「パリ協定」以降の環境ビジネス
21世紀は「環境の世紀」だといわれています。
世界的な工業化の波は、地球規模で環境を悪化させてきました。エネルギー資源の枯渇、温室効果ガスの増加による地球温暖化などです。
2007年に各国の政府関係者や専門家によって提出された報告書によると、過去100年の間に、地球の平均気温が0.74度上昇したとされています。
このまま気温の上昇が続けば、氷河が溶けて海面が上昇し、海抜の低い都市は水没するおそれがでてきました。また酸性雨による森林被害や、農作物への影響も深刻です。
このような状況から脱却するために、2015年に「パリ協定」が採択されました。
これは2020年以降の地球温暖化対策について国際的な枠組みを定めたもので、わが国も、温室効果ガス削減目標(2030年までに2013年度比26%削減)に向けて官民一体となって取り組むことになりました。
また2011年3月の東日本大震災による電力危機を経験して以降、日本人の省エネ意識は大きく変化したともいわれています。従来は各家庭において節電するという程度だったものが、国全体で電力を効率的にコントロールしよう、ということに国民の関心がシフトしてきたのです。
国による法整備だけでなく、国民ひとりひとりの環境意識も急速に高まりつつあるといえます。
このような事情から「環境ビジネス」は、今後大きく飛躍すると期待されていましたが…。
実際のところ、事業所のロボット化やIOTなどに比べると、「環境ビジネス」はいまひとつ盛り上がりに欠けている印象は否めません。
ではなぜ、「環境ビジネス」は伸び悩んでいるのでしょうか?
各事業所の「EMS化」をビジネスにつなげる
近年、注目されている言葉に「EMS」があります。
あらためて説明する必要もないでしょうが、EMSとはエネルギー・マネジメント・システムの略。事業所において電力の使用状況を管理し省エネ化を実現することです。
事業所や工場において、エネルギー使用量を適切にコントロールすることは、どの企業においても重要な課題です。それは環境への配慮だけでなく、事業所そのものの省エネ化・コスト削減にもつながるということで、EMSが注目を集めたのです。
ここにZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する2017年の資料があります。
それによると、全国で住宅購入を検討している人のZEHの認知度は64.0%、前年比で9.9ポイント上昇。また実際に建築した人でZEHを導入した人は17.7%、前年比で3.9ポイントの上昇で、2年連続で増加傾向にあります。ちなみにZEHの光熱費における経済的メリットは、平均で7,925円/月となっています。
株式会社リクルート 住まいカンパニー「2017年注文住宅・トレンド調査」より
近年ではスマートハウス(HEMS)だけでなく、スマートストア(SEMS)・スマートビル(BEMS)などの言葉も生まれ、国をあげてEMS化が進められています。
しかし残念ながら、どれもブームになっているとはいえない状況のようです。それはなぜなのか?
PR活動や営業努力が足りないということもあるのでしょうが、システムを導入するための費用が高すぎるのも大きな理由のようです。
これでは「ほんとに環境ビジネスって儲かるの?」という声が聞こえてきそうです。
しかし、電気に携るものとして、私たちはメーカーと一緒に地域の人たちの「省エネ」に対する啓蒙活動を行っていく必要があります。それは利益につながるだけでなく、地球環境に対する私たちの使命でもあるのです。
補助金を活用して「蓄電池」ビジネスを推進する
環境ビジネスで忘れてならないのが「太陽光発電」です。
この太陽光発電ですが、FIT(固定価格買取制度)終了後の蓄電池需要が、早ければ今年から動き始めると予想されています。
そのため29年度にはなかった政府による蓄電池関連の補助金が、30年度は経産省と環境省の連携事業として予定されています。これは簡単にいうと太陽光発電のエネルギーを「売却」から「自家消費」へと転換するための政策。これらの住宅は、家庭用蓄電池や家庭用蓄熱設備の設置を推進するための補助金を受けることができるのです。
ちなみに平成30年度は、蓄電池の補助金として84億円の国家予算を盛り込むことが発表されました。また今年度は多くの地方自治体でも、環境対策に対する多額の補助金が用意されています。これらの補助金もほとんどが太陽光発電とセットになっているようです。(詳しくは各自治体のHPでご確認ください)
このように、補助金を活用して家庭用蓄電池の購入を勧めることは、大きなビジネスにつながると考えられます。
今後の日本は人口減少に伴う建設需要の減少によって、電気工事の発注件数が減少していくと予想されています。
一方で国や自治体のバックアップによる環境関連事業や、太陽光発電などの再生可能エネルギー市場は拡大していくと思われます。
このような状況において電気に携る私たちがビジネスチャンスを得るためには、補助金を活用しながら顧客に対して「省エネ化」を積極的にアピールすること、また顧客の「努力と準備」を代行して新しいマーケットを開拓していくことが最重要だといえます。
電気事業者が一丸となって「地球温暖化防止」に真摯に取り組むことは、地球環境の保護に貢献するだけでなく、「ビジネス」に連結する絶好のチャンスでもあるのです。