盤石な土台造り
SWR/WTC 超多心の光ケーブル半年先まで受注残次の柱、医療やCASE市場開拓へ
フジクラ・伊藤雅彦社長
フジクラの伊藤雅彦社長は21年度の最重要課題に関し「事業の新陳代謝力を向上させる。今は次の段階となる選択と分散に向けて力を蓄える時で、進行中の選択と集中にしっかりと取り組み、盤石な土台を造る。(20年9月に策定した100日プランで)20年度の固定費改善効果目標を77億円としたが、現状のペースでは、82億円削減できる見込みとなり、進捗率は5割強となる」とした上で「従来の光ファイバ主体のビジネスからケーブル主体へ切り替え、収益力向上を目指す。超多心光ケーブル『WTC』は、欧米のハイパースケールDCやFTTx向けに引き合いが非常に強く、半年先まで受注がある。これに伴い、MPOコネクタも大幅に増加し、光融着機の20年度出荷台数は過去最高の水準で推移している」とし、今後は「研究開発の明確な方向性も定め、次の柱となる事業を育てる。例えば、医療や自動車のCASE市場を開拓したい」と述べた。
―御社の情報通信カンパニーを取り巻く市場動向は?
「当社の情報通信事業は、従来の光ファイバ・ケーブル単体から、コネクタ含む光ケーブルソリューションビジネスへと転換している。この改革の効果が20年度上期頃から表われており、光明が差してきた。
18年度までは中国をメイン市場とした光ファイバ事業の需給が引き締まっていたが、19年度を境に潮目が変わった。18年当初の世界の光ファイバ市場は約5億㎞コアであり、このうち中国は約3億㎞コアを占めていた。世界の光ファイバメーカーが5Gなどを起因とした中国の需要伸長を見込んで光ファイバの生産力増強に踏み切り、当社も18年度から19年度にかけて同生産能力を17年度対比で約4割増強した。この環境下、19年には光ファイバの世界供給量は約7億㎞コアに達した。ただ、中国は想定よりも伸びず、供給過剰となった。中国市場に占める当社のシェアは、日欧米の光ファイバメーカーのうち最も大きかった。その反面、価格低下の影響も大きくなった。このため、従来の光ファイバ主体のビジネスから、ケーブル主体のビジネスへ切り替えた。20年度は超多心光ケーブル『ラッピング・チューブ・ケーブル(WTC)』の生産が、欧米のFTTxやハイパースケールデータセンター(HSDC)向けにフル稼働となっている」
FPCは想定以上の出荷 車も3Q単独黒字化達成
―エレクトロニクス事業部門と自動車事業部門は、どうか?
「エレクトロニクス事業の20年度第3四半期連結業績は、増収増益となった。5Gスマホ向け、デジタル機器用途の需要増を取り込んだ。FPCは想定以上に出荷量が増えている。ただ、競争が激しいため、高付加価値品の拡販に取り組み、選択と集中を進める。
自動車事業は、新型コロナの影響を受けたが、生産性の改善によって3Q単独では黒字化を達成した。欧州は4Qも立ち直ってきており、順調な回復に期待したい」
―御社の100日再生プランの進捗は?
「当社は社内に経営革新委員会を立ち上げ、不動産を除く主力3事業分野(エネルギー・情報通信、エレクトロニクス、自動車)での選択と集中、コーポレート構造改革、固定費削減などを進めている。再生プランの実施で、23年度以降には固定費改善効果が約151億円となる見込み。これに向け20年度の改善効果目標を77億円とした。現状のペースでは、82億円削減できる見込みとなり、進捗率は5割強となる。
また、光ファイバから光ケーブルへのシフトにより、収益力向上を目指す。現状、光ファイバを生産する中国・武漢工場はフル稼働となっている。佐倉事業所と中国工場の光ファイバ生産能力の割合は50対50。事業再生フェーズの最終段階では、佐倉で製造する光ファイバの6~7割を光ケーブルに充当する方針。現状の4割から3割程度伸ばす」
―御社の注力製品・市場は?
