インフラ更新需要も底堅く継続
緩やかながら回復局面へ
日本電線工業会はこのほど、今年3月に策定した2018年度の電線需要見通しの改訂ならびに2022年度の需要予測を取りまとめた。内需は、日本のマクロ経済指標を前提に公知情報(電線出荷の足元状況含め)から統計的手法による分析に基づいた同委員各社のアンケート結果を集約し、輸出部門については国際問題専門委員会幹事会で策定した。
1、概要
足元の日本経済は、政府の経済施策や日銀の金融対策の効果、中国経済の持ち直し、米国需要回復への期待なども相まって景況感が回復し、欧州もギリシャ危機に端を発した欧州の緊縮局面から脱し緩和的な政策へ回帰できたことで、2017年度は好材料が出揃い緩やかな回復基調となったが、2018年度はこれらの成長要因が継続する可能性が低下し、踊り場局面に入っている。
一方、電線需要はもっとも大きなウエイトを占める建設需要は人手不足が予想以上に長引いてはいるものの、東京五輪関連や首都圏他での大型案件が動き出し緩やかながら回復局面に入りつつあり、民間設備投資関連の需要も緩やかな回復が見られている他、アジア・欧州で大型送電プロジェクト関連の需要が旺盛となっている。
2022年度までの経済動向については、五輪前年に消費税増税や東京五輪開催によるマイナス・プラスの材料が交錯しながら、成長率は鈍化するものの国内景気は緩やかな成長が持続するものと見込まれる。また五輪開催後も増加こそ期待できないものの建設向け需要は一定水準で推移し、電力等のインフラ更新需要も底堅く継続すると見込まれる。
一方で、人口減や高齢化が進むため個人消費や住宅建設の大きな伸びは期待できないこと、米中の貿易摩擦による自動車等での追加関税の動向・影響、英国のEU離脱と離脱後の欧州経済動向の不透明感、大型台風や北海道地震など自然災害による経済への影響など、リスク要因が存在する。
①2018年度改訂見通し
2018年度の銅電線出荷量は、内需69万1千トン(2017年度実績比+3.7%)、輸出2万2千トン(2017年度実績比+6.3%)、内外需計で71万3千トン(2017年度実績比+3.8%)と予測し2017年度に続き2年連続で増加となる見通しである。
需要部門別の内訳を当初見通しに対してみると自動車部門、電気機械部門、及び輸出部門が当初の予測から増となった。
一方、建設・電販部門、電力部門、その他内需部門は当初の予測並みと見込まれる。結果、内外需計では当初予測から増となる見通しである。
アルミ電線の2018年度出荷量は、内需2万5千トン、輸出2千トンで、合計2万7千トンと推定した。
電力部門の需要は当初予測並みの前年度比減を見込み、その他内需部門で当初予測比微減を見込み、輸出部門は前年度比微増・当初予測並みを見込むも、内外需計で2017年度実績比−5.3%と予測した。
②2022年度中期見通し
2022年度の銅電線出荷量は、内需69万2千トン(2017〜2022年度までの年平均伸び率+0.8%)、
輸出2万2千トン(同+1.2%)、内外需計で71万4千トン(同+0.8%)と予測した。
需要部門別では2017年度実績に対し、自動車部門、通信部門は減少を見込むが、建設・電販部門、電力部門、電気機械部門、その他内需部門では緩やかに増加すると見込んだ。
アルミ電線の2022年度出荷量は、内需2万9千トン、輸出2千トンで、合計3万1千トンと予測した。
電力部門の既設張替需要継続のほか、電気機械や自動車向け電線のアルミ化が進展すると見込んでいる。
2、前提条件と主な参考指標
(1)日本のマクロ経済指標(2018年度)
※〈〉内は当初予測時の指標
・実質GDP成長率
+1.0%〈+1.3%〉
・民間最終消費支出
+0.8%〈+0.7%〉
・民間企業設備投資
+2.8%〈+2.2%〉
・民間住宅投資
−4.9%〈−1.2%〉
・鉱工業生産指数
+2・1%〈+3.1%〉
(2)日本のマクロ経済指標(2022年度)
※指標は2017〜2022年度の年平均伸び率
・実質GDP成長率
+0.8%
・民間最終消費支出
+0.6%
・民間企業設備投資
+1.3%
・民間住宅投資
−0.9%
・鉱工業生産指数
+1.1%
(3)内閣府「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」2018年7月
「2018年度内閣府年央試算」2018年7月
「中長期の経済財政に関する試算」2018年7月経済財政諮問会議資料
(4)電力広域的運営推進機関「平成30年度供給計画の取りまとめ」2018年3月
