メタルケーブル事業一本化で黒字体質
人材育成新制度、24年度に導入予定
岡野電線 永井清俊 社長
2028年に創立100周年を迎える岡野電線(本社:神奈川県大和市)は、古河電工グループの一員として、光ケーブル、高性能メタルケーブル、LANケーブルなど、情報通信分野で幅広く事業展開している。昨年6月に新社長に就任した永井清俊氏は、「人的資源の確保」を最重要課題に挙げ、給与や人事制度の見直しに着手し、従業員の頑張りに応えられるように、24年度からは新しい人事制度を導入すると語った。会社の規模は「ピーク時の6割程度」まで下がったとしたが、「再び売上を増やし、従業員を増やし、活気のある企業にしたい」と抱負を語った。
—新社長に就任しての抱負は?
「当社は2028年に創立100周年を迎える。規模、売上、従業員数など、当社のピークは90年代の前半で、その後徐々に下降している。現在はピーク時の6割程度ではないか。市場動向をキャッチアップできていたのか、現実を直視しつつ、再び売上と従業員を増やし、活気のある企業にしたい。昨年6月の社長就任以来、成長しない企業に未来はないと従業員に言い続けている」
—御社のビジネスを取り巻く市場環境は?
「情報・通信関連(光ケーブル・メタル電線ケーブルおよびその加工品)は、22年度上期を中心に、通信キャリアの設備投資が低調だった。また、自動車・半導体関連は、コロナ禍によるサプライチェーンの分断や、半導体不足による自動車生産台数減少の影響を受けた。特に自動車関連部品を製造している子会社の岡野エレクトロニクスは、売上が低迷した。結果、子会社を含めたグループ4社の売上高・営業利益は、ともに予想を下回っている」
カスタマイズなど 製品の付加価値を追求
—21年度の実績、22年度の見通しは?
「21年度は、グループ4社連結で、売上高は66億円、営業利益は2億円だった。22年度の売上高は6〜7%低下している。営業利益は不確定だが、大きな黒字は出せそうにない」
—23年度の新しい事業計画は?
「当社の光製品は、NTTなど通信キャリアの局舎向けに特化しているため、他社と差別化を図るのは難しい。軽微なカスタマイズや、製造・物流の見直しによるリードタイム短縮など、製品性能プラスアルファの付加価値を追求していく。メタル電線ケーブルは、子会社の九州ネットワークケーブルで生産しているが、所在地である熊本に大手企業が進出していることを、ビジネスチャンスと考えている。FA・ロボットの可動部用ケーブルなどの拡販に注力している」
—御社の注力製品は?
「光ケーブルとメタルケーブルを生産する当グループの強みを生かし、光と給電や制御用メタル電線を1本にまとめた複合ケーブルに注力している。施工時の省力化・省スペース化を実現し、細径化や軽量化など、顧客の要望に合わせたカスタマイズにも対応している。
また、耐側圧光ケーブル『ゴリラケーブル』や、1億回以上の屈曲試験をクリアしている可動用光ケーブル『ロボ・バウアー』は細径化を完了した。現在はどう売るか、というフェーズにある。当社は従来、黙っていても注文をいただけるような顧客に恵まれていたが、そうした体質から脱却し、営業力を強化し、人的資源を割いていく」
—子会社の生産拠点に新たな展開は?
「21年度に、本社工場のメタル電線ケーブル事業を、九州ネットワークケーブルに集約した。結果、メタル電線ケーブル事業が黒字体質となった。また、九州ネットワークケーブルはメタルケーブル、茨城岡野機電は光ケーブルとメタルケーブルの端末加工、岡野エレクトロニクスは自動車部品や半導体などと、各社の位置付けが明確になった。より筋肉質な企業体質となり、5年前と比較して損益分岐点売上高は約1割改善したものの、売上自体が低迷しており課題は残っている」
東南アジア人件費高騰 海外生産を見直し
—海外生産シフトについては?
「かつてはケーブルの端末加工を東南アジア各地で行っていた。しかし、生産地と市場が離れていることは、カスタマイズや物流面でデメリットとなる。また、東南アジアの人件費が上昇したことでメリットが小さくなったことから、現在はごく一部の海外拠点でしか行っていない」
—中長期的な事業計画は?
「古河電工グループが掲げる『ビジョン2030』に基づき、情報、エネルギー、モビリティの融合領域を追求し、社会に役立つ企業を目指す。岡野電線として何ができるか、具体的な事業や取り組みを25年度の中期事業計画に盛り込む予定だ」
—インフレなどによるコスト高の影響は?
「銅、ポリエチレン、FRPなどの原材料が高騰し、21年度下期から22年度上期にお客様に価格改定のお願いをした。昨今のエネルギー費や人件費の上昇に関しても価格転嫁をお願いしようとしている」
—カーボンニュートラルやSDGsへの取り組みは?
「古河電工グループの『環境目標2030』に則り、温室効果ガス排出量を17年度比で46%以上削減するために活動を進めている。既に、九州ネットワークケーブルでは、2010年代半ばに太陽光パネルを導入している。
SDGsに関しては、17の目標うち11番目の『住み続けられるまちづくりを』に該当するが、岡野エレクトロニクスは地元である薩摩川内市との結び付きが強い。83年には、当時の九州岡野電線と樋脇町(現・薩摩川内市)が企業立地協定を締結した。20年には、古河電工と薩摩川内市が産業振興に関する連携協定を締結した。また、避難所マットを市の指定避難所3カ所に配備し、防災・減災の街づくりにつながる取り組みを推進している」
—人手不足、人材育成への取り組みは?
「九州ネットワークケーブルがある熊本が一例だが、外資系企業の進出で賃金が上昇し、地方でも人材確保は困難になっている。対策としては、人材育成プログラム「古河電工グループPeople Vision」を当社も導入し、会社の組織健康度や従業員とのエンゲージメントの向上を図っている。また、給与体系をはじめ、人事制度の見直しを始めている。従業員の頑張りに応えられるよう、人事制度の改定を進めている。4月から一部を試行し、24年度から新制度を導入する予定だ」
—最重要課題は?
「人的資源の確保だ。子会社を含め、従業員は約400人いるが、定期採用が少ない。業績にかかわらず、新制度のもと毎年新しい人材を確保することは、業績向上につながるキーポイントになるのではないか」
【略歴】
永井清俊(ながい・きよとし)=1962(昭和37)年1月19日生まれ。87年4月古河電工入社、19年4月執行役員情報通信ソリューション統括部門ファイバ・ケーブル事業部門長、20年3月執行役員情報通信ソリューション統括部門副統括部門長兼OFSファイテルLLCエグゼキュティブバイスプレジデント、22年4月岡野電線執行役員副社長(現在に至る)。
【趣味】ウインドウサーフィンとゴルフ。
【恩人】古河電工時代にご指導いただいた皆さま。