数量の増加に伴わない価格
LED照明は関連メーカー各社の出荷比率が100%近くに達しているものの、数量の伸びに比例して売上げが増えない深刻な状況にある。それだけに、ストック需要の掘り起こしに期待がかかるが、現状は楽観できる状況にない。
価格競争からの脱却が焦眉の急
日本照明工業会の自主統計によれば、今年1月の照明器具の出荷(数量)実績は、蛍光灯器具が前年同月比64・4%、白熱灯器具の同75・8%。これらに対して、LED器具は、同105・1%と堅調だった。
メーカー各社の出荷におけるLED照明の割合が100%近くに迫っている現在、他光源の器具が減少傾向をたどるのは当然の成り行き。
暦年ベース(1月〜12月累計)の出荷数量(経済産業省・生産動態統計)をみても、動きは同様である。2015年の前年比101・7%、2016年が101・4%と、照明器具全体では、横ばい。
そのなかで、LED器具は、2015年の出荷数量が前年比128・9%、2016年も112・7%と伸長している。ただ、ここにきて、一時に比べると、伸びに翳りがみえるのは、否めない。需要が一巡するなかで、価格競争がより熾烈化しているためで、数量が伸びても、売上げが増えないという深刻な状況下にある。
最近の市場の動きについて、関連メーカーの見解を拾ってみると、
「ストックを含めた市場全体でみると、LED化は約15〜20%。残りの80%が既存(光源)照明で、LED化のためには、継続的に提案することが重要」(パナソニック エコソリューションズ社)
「商業施設などは常に新しいデザインや機能を求めている。そういった場所ではLED器具の更新が始まっている」(東芝ライテック)
「既存の光源や器具が減っていくなかで、LEDを大幅に伸ばしていきたい」(三菱電機照明)
「今年も昨年同様、数量は伸びるが、一方で、単価がどこまで下がるか。東京オリンピックの需要もあるので、数量は確実に伸びる」(岩崎電気)
「価格の下落が進むなかで、売上げの確保がむつかしい。もう一度身を引き締めて市場に対応していきたい」(大光電機)
「意匠系器具の伸びがいい。LEDになって、デザインがより洗練されたペンダントなどが例年に比べて非常にいい」(コイズミ照明)
「古い器具からLEDへの取り替えを提案している。30年以上も前の古い器具が使われている場合もあるので、そういうところを狙っている」(星和電機)
「省エネだけでは売れにくいといっても、LEDによる消費電力の削減効果は無視できない」(遠藤照明)
「有機ELといった新光源への取り組みを加速させ、制御とインテグレートすることでビジネスを活性化させたい」(ウシオエンターテインメントHD)
「昨今の市場ではLED照明器具の売上げを伸ばしても、利益があまり伴わない。付加価値のある商品で利益を出したい」(NECライティング)
数量の増加に売上げの伸びが伴わないということでは、各社の見解は一致しているが、売上げが低下の一途をたどる状況では、安穏としておれないのもたしかだろう。とくに、元凶と目される熾烈な価格競争からの脱却は焦眉の急である。
さらに、ストック需要の掘り起こしが課題としてあげられて久しいが、古い器具からの買い換えはいまだ満足のいくものになっていない。むしろ遅々として進まない状況にある。
古い器具よりも新しい器具の方が省エネ性はもちろん、機能面でも勝っている。そのことは誰もが認知しているが、買い換えにはかばかしい進展がみられないのはなぜか。理由については、さまざまな指摘がある。官公庁では、ランニングよりもイニシャルコストを優先するというのもそのひとつだろう。
そのような状況のなかで、先行きに期待がもてそうな動きがないわけではない。たとえば、日本照明工業会の『照明成長戦略2020』。
道浦正治会長は、賀詞交歓会のあいさつのなかで、同戦略に言及し、「2020年にSSLの照明器具の出荷をフローで100%にすることが目標で、足下で95%を超える水準に達し、1年前倒しで達成できるのではないか。
加えて、今後は、性能品質の維持向上、照明の質の向上についても重点的に取り組んでいく。
