スマートホームやIoTを訴求する展示会場
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、世界的に電力需要が落ち込むなかで、太陽光などの再生エネルギーの発電量が伸びている。再エネの普及は我が国にとっても重要課題のひとつではあるが、この関連で今後、取り組み強化が望まれるものにHEMSがある。
HEMSについては、日本電機工業会が2015年度に専門委員会ならびに分科会を設立して取り組みを始めた。
工業会によると、HEMSとは、「家庭内での消費電力等の『見える化』に加えて、外部との連携により様々なサービスを提供するシステムを担うハブ」であり、最近では、「各家庭における省エネと快適性を両立するシステムや、VPP(バーチャルパワープラント、仮想発電所)、ERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)といった、分散型電源の統合制御による新たなビジネスモデルを創出する動きが活発化」しているという。
いまからおよそ8年前、民主党政権時代の2012年に「日本再生戦略」と「革新的エネルギー・環境戦略」が閣議決定され、これをもとに「グリーン政策大綱」がまとめられた。そのなかに、「2030年までにHEMSを全世帯に普及」させるという一項が盛り込まれたが、これはかなり高い目標であることもたしか。
というのも、HEMSの住宅における導入戸数は2020年度で既設集合住宅を中心に30万9千戸(2013年度比8・8倍)へ急拡大する(富士経済調べ)見通しではあるが、それでも累計導入戸数は全戸数の3%にすぎないからだ。
ところで、IоT(Internet of Things・モノのインターネット)に対しては電材業界でも関心が集まっているが、家電機器の接続も含めそのシステム構築に欠かせないのがHEMS(Home Energy Management System・ホームマネジメントシステム)である。
電材組合の各種研修会を通じて周知がはかられたこともあって、最近では導入機運に高まりがみられるが、それにはシステム構築のための機器群の充実はもとより、認識の面でも深まりをみせていることも否めない。
それにひと役買ったともいえる研修会を取材したときの話だが、開口一番、講師が「皆さんはご自宅で消費している電力量を確認されていますか。確認もせずに請求書のまま支払っていませんか」と聴講者に問いかけた。
いまでは信じられないことだが、会場での反応の少なさは導入のための環境の整備が不十分であることを如実に示していた。同時に、そのことが研修会の意義を強調していたともいえる。
HEMSの一義的な目的は消費電力の「見える化」である。電力を毎月いくら消費するのか、その認識のもとで進めなければ、なにも始まらない。その後にIоTなどと家電機器を接続して、家庭内の省エネ化をはかることにより、HEMSが威力を発揮する。
最近の動きとしては、HEMSと省エネ機器、太陽光発電などと組み合わせて、空調・照明・換気などの一次消費エネルギーの収支を「ゼロ」にするZEH(Net Zero Energy House・ネットゼロエネルギーハウス)に業界内でも活発化の兆しがみられる。
普及を支援する令和2年度戸建住宅におけるZEH化支援事業の公募も(7月6〜8月21日)すでに始まっているが、同事業では、「一般公募」と「新たにZEH普及に取り組むZEHビルダー/プランナー向け公募」の2通りを環境共創イニシアチブにて公募している。交付決定は9月11日。
規模の違いからか、HEMSよりもZEHを重視するきらいがあるが、いずれにしも、発電のための資源自給率が極めて低い我が国にとって、省エネ化とともに、再生エネルギーの普及拡大を進めることが、世界的課題でもあるCO2の削減につながる大きな要素であることに間違いはない。
ちなみに、「令和元年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2020)」から現状を探ってみると、2012年のFIT施行後日本の再エネが加速し、2012年から2018年の間に水力を除く再エネの発電量は約3倍、再エネ比率は2018年で16・9%に急拡大。発電量の増加率は、EUやドイツの1・6倍、イギリスの2・6倍に大きな差をつけるものとなった。
だが一方で、日本の電力消費量は、1965年から2015年の50年間に約5・5倍に拡大し、世界的にみても中国、アメリカ、インドに次ぐ高水準。高度経済成長にともなうものであり、豊かな国の証といえなくもない。もっとも、エネルギー自給率の低さ(2016年で8%)は解消されず、喫緊の課題であることもたしか。
超スマート社会といったキーワードを最近、耳にするが、実現に向けては、IоTやAIもさることながら、構成要素としてHEMSが欠かせないのは強調するまでもない。今後の取り組みに期待したいところだ。