RCEP加盟国に技術力で対抗
電力問題の解決に注力
日本伸銅協会 百野修会長
5月に日本伸銅協会の会長に就任した百野修氏(JX金属常務執行役員)は、「コンプライアンスに配慮しながら会員各社と情報交換し、多様な意見をまとめるのが当協会の務めだ。伸銅業界の社会的役割を果たし、協会ならびに会員各社の発展のため、尽力していく」と抱負を語った。協会の最優先事項としては、「電力問題の解決、カーボンニュートラルやゼロエミッションなどへの対応、コロナ禍への対応、IWCC(国際銅加工業者協議会)との協働、日本銅センターとの連携」を挙げた。また、RCEPについては「加盟国に対して技術力で対抗していく」と語った。
—新会長に就任しての抱負は?
「当協会の会員社は、伸銅、鉱山・製錬、鉄鋼メーカーの一部門など、さまざまな規模や地域性を持っていることを、改めて実感している。コンプライアンスに配慮しながら会員各社と情報交換し、多様な意見をまとめるのが当協会の務めだと認識している。
ここ数年、伸銅業界は需要が好調だったが、新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻、米国のインフレなどの問題が発生し、現在の景況感は厳しいと感じている。伸銅品は重要な部材で、中長期的には需要は拡大基調にあると確信している。伸銅業界の社会的役割を果たし、協会ならびに会員各社の発展のため、尽力していく」
—伸銅品の需要については?
「足元の伸銅品の生産・出荷動向をみると、昨年と同等の推移となっている。コロナ禍においてテレワーク、オンライン授業などが進み、環境の変化があっても、どの分野でも、さまざまな形で伸銅品が使用される。各分野での需要増に期待している」
伸銅業の発展に向けた4つの最優先事項
—協会の運営における最優先事項は?
「第一に優先して取り組むのは電力問題だ。会員各社共通の課題として、電気料金の値上げが経営を圧迫している。また、工場の拡張、新工場の建設、新規設備導入などの際にも足かせとなっている。日本の伸銅業は世界でも優位性を持つことから、国内での発展が望まれる。政府にも働きかけ、電力問題の解決に向けて取り組んでいく。
二つめは、ユーザからの要望が多い、カーボンニュートラルやゼロエミッションなどへの対応だ。会員社が多様であるため、温室効果ガスの削減量などは一律では決められないが、識者を招いての講演会・勉強会などで、会員社の取り組みをサポートしていく。勉強会に関しては、会員各社の事業における、環境安全、コンプライアンス、品質保証、知的財産、SDGs、DX(デジタルトランスフォーメーション)など、各社共通の課題について情報提供することで、会員社を支援していきたい。
三つめは、長期化しているコロナ禍対策だ。従業員の健康を守り、感染拡大を防ぐことを、会員社とともに取り組んでいく。
四つめは、国際機関であるIWCC(国際銅加工業者協議会)との協働、日本銅センターとの連携の強化だ。今後はより連携を強化することで、グローバルでの情報交換、情報共有化を進める。また、会員社には中堅中小企業が多い。カーボンニュートラルやSDGsの情報提供は、より丁寧に実施する」
—技術開発については?
「NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公募していたプロジェクト「マテリアル・バイオ革新技術先導研究」に応募したが、不採択となった。この技術は、新しい銅や合金を作る際に、実験を重ねるのではなく、デジタル理論で予想するというもの。業界には必要な技術なので、大学や国立研究所と連携し、今後も研究を継続していく。
ほかには、JEITA(電子情報技術産業協会)と定期的に意見交換している。新しい材料について、ユーザと伸銅会社の間で方向性が一致した場合、橋渡しをする予定だ。
また、新たな活動として、バックキャストに取り組んでいる。例えば50年の世界を想像し、そこから振り返って、必要な技術や課題を議論している。バックキャストを実施した企業や団体から情報提供していただきながら進めている」
—エネルギーコスト増の価格転嫁は?
「会員各社の考え方になり、当協会としては何も言えない。エネルギーコストの上昇は業界全体の問題で、安定した電力の供給が一番の課題だ」
—円安が伸銅業界に与える影響は?
「円安が一概にデメリットだとはいえない。ただ、大幅な円安・円高は事業環境が不安定になるため、為替の安定を望んでいる。それよりも米中の景気動向の方が、伸銅業界のみならず、あらゆる企業の業績に影響を与えている。市場の大きさでは、米国、中国、欧州の順となる。米国はインフレが進み、ユーザの買い控えが進む可能性がある。中国はゼロコロナ政策により消費意欲が落ち込んでいるという見方がある。欧州はウクライナから近く、エネルギーコスト増という課題を抱えている。こうした消費が冷え込む要因のほうが、伸銅業界への影響が大きいと感じている」
SDGsへの取り組み 中小会員各社と共有
—SDGsへの取り組みは?
「社会全体でSDGsへの取り組みが活発となっている。ユーザ業界からいただく、SDGsに関するアンケートを、中小企業の会員各社へ展開している。識者による講演会などにより、まずは正しい知識を深めていただいて、情報共有を進めていきたい」
—重量に代わる伸銅品の新指標については?
「伸銅品は強度などの特性向上により板厚が薄くなってきており、従来の重量のみの指標では需要の増減を正確に表せなくなってきていることから、重さに代わって薄さによる指標を検討している。3年前から2品種で、年度ごとにデータを集計している。より正確な傾向をつかむために、今後さらにデータ集計を積み重ねてく」
—石田徳和前会長が掲げていた、ゼロエミッションへの取り組みの進捗状況は?
「3月末に委員会を立ち上げ、基本方針をまとめているところだ。9月に中間報告し、現在は取り組みの実施時期などの検討を進めている。方向性としてはCO2排出を減らすカーボンニュートラルとSDGsが基本方針となる」
—RCEP(東アジア地域包括的経済連携)が業界に及ぼす影響は?
「RCEPは、銅の素材などにかかる関税3%を、3〜10年にわたって段階的に0%にするアジアの自由貿易協定で、素材によっては年に1%ずつ減税される。今年は初年度になるが、急激に輸出入が増減したケースはまだない。ただし、銅管に関しては、設備投資や日本での営業拠点設置など、外資系企業が動き出している。RCEPの影響力を注視し、加盟国に対して技術力などで対抗していく」
【略歴】百野修(ひゃくのまなぶ)氏=1961(昭和36)年8月3日生まれ。85年4月日本鉱業(現JX金属)入社、09年4月同社電材加工事業本部 加工事業部精密圧延ユニット主席参事、10年4月マテリアルズ・サービス・コンプレックス・マレーシアに出向、13年1月同社電材加工事業本部機能材料事業部圧延・加工材料ユニット長、15年1月同社電材加工事業本部機能材料事業部圧延・加工材料ユニット精密圧延担当ユニット長、17年4月同社電材加工事業本部機能材料事業部長、18年4月同社執行役員電材加工事業本部機能材料事業部長、18年5月日本伸銅協会理事(現職)、19年4月同社執行役員機能材料事業部長技術本部審議役、20年5月日本伸銅協会副会長(22年5月まで)、21年4月同社取締役常務執行役員機能材料事業部長技術本部審議役、22年4月同社常務執行役員機能材料事業部長技術本部審議役(現職)、22年5月日本伸銅協会会長(現職)。