AI、あるいはIoTといった新しいメガトレンドの技術を取り込んで、業界内あるいはその枠組みを超えて、さらなる省エネや使い勝手の良さといったところに貢献していくために、照明を変化させていくことが重要」と業界が取り組むべき方向性を示唆した。
【照明成長戦略2020の概要】
□ビジョン
〜あかり文化の向上と地球環境への貢献〜
半導体照明(SSL)の普及加速により地球環境への貢献と国際展開をめざす。
□ミッション
我々は、省エネで環境にやさしい“あかり”の普及に努め、より安全で快適な生活環境を実現するとともに、地球環境の向上に貢献する。
照明業界の代弁者として、政府の成長戦略への取り組み、国内外のステークホルダーへの情報発信、交流、交渉を通じ、公平で健全な照明市場を形成し、照明産業の発展に貢献する。
□SSL器具の占有率目標
2020年フロー100%、ストック50%
2030年ストック100%(政府目標)
□重点課題
〈既存光源から半導体照明へのパラダイムシフトに対応した新秩序の構築〉
㈰公正で適切な競争ができる健全な市場の再構築
関連規格、測光試験所の整備と市場監視体制の強化により、健全な市場を構築する。
㈪照明事業構造変化への対応
既存光源事業のスムースな事業転換支援と新規事業参入者への指導、支援を行う。
〈あかり文化の向上と地球環境への貢献〉
㈰ストック市場のSSL加速による地球環境への貢献
ストック市場のSSL化により、省エネ、環境負荷物質の低減に寄与する。
㈪「あかりの質」向上による「あかり空間価値」の創造
効率以外の新たな「質」指標の提唱、浸透と新たな「あかり空間」の提案、スマートシステムとの連動による照明空間価値の向上を図る。
〈海外事業の拡大〉
㈰海外市場展開のための環境整備
アジア・新興国への技術支援による、公平で健全な市場形成、同じ土俵で戦える環境を整備し、日本メーカーの市場参入を促進する。
㈪日本照明のブランド化
海外でのイベントや商談会などの開催により、照明版クールジャパン活動推進。
AI・IoTの技術取り込むことが重要
求められる補助金や優遇税制の素早い情報提供など
こうした計画の推進のなかで、欠かせないのが、「AI、あるいはIoTといった新しいメガトレンド」への対応。好むと好まざるとにかかわらず、照明業界にとっても、これに向けた動きが急務といえる。
参考までに、IoTを核とする第4次産業革命を簡単におさらいしておきたい。
産業革命は、18世紀後半の機械化を嚆矢として、19世紀後半の電動化、20世紀後半のコンピュータの自動化を得て、そして、今回の第4次では、情報技術・IоTによる効率化を指向している。
産業革命とは、産業の変革と、それに伴う社会構造の激変を指すが、第4次では、情報技術の進化、デジタル情報通信が核となる。中心のIоTは、「産業革命と同義語ではなく、実現するための手段、あるいは基幹技術」(古川幸司パナソニックエコソリューションズ創研上席講師)である。
2020年には、IоTを通じてつながるデバイスが530億個に達するとの見方もあり、IоTの市場規模も、2015年の5200憶円から2022年には3兆2千億円にふくらむとの予測がある。
住宅設備がインターネットとつながることで、より快適で安心・安全なライフスタイルをめざすIоT住宅では、スマートフォンによる遠隔操作などが計画されている。そのなかには、LED照明も含まれるが、照明メーカー各社が現在、進めるIоT化は、独自の発想にもとづく照明のシステム制御である。
これにより、LED照明そのものの付加価値を向上させ、熾烈な価格競争に終止符を打つという狙いがある。
各種展示会でも最近、システムの周知を目的としたものが目立つのもそのためだ。
これらの普及は、将来的には有望だが、そのためには、旧態依然の販売から、提案営業へ切り替えることが肝要。断るまでもなく、販売は、客の注文を受けるだけ。これに対し、提案営業はアグレッシブなものと定義できる。
ためには、補助金や優遇税制などの情報をいち早く顧客に提供し、需要の喚起をはかること。これは、照明に限らず、電材市場のすべての分野で求められているが、その実践を通じて、なんとかストック需要の掘り起こしにつなげたいものだ。