帝国データバンクはこのほど、「温室効果ガス排出抑制に対する企業の意識調査」の結果を公表した。(一部既報)
排出抑制の企業の取組み状況
温室効果ガスの排出抑制に対して、企業の82.6%が取り組んでいると回答し、8割超にのぼった。他方、取り組んでいない企業は13.6%、わからないは3.8%だった。規模別では、大企業が88.8%となり全体の数値を大きく上回った。また、中小企業は81.3%、小規模企業は76.1%で、企業規模による差が大きく表れている。
また、業界別では製造が87.1%でもっとも高く、次いで金融(82.7%)、建設(82.6%)が続くなど、多くの業界で8割台となった。
一方で、もっとも低いサービスでも78.6%となっており、突出して低い業界はみられなかった。
排出抑制への取組み内容
企業からは、「社内照明のLED化、空調機の省エネ設備化などの細かな施策を実施した」(信号装置工事・岐阜県)や「貨物トラックの利用と従業員の車両通勤であるが、まずは社用車もハイブリッド車を使用して環境配慮を行っている」(野菜卸売・三重県)、「燃焼効率の良いボイラーへ切り替え、プラスチック・ビニール製をバイオマス使用に変更するなどに取り組んでいる」(水産練製品製造・北海道)といった積極的な意見がみられる。
一方で、「大企業を中心に大きな成果を出すことに加え、個人レベルでもある程度の協力がなければ持続性も含めて困難」(建設工事・兵庫県)などの意見もあげられた。
排出抑制に取組む目的
温室効果ガスの排出抑制に取り組んでいる企業にその目的をたずねたところ、電気料金などのコストの削減が55.7%でトップとなった。さらに法令順守が48.9%で続いた。また、CSR(企業の社会的責任)の一環(24.6%)やSDGsへの対応(22.7%)といった企業の見られ方に関する項目も上位となった。こうした項目は特に大企業で高く、ISOやエコアクション21などの資格や認証の取得や取引条件の改善などに向けたステークホルダーとの良好な関係の構築においても中小企業より大企業の方が高い。
企業からも、「顧客や世間の要請に応えなくては生き残っていくことはできない」(化粧品製造・埼玉県)や「今年度にエコアクション21を取得し温室効果ガス排出抑制等の環境保護活動に注力している」(写真機製造、大阪府)、「省エネ・低炭素・ゼロエネ住宅を自社の競争力としている」(木造建築工事・北海道)などの声があげられた。
排出抑制に対する取組み課題
温室効果ガスの排出抑制への取り組みにおける課題について尋ねたところ、「他に優先すべき項目がある」が27.4%でもっとも高くなった。次いで、「主導する人材(部署)がいない」(26.9%)や「どこまで取り組めばいいのかわからない」(25.8%)、「取り組むためのノウハウやスキルがない」(24.5%)も2割台で続いている。
企業からは、「新型コロナ感染防止対策などに対して労力を使ってしまっている」(金属加工機部品製造・群馬県)など、取り組みに対して現状の景況感によりむずかしいと考える意見が多い。
また、「コストをどこまでかけて対応すべきかわからない」(各種機械製造修理・新潟県)や「自社の事業活動において、業界で標準的な基礎数値がないため、どこまで取り組むべきなのかの基準や方法、評価の仕方などがわからない」(窯業製品製造・東京都)といった意見があげられている。
2050年カーボンニュートラル目標達成可能性
2020年10月、政府は「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す」と宣言した。同年12月25日には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表するなど、目標の達成に向けて本格的に動き出した。
こうした政府が掲げる2050年カーボンニュートラル目標に関して、日本全体における達成可能性を尋ねたところ、企業の15.8%が「達成可能」と考えていた。うち、「今以上の取り組みをすることで達成可能」は13.3%、「現在の取り組みで達成可能」は2.5%だった。
一方で、「達成は困難」とした企業は43.4%と4割を超えた。さらに、「達成できない」は17.9%だった。
企業からは、温室効果ガスの排出抑制などの環境問題への取り組みは必要であるとしつつも、「目標を達成するためのロードマップを示す必要があり、産業界との連携を深める必要がある」(電気計測器製造・神奈川県)や「言うは易し行うは難しで、具体的な計画と目標がわからない」(し尿収集運搬・石川県)、「取り組みについて何をどのようにすべきか、何を手始めに重点的に取り組むかなどの明確な説明が必要」(農産保存食料品製造・大分県)のような、具体的な目標や方法がわからないためロードマップや明確な説明などを示してほしいという意見が多くあげられている。
まとめ
調査によると温室効果ガスの排出抑制に取り組んでいる企業は82・6%となり、8割超となった。その取り組み内容では、節電・節水などの省エネやクールビズなどの身近な部分からの取り組みがあげられている。
また、取り組む目的では電気料金などのコストの削減や法令順守が上位となった。CSRやSDGsへの対応もあげられたが、こうした「企業の見られ方」に関する項目は大企業で割合が高く、この他にもISOやエコアクション21などの資格や認証の取得やステークホルダーとの良好な関係の構築といった項目でも同様の傾向がみられる。
一方で、取り組みにおける課題に関しては、現状として他に取り組むべき項目があり、主導する人材や取り組みの程度、ノウハウやスキル面の課題があげられている。現在は各社とも新型コロナウイルスによる業績への影響に対する施策などが求められており、温室効果ガス排出抑制に対する取り組みの優先順位が上位にあがってこないという状況が浮き彫りになった。
また、政府が掲げる2050年カーボンニュートラル目標の日本全体における達成可能性に対しては、企業の15.8%が達成可能としつつも、達成は困難と考えている企業は4割を超えていた。
温室効果ガスの排出抑制には多くの企業が取り組んでいる一方で、政府の2050年目標に対しては半数以上の企業が厳しい見方を示しており、今後は温室効果ガスの排出抑制に向けたさらなる取り組みが必要となろう。
そのなかで、企業は政府に対してより詳細な取り組み目標や具体的な方法を明らかにすることを求めている。
今後、企業に取り組みを促し「環境と経済の好循環」を図るためには、特に中小企業に対する情報発信の強化がカギを握るだろう。