電力系統用ESSが市場牽引
矢野経済研究所はこのほど、2020年の定置用蓄電池(ESS)世界市場を調査し、設置先別及び需要分野別、電池種別の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。
1、市場概況
2019年のESS世界市場規模(メーカー出荷容量ベース)は、前年比88・1%の1万4951MWhとなった。市場拡大を牽引してきた韓国におけるESSの火災事故で、市場は大きく縮小した。
一方で、韓国以外の国では、ESSの導入が着実に増加している。
ESS市場の成長を牽引しているのは、温室効果ガスの削減に向けて進められている、世界各国のエネルギー転換政策である。化石燃料の代わりに環境にやさしい再生可能エネルギー(以下 再エネ)の導入を促進する同政策を後押しに、太陽光や風力といった再エネ発電設備が急増している。
再エネの普及初期は化石燃料に比べて発電単価が高く、経済性が劣る点が課題として挙げられていたが、現在は普及の拡大と技術力の向上などを受け、地域によってはグリッドパリティレベルの価格競争力を確保しているところもある。近年は屋根に小規模の太陽光パネルを設置する住宅が増えるなど、再エネは身近なものになってきており、今後も太陽光と風力発電設備は価格競争力をベースに普及がさらに加速化する見込みである。太陽光発電と風力発電は気象条件によって出力が大きく変動し、電力系統の不安定化という問題をもたらすため、再エネの安定的な系統連携と有効活用に向けた取り組みとして、ESSの重要性が拡大している。
2、注目トピック
脱原発・脱石炭による低炭素社会構築に向け、世界各国では太陽光や風力といった再生可能エネルギー発電設備が急増している。太陽光発電と風力発電は時間帯や季節、気象条件によって出力が大きく変動するため、再エネの安定的な系統連携と有効活用のためにESSが台頭している。
ESSの位置づけは従来の非常用電源の意味合いが強かった状況から、エネルギーマネジメントのためのツールとしてのニーズが強くなりつつある。2021年以降、地球温暖化対策のパリ協定の枠組みもあり、欧州や米国等の先進国だけでなく、中国やインド等の開発途上国においても再エネが拡大基調にあるのは確実な流れであり、これに伴う形で電力系統向けESSの需要は今後さらに伸びていくものと予測する。
3、将来展望
2020年は、韓国におけるESS支援策の終了、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響に伴う市場低迷を背景に、住宅用や企業・業務用のESSの成長率は鈍化する見込みである。一方で、北米や欧州などにおいて電力系統向けに導入が進み、ESS世界市場規模(メーカー出荷容量ベース)は前年比109・7%の1万6400MWhになると見込む。
2021年以降は世界各地において再エネの導入がさらに加速化する見込みで、系統調整や平準化対策としてESSへの需要も急増し、2026年のESS世界市場規模は12万666MWhになると予測する。