランナー制度の強化等による機器・建材の性能向上
2030年度以降新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の省エネ性能の確保を目指すことを踏まえ、ZEH・ZEBに導入される機器・設備の性能向上と普及を図るため、機器・建材トップランナー制度の強化を図る。

断熱性能の高い窓製品の普及を図るため、窓製品の断熱性能を消費者に分かりやすく伝えることが可能な性能表示制度のあり方を検討する。

レジリエンス性を確保する観点からは、多様なエネルギー源の機器が必要であることに留意しつつ、給湯機器等の省エネ性能の向上を図っていく。

省エネ基準の引上げ等を実現するため、建材・設備の性能向上と普及、コスト低減を図る。

⑧省エネ性能表示の取組み
省エネ性能の高い住宅・建築物の選択を可能とすることとあわせ、住宅・建築物における省エネ性能向上の取組みの促進、さらには省エネ性能の向上による光熱費の削減効果等が将来市場において適切に評価され、資産価値や賃料等に反映される市場環境の整備を目指して、つぎの取組みを進める。

住宅の販売又は賃貸をしようとする際の広告等における省エネ性能に関する表示制度を導入することとし、まず新築から義務化を目指す。

建築物についてもまず新築から義務化を目指す。その際、環境性能を踏まえた投資や融資の取組みの進展も踏まえて、個々の取引時における表示ではなく、省エネ性能に関する情報をWEBサイト等においてあらかじめ開示する方法など、関係主体の負担や情報を利用する者のアクセス性に配慮した方法を検討する。

既存の住宅・建築物については、建築時の省エネ性能が不明なものがあることも踏まえ、改修前後の合理的・効率的な表示・情報提供方法について検討・試行を進める。

⑨既存ストック対策としての省エネ改修のあり方・進め方
国民等による省エネ改修の取組みを促していく観点からも、国や地方自治体等の率先した取組みが重要であることから、その管理する建築物・住宅について、省エネ改修計画を立てるなど、計画的な省エネ改修の取組みを進める。特に、学校施設についてはその教育的な観点も踏まえて取組む。

国や地方自治体においては、地球温暖化対策推進法に基づく実行計画等を活用し、その計画的な省エネ改修の取組みを推進する。

例えば、UR賃貸住宅においてはサッシ交換にあわせて複層ガラス化することを標準仕様とするなど、省エネ改修を計画的に進めるための取組みとして維持修繕時における仕様の見直し等を行う。

住宅・建築物の省エネ改修に対する3省連携による支援措置を継続・充実するとともに、省エネ改修しやすく、その効果を高めるため、省エネ性能に優れリフォームに適用しやすい建材・工法等の開発・普及を図る。

既存の住宅・建築物については、建築時の省エネ性能が不明なものがあることも踏まえ、改修前後の合理的・効率的な省エネ性能の把握方法や評価技術の開発を進める。

耐震性がなく、省エネ性能も著しく低いストックについては、耐震改修と合わせた省エネ改修の促進に加え、省エネ性能の確保された住宅への建替えを誘導する。

耐震性のある住宅ストックについては、熱損失の大きな開口部の断熱改修(複層ガラス化や二重サッシ化など)や日常的に使用する空間の部分断熱改修など、その効果を実感しやすい省エネ改修を促進すること。これにより更なる省エネ改修につなげるなど効率的かつ効果的な省エネ改修の促進を図る。

実態に即した省エネ改修の取組みにきめ細かく対応しつつ、取組みの大幅な拡大を図るため、地方自治体の取組みと連携して効率的かつ効果的な省エネ改修を促進する。

国と地方自治体における省エネ改修に対する支援を継続・拡充する。
地方自治体において、きめ細かな普及啓発や住宅の現状把握のための簡易診断等を通じた国民への省エネ改修の働きかけを実施するとともに、国として当該取組みを支援する。

消費者が安心して省エネ改修を相談・依頼できる仕組みを充実する。

リフォーム事業者団体登録制度の登録団体に所属する事業者が取扱うリフォームとして省エネリフォームの表示を進めるとともに、リフォーム瑕疵保険の活用促進に向けて一層の周知普及を行う。

住宅リフォーム・紛争処理支援センターが実施している電話相談(住まいるダイヤル)や建築士・弁護士による専門家相談、リフォーム見積もりチェックサービスの一層の周知普及を行う。