「先ほども述べたが、12心間欠固定型光ファイバリボン『スパイダー・ウェブ・リボン(SWR)』を使用したWTCとなる。20年度のSWR/WTCの売り上げは、19年度比1.5倍と大幅に伸びる見込み。欧米のHSDCやFTTx向けに引き合いが非常に強く、半年先まで受注が決まっている。
生産体制は、SWRを佐倉で製造し、光ケーブル化は佐倉、米・ダンカン、英・スウィンドンで行う。20年時点で、16カ国で超多心光ケーブルを展開している。需要増に対応するため、生産性向上投資に傾注している。
特に納入先の英・ブリティッシュテレコムでは、実際に当社の空気圧送型WTCを使用していただいたことで、施工時間の短縮を実感してもらい、納入した当初よりも、WTCの適用先は確実に広がっている。
当社は、グローバルのHSDC向け超多心光ケーブル市場で3割のシェアを占める。情通トラフィック量は右肩上がりに伸びており、今後も増えていく見通し。これに伴い、DC間でますます細径WTCの特長が活かせる。また、通信工事(工法の改善等)・メンテナンスなどのサービス面もきめ細かく、手厚くしており、モノ売りだけでなくコト売りも強化している」
―超多心光ケーブル向けMPOコネクタと光融着機の動向は?
「超多心光ケーブルの出荷増に伴い、MPOコネクタの出荷量も大幅に増加している。当社工場でコネクタ付けした超多心コネクタ付き光ケーブルも、施工現場の作業者がケーブルの敷設後すぐに装置に接続できるため、好評を博している。MPOコネクタは、WTCの伸長に合わせて、中国・ベトナム・インドネシアで順次増産を行っていく。
光融着機需要も好調となり、20年度の出荷台数は過去最高の水準で推移している。当社の光融着機シェアは現在も世界1位。長年にわたって改良と品質向上を続けており、リピーターも多い。最近は切断刃の使用率、交換時期を知らせるソフト開発や、その講習会などのサービスの充実強化を図っている。今後もユーザーが最も使いやすい融着機を提供したい。
超多心光ケーブルの融着作業では、3千456心や6千912心を1心ずつ融着する必要がある。従って、1秒の融着時間短縮が、全体の施工時間の大幅な短縮につながる。コロナ感染防止の観点からも、少人数の迅速な施工が重要となる」
産業線の集約進捗、4割 今後も勝ち残る対話継続
―エネルギー事業の事業戦略は?
「産業用電線・ケーブルの集約を、フジクラ・ダイヤケーブルを基軸に行ってきた。現状の進捗率は4割となる。建設電販市場の再編も進んでいるが、その中で勝ち残るため、同社とは日頃から密接な対話を行っている。建販用電線はボリュームゾーンとなり、この深耕に向け品質と納期短縮に傾注する。これに向け、IoTを含めたデジタルものづくりを工場でしっかりと行っていく。製造現場の強化では、当社が先行している。
また、高周波同軸ケーブルは5G投資向けに非常に引き合いが強い。今後の伸長に期待している」
―御社の研究開発は?
「超多心光ケーブルでは、1万心以上のサンプル出荷が始まっている。需要量を見極めながら、開発していきたい。また、細径コア光ファイバの開発にも、引き続き取り組む」
―21年度の最重要課題は?
「事業の新陳代謝力の向上だ。現状、進めている選択と集中を終えた後には、次のサイクルまたは段階として選択と分散を主眼とし、主力3事業などの裾野を広げていきたい。ただ、これには時間がかかる。今は分散に向けた力を蓄える時で、選択と集中をしっかりと進め、盤石な土台を造る。
また、研究開発の明確な方向性も定め、超多心光ケーブル・コネクタ事業の次の柱となる事業を育てる。例えば、医療や自動車のCASE市場を開拓する」