【関東圏の工事業者に聞く】「働き方改革」関連法施行

電気工事業はどう対応すべきか 不安、懸念ないまぜの業界

働き方改革関連法が今月から施行された。電気工事業界には、残業上限規制や年次有給休暇付与の義務化などを不安視する声もある。業界の働き方の実態はどうなっているのか、電気工事業者はどう対応すべきなのか。東京、千葉、埼玉、神奈川の工事業者4人に聞いた。

労働時間の現状

過度の心配は不要!?移動時間など問題点あるが

 「月に200時間残業したこともある」「1日18時間労働はざら」
さきごろ新潟で開かれた建設・電気関連団体の意見交換会では、現場の長時間労働を懸念する意見が相次いだ。だが、こうした事例は、必ずしも電気工事業者の実態を反映しているわけでもなさそうだ。いずれの都県で聞いても、現場の作業時間は実質ほぼ朝8時前後から夕方5時前後までとなっているからだ。
法律では、残業上限が繁忙期で月100時間未満、複数月の平均で月80時間以内となっているが、「そこまでは働けないでしょう」(東京K社)という業者もいる。実は単月で100時間とか複数月の平均で80時間というのは、過労死ラインに匹敵する数字だ。上限時間が設定されたというだけで過度に不安視する必要はないはずだ。
ただ、工事の種類、移動時間の把握によっては、深刻な問題も内在する。管理監督業や建築が関わる工事になると、一気に労働時間が増える傾向があるためだ。冒頭の発言も、現場代理人業務を主とする電業協会や建築に関わる設備設計事務所協会の代表によるものだった。
移動時間の把握は、典型的なグレーゾーンに位置する。千葉のKD社では、これまで認めていなかった社員の直行直帰を認めるようになったが、自宅出発時の時刻を見ると、どの出勤簿も同社の始業時間である8時30分にそろっているという。
仮に周辺の県から都心の現場に車で向かうとすれば、普通は定刻よりも早く自宅を出る必要がある。作業開始前の朝礼に間に合うよう移動で片道2時間かかるとすれば、残業時間は往復で1日4時間、20日で80時間に達する。作業時間だけを見ていると、見逃してしまいかねない問題だ。埼玉S社の代表は「『見えない残業』をどうするかは、現場作業者の一番の問題」と指摘する。

労働環境を改善

本気でやれば成果も 求職者が注目する休日増

今回施行された「働き方改革」関連法では、年10日以上の有給休暇を持つ労働者には5日間の有給休暇取得も義務化された。達成できないと、企業に罰金もある。
「うちはみな5日以上取っている。法律が施行されても、なんの問題もない」(千葉KD社)と余裕を見せる会社がある一方、「従業員から休ませてくれと言われたことがない。義務付けるというのは、判断が難しい」(神奈川Y社)と、とまどう会社もある。
Y社の場合、従業員が20代、30代と若いせいもあるだろう。埼玉S社の代表は「うちは所帯持ちが多いので、拘束時間にはシビア」と話す。
会社規模の大小による格差も大きいようだ。先の千葉の代表は、県内他社の様子を見まわして「電気工事会社は小さなところが多い。他社のことはよく分からないが、年休は取れないという話を聞く」という。東京K社の元代表は「残業規制、有給取得が求められているが、そこまで福利厚生を出せる業界ではない」とも話す。
休みそのものも、完全週休2日制というところには、今回出会わなかった。それに近かったのは埼玉S社の「年間96日の月割りプラス希望日」だが、同社の代表は「今年のゴールデンウイークはすべて出勤です」と明かす。千葉KD社は、日曜および祝祭日のほか第2、4、5土曜が休みだった。ほかはまだ、日曜および祝祭日のみといったところが多いようだ。
休日増は、経営側にとってハードルの高い課題だ。しかし多くの求職者が最も注目しているのは、そこだという指摘もある。
働き方改革法では、残業規制に絡んで、残業に関する労使協定である36(サブロク)協定の締結と労働基準監督署への提出が義務化された。ところが、規模の小さな会社では、まず結んでいないだろう、というのが一般的な見方だ。
業界では就業規則の文書化さえ怪しいところが多い。この点で先進的なのは、埼玉県電気工事工業組合だ。2015年にアンケートを取ったところ、全体ではおそらく半分以上の企業が規則を文書化しているだろうという結果が出た。事務局の人間によると、同工組の人材確保事業や労働環境向上事業が浸透している成果ではという。本気で取り組めば、それなりの結果も期待できるということではないか。

法律は福音か!?

今こそ組合の出番だ足並み揃えなければダメ

働き方改革法の施行は、業界の負担増につながるのではないかという不安が聞かれる。半面、埼玉S社の代表は「法律の施行に不安はない。法律による指針ができたことでブラックな企業が減るのは良いこと」と受け止める。千葉の代表も「これは時代の流れ。やらなければならないことはやっていく」と腹が座っているように見える。
ただ、それはユーザーへのコストに跳ね返ってこざるを得ない。東京の元代表は「労働時間の短縮分は、工程管理の努力などだけでは賄いきれない。コスト増の負担をユーザーに求めることになる」という。千葉の代表もそれを認めたうえで、営業努力を強調する。「自社だけでは吸収できない。良いユーザーを獲得して良い金額で受注できるようにすることだ」
加えて大切なのは、新しい人材を業界に迎え入れることだろう。神奈川Y社の代表は「働き方改革と人材確保はセット。例えば代休を取らせようと思っても、人がいなければシフトを組むこと自体が難しい」と訴える。
今回、話を聞いた相手は、新しい法律の施行内容をある程度前向きに受け止めていたが、業界全体に十分な理解が行き届いているかどうかは怪しい。少なくとも、各都県の工事組合にはまだ正面から取り組んでいる様子は見られない。千葉の代表は働き方改革について「規模の小さな工事会社には、なかなか浸透していない。そんなことをしたら、会社がつぶれてしまうとみんな言っていますよ」という。だからこそ、ここは組合の出番ではないか。東京K社の元代表は「業界が集まってトップダウンで、全員が足並みをそろえてやれば、働き方改革はできると思う。この機会を逃したら、できない。本気で取り組むのは、トップの責任」と言い切る。
埼玉S社の代表は、こう振り返る。「従業員の出入りが激しくて悩んだ時もある。けれども、労働環境を整備することで離職者が減り、人が定着するようになってきた」。苦労が苦労だけで終わらないと思えれば、勇気もわいてくるのではないだろうか。

電材流通新聞2019年4月18日号掲載