もうアナタなしでは……
もしも停電になってエアコンが使えないとしたら、夏と冬のどちらがマシか、どちらの季節ならまだ耐えられるか、ふと考えてみました。結論は、やっぱりどっちもイヤです。
「もうアナタなしでは生きていけないの」と愛を誓い合った相手が「錯覚だった……」と気づくのはよくある話ですが、私たちはもうエアコンなしでは生きてけない、といっても過言ではないでしょう。九州地方でも冬の気温は氷点下になりますし、全国的に昨今の夏の暑さときたら“災害級”で、本当に命に関わるほどですから。
一家に3台の時代
内閣府の消費動向調査や資源エネルギー庁の資料などを見ますと、ルームエアコンが一般家庭に普及し始めたのは1965(昭和40)年頃から。時代は高度経済成長期の真っただ中で、カラーテレビと自家用車とクーラー(エアコン)が「新三種の神器」と称され、また、それぞれの英頭文字を取って「3C」とも呼ばれて、豊かな暮らしを象徴する存在でした。そこから20年後の1985(昭和60)年にはエアコンの普及率が2人以上の世帯で50%を超え、令和の現在は90%を超えています。
庶民の憧れの的だった3Cも現在は“テレビ離れ”や“クルマ離れ”がいわれていますが、エアコンは今や一家に1台どころか、2人以上の世帯では平均保有台数が3台を超えています。
エアコンとクーラーの違い
エアコンとは、ご存じの通り「Air Conditioner(エア・コンディショナー)」の略称で、“空気の状態を整える”といった意味がある和製英語です。また、クーラーは元々「Cooler」という英単語で「冷やすもの、冷却器」という意味ですが、冷房の意味で用いても海外では通じません。
エアコンとクーラーの違いを一言で説明すると、エアコンは冷房・暖房兼用機、クーラーは冷房専用機という機能の違いです。今はほとんどの家庭にエアコンが設置されていて、クーラーと聞いても若い人はピンとこないかもしれませんが、エアコンが登場するまではクーラーしかなかったので、年配の人はエアコンでも「クーラー」といってしまいがちです。
また、クーラーは当初「空気調整機」と呼ばれていましたが、1958(昭和33)年に家庭用のものは「ルームクーラー」に統一され、その後、冷暖房機が登場して、1965(昭和40)年にはJIS規格の制定とともに「ルームエアコン」に変更されました。
エアコン古今東西
古代エジプトでは、大壺に水を入れて王様のそばに置き、それを召使いたちが大きな扇であおいでいたそうです。つまり、気化熱で冷えた空気を王様にせっせと送る“人力冷房”といえるでしょう。
世界で初めて電気式のエアコンが誕生したのは1902年といいますから、今から120年以上前のこと。日本は明治35年です。アメリカのエンジニアであるウィリス・キャリアという人が発明しました。ただし人間のための冷暖房機ではなく、印刷工場内の湿気を取り除くために作られたもので、水を冷却したり加熱したりすることで除湿と加湿ができる、噴霧式と呼ばれる仕組みの大きな空調装置だったそうです。それでも、その冷気の涼しさにつられて、休み時間になると大勢の工員が機械の周りに集まってきたのだとか。
日本では明治後期にクーラーが輸入されるようになり、1907(明治40)年に紡績工場で導入されたのが最初だそう。一般家庭に初めて設置されたのは、それから25年も後の1932(昭和7) 年で、アメリカ製のルームクーラーです。その5年後の時点で全国の普及率は約290台と推定されています。
そして、1935(昭和10)年に国産第1号のクーラーが製造されました。当初は大変高価だったため、劇場や事務所などの限られた場所に設置されたようです。そこから戦中・戦後を経て、1960年(昭和35年)に日本で初めて冷暖房機能を備えたエアコンが発売されました。それは、まだ半世紀ほど前のこと。エアコンはこれからもクールで熱い進化を続けていくのでしょう。
参考:「一般社団法人 家庭電気文化会」ホームページ(家電の昭和史エアコン編)、「ナゾロジー」ホームページ(エアコンを発明した天才とは?――)、『国立科学博物館 技術の系統化調査報告 第24集』(「エアコン技術発展の系統化調査」)、他