電工さんの工具箱 第5回 「電工ナイフ」ナイフのなかの異色の存在

石器時代から使われていたナイフ

現在、ナイフの刃の材質はステンレス鋼や炭素鋼が主流だが、昔は石製だった。旧石器時代の話である。日本では、動物などに突き刺したり、その肉を切ったりするのに用いたとみられる「ナイフ形石器」が列島各地で出土している。

約3万年前~1万5千年前のものだそう。
世界では、200万年以上前、東アフリカで進化したホモ・ハビリスが、動物の肉を骨からそぎ落とす鋭利な石器を用いたとされる。ホモ・ハビリスとはラテン語で「器用な人」といった意味だが、器用どころか、最初に石を使って肉をそいだ人は、きっと仲間から「こいつ天才」と思われたに違いない。
ともあれ、旧石器時代といえば石器時代で最古の、人類の歴史で最初のエポックである。ナイフという道具のルーツは、それほど古いものなのだ。

電工ナイフの進化論

「ジェフコム:折りたたみ式電工ナイフ」

人類とともに進化した現代のナイフは、さまざまな用途で使われている。たとえば、調理用ナイフ、食事用ナイフ、医療用ナイフ、野外活動用ナイフ、狩猟用ナイフ、戦闘用ナイフ、絵画用ナイフ、観賞用ナイフ、そして電気工事用ナイフである。
電工ナイフは、電線やケーブルの被覆むきに特化した工具だ。電線の心線を傷つけないよう、あえて研ぎを抑える場合も多い。もちろん切断作業などにも使用するが、〝切る〟や〝刺す〟を第一目的としたナイフ類にあって異色のタイプといえるだろう。
専門特化した工具だが種類は豊富だ。まず形状は、コンパクトに携帯できる折りたたみ式と、固定刃式で素早く出し入れができる鞘つきの二種類に大別できる。刃の素材は、厳密にいえば細かく分かれるようだが、さびにくく手入れが楽なステンレス製が人気だ。一方、鋼製を小まめに研ぎながら長く愛用する人も多くいる。片刃と両刃があるが、最近は両刃が主流のよう。グリップも、手になじみやすい木製、軽量で丈夫なプラスチック製、滑りにくいゴム製などがある。
これらを基本として、メーカー各社から多彩なデザインや付加機能を持つ電工ナイフが開発・販売されている。

「ジェフコム:電工ナイフ(ホルダー付き)」

「マーベル:ザ・ナイフ」

まだまだ進化を続けているのだ。ホモ・ハビリスが見れば、さぞや驚くことだろう。きっと、「現代人は頭が切れる」と思うに違いない。