(5)経済産業省「2018年度第1四半期(2018年4—6月期)鋼材需要見通し」
(6)一般社団法人日本鉄鋼連盟「2018年度の鉄鋼需要見通し」2017年12月
(7)一般財団法人建設経済研究所「建設経済モデルによる建設投資の見直し」2018年7月
(8)一般社団法人電子情報技術産業協会「調査統計ガイドブック2018—2019」2018年7月
(9)日本自動車タイヤ協会「2018年自動車タイヤ国内需要年央見直し」2018年8月
(10)国際通貨基金「2018年7月世界経済見通し改訂見通し」2018年7月
(11)民間調査機関資料
・大和総研「第198回日本経済予測」2018年8月
・大和総研「日本経済中期予測」2018年2月
・みずほ銀行「主要産業の需給動向と短期見通し」2018年6月
(12)一般社団法人日本機械工業連合会「平成30年度 機械工業生産額見通し調査」2018年7月
(13)日本政策投資銀行「2017・2018・2019年度 設備投資計画調査」2018年8月
(14)日本銀行「第177回全国企業短期経済観測調査」2018年6月
(15)国土交通省「無電柱化推進計画」2018年4月
(16)東京都「東京都無電柱化推進計画〜電柱のない安全・安心な東京へ〜」2018年3月
3、需要見通し結果
①2018年度電線需要見通し改訂
〈通信〉
固定系通信の減少継続に加えて、通信インフラ光化も継続し当初予測据置、2017年度比減。
〈電力〉
再生可能エネルギーの連携線整備や設備更新が進み当初予測据置、2017年度比増。
〈電気機械〉
民間設備投資やエネルギー関連需要で回復が見られ、当初予測比増、2017年度比増。
(1)重電
再生可能エネルギーや設備更新需要が堅調で当初予測据置、2017年度比増。
(2)家電
個人消費の回復は見られるものの海外生産シフト化も継続し当初予測据置、2017年度比減。
(3)電子・通信
高機能品の需要やIoT関連市場の拡大傾向は継続し当初予測据置、2017年度比並み。
(4)電装品
CASE(接続性、自動運転、共有、電動化)の進展、ドライブレコーダーの需要増により当初予測比増、2017年度比微減。
〈自動車〉
国内需要は前年販売増の反動減等で伸びは見込めないが輸出は欧州、アジア市場の需要増が見込まれ当初予測比増、2017年度比微減。
〈建設・電販〉
東京五輪、首都圏大型案件の本格的な立ち上がりにより当初予測据置、2017年度比増。
〈その他内需〉
民間設備投資の需要増が見込まれ当初予測据置、2017年度比増。
〈輸出〉
主にアジア、欧州向けの再生可能エネルギー、鉄道等インフラを中心とした投資案件向け電力ケーブルを主体に堅調に推移、米中貿易摩擦による世界的景気減速の懸念はあるものの今後も継続するものと見て当初予測比増、2017年度比増。
②2022年度中期電線需要見通し
〈通信〉
通信インフラ光化の継続により、メタル電線の更新需要は期待できず、2017年度比減と予測。
〈電力〉
高経年設備の更新や電線地中化の推進による需要が期待され、2017年度比増と予測。
〈電気機械〉
民間設備投資やエネルギー関連の需要増は継続すると期待され、2017年度比増
(1)重電
再生可能エネルギーや電線地中化に伴う新規設備投資需要が期待され、2017年度比増と予測。
(2)家電
海外生産シフトの進展は継続し国内生産は減少すると見て、2017年度比減と予測。
(3)電子・通信
高機能品、IoT、AI、ロボット関連の需要が堅調で、今後も需要増が期待され、2017年度比増と予測。
(4)電装品
CASE(接続性、自動運転、共有、電動化)の進展はあるものの、国内需要の減少や海外生産シフトの継続により、2017年度比減と予測。
〈自動車〉
人口減少、車離れにより国内需要は減少傾向で、海外生産シフト化も継続し、2017年度比減と予測。原単位も、アルミ化、小型・軽量化の進展により減と予測。
〈建設・電販〉
東京五輪需要は終了するものの工事平準化で後倒しとなった都市再開発や耐震補強工事などの需要継続が見込まれ、2025年大阪万博・IR関連需要にも期待して、2017年度比増と予測。
〈その他内需〉
民間設備投資の堅調に加えリニア中央新幹線向けの需要も本格化すると期待され、2017年度比増と予測。
〈輸出〉
世界的な電力・鉄道インフラ需要の伸長に伴う超高圧海底ケーブルを初めとする電力ケーブルの需要増が期待され、現地生産化は進むものの、高付加価値電力ケーブル輸出は伸びると見て2017年度比増と予測している。