トップインタビュー 適正利益の確保急務 関東電販 吉田康一 理事長

エコケーブル普及30%目指す
22年度電線需要「住宅着工数増に期待」

関東電販 吉田康一 理事長

関東電線販売業協同組合の吉田康一理事長は「21年度は2月から銅価が1㌧あたり100万円以上で推移し、電線業界各社は、売上は増加したが、売上に伴う利益は確保できていないのが現状。物流費、配送費の上昇を適正価格として、顧客・ユーザと交渉していきたい」と述べた。取引適正化については「件名先物問題」「年号問題」「リベート問題」「物流・配送問題」を挙げた。10年前から普及を進言しているエコケーブルについては「燃焼時にダイオキシンが発生しない、環境にやさしい、というメリットが浸透していない。現在の普及率は約10%程度だが、普及率30%を目指している」と述べた。

―電線業界の動向は?

「電線出荷量をみると、20年度は62万2千600㌧、21年度は62万7千800㌧(前年度比0・8%増)だった。
21年度は2月から銅価が1㌧あたり100万円以上で推移し、今日まで継続している。電線業界各社は、売上は増加したが、売上に伴う利益は確保できていないのが現状だ。物流費、配送費の上昇を反映した適正価格となるよう、顧客・ユーザと交渉していきたい」

―22年度の電線需要の見通しは?
「22年度の電線需要は65万3千㌧(同4・0%増)の見通し。21年に東京オリンピックが終わり、来年度の大型案件が始まるまでの狭間の時期といえる。関西では大阪万博やIR(統合型リゾート)の需要があるが、関東では来年度までは小型・中型案件が続く見通しだ。
明るい材料としては、新設住宅着工戸数が増えている。20年度は大きく落ち込んだが、21年度は前年度比で6・3%増となり、22年度も伸長すると見込んでいる。マンションの新築や、耐震・免震に伴う建て替え需要にも期待している」
―関東電販の22年度の重点施策は?
「当組合は数年前から、電線工業会や経産省などと連携しながら商慣習改善のフォローアップに取り組んでいる。具体的には、『件名先物問題』『年号問題』『リベート問題』『物流・配送問題』の4つの取引適正化に力を入れている」

取引適正化4つの問題

1つめは、納期が数カ月先の場合、電線業界と顧客・ユーザとの間で銅の件名先物契約を行い、その価格をもとに諸経費や利潤を追加した価格を算定し、契約金額を確定する『件名先物問題』。
2つめは『年号問題』。電線メーカーの代理店、流通業界が顧客・ユーザに対して電線を納品する際に、新品の電線であり、性能・特性に問題のない製品であるにもかかわらず、製造年が納入・検収年と同一でないことを理由に、返品や再納入を要求されるケースがある。適切な状態で保管していれば、電線の耐久年数は5年、10年と長く、長期的に使用でき、製造年と納入年が数年程度異なっていても、品質・性能を損なうことはほとんどない。この問題は解消されつつあるが、一部の配電盤業界などでは、年号の変わった電線を避ける傾向が残っている。
3つめは『リベート問題』。顧客・ユーザが営業推進という名目で、売上の何%かをリベートとして要求する問題だ。
4つめは取引適正化のなかでも特に力を入れている『物流・配送問題』。流通業界と顧客・ユーザ間で、短時間での配送に対する割り増し分の費用、積み下ろし時の特殊車両の費用、電線切断に関する費用などが発生するが、流通業界が費用を負担するという問題がある。利益の少ない小口配送に伴う配送費については顧客・ユーザに負担していただくケースが増え、こちらは改善がみられる」

 ―コロナ、ロシアのウクライナ侵攻の影響は?
「物流網の混乱によって、部材不足が続いている。自動車業界、半導体業界が優先され、電線業界へは部材が回ってこない。こうした状況に伴い、電力用高圧ケーブルの供給が追いついていないのが現状だ」

 ―銅価の高騰については?
「銅の価格は過去20年で5倍になり、10年先物価格も1㌧あたり9千ドル(約122万円)と、現在の高値を維持しそうだ。電線以外で使用する銅出荷量は21年度で約80万㌧あるが、今後の自動車EV化や、半導体、エアコンなどの需要増を考慮すると、供給不足や銅価の高騰はますます続くと考えている。
こうした背景もあり、銅に代わって比較的安価で価格が安定しているアルミケーブルの普及を推進している。軽量化が求められる自動車業界ではアルミケーブルの導入が進んでいる」

エコケーブル普及率約10%

 ―エコケーブルの普及については?
「普及の遅れは当組合会員社の間でも議題に上がっている。なぜ普及しないのか、アンケートの実施も考えている。エコケーブルは、従来の電線よりも高価、被覆材が硬い、といったデメリットがあるが、燃焼時にダイオキシンが発生しない、環境にやさしい、というメリットがある。こうした利点が浸透していないのが現状だ。また、中小電線メーカーでは生産体制が整っていない、各社大量生産していないので、顧客・ユーザが複数社に発注しなければならない、といった課題もある。10年前からエコケーブルの普及を進言しているが、現在の普及率は約10%程度。普及率30%を目指している」

 ―カーボンニュートラルへの取り組みは?
「電線・ケーブルの導体となる銅やアルミは、ほぼ100%リサイクルされる回収システムがある。建販用の電線・ケーブルは耐用年数が長いため、リサイクルのタイミングは建物の解体時などに限られる。被覆材については、鉛やハロゲン、有害物質が含まれていない材質の採用が進んでいる」

 ―関東電販の最重要課題は?
「先ほども申し上げたが、適正利益の確保だ。銅価の高騰により売上に伴う収益が得られていない。銅価高や石化高に見合った適正価格への値上げに取り組んでいく。
近江商人の経営哲学のひとつで『売り手良し、買い手良し、世間良し』を示す『三方良し』が電線業界には浸透していない。売り手と買い手が対等な関係になり、適正な利益が得られるように、様々な施策を遂行していきたい」

電線新聞 4284号掲載