電設・ウォッチ! 第5回 フルハーネス化義務付けに対して、電設業界が早急になすべきこと

 高所での作業で使う「安全帯ですが、2019年2月よりフルハーネス化が義務付けられることになりました。今回はこのことについて解説したいと思います。

「安全帯」とは、高所で作業する際に使用する「命綱付きベルト」のこと。これを使う仕事としては、建設業・電気工事業・林業・高所での塗装や清掃・消防やレスキューなど多岐にわたります。

 そのなかから今回は私たち電気工事業に絞ってお話ししたいと思います。

安全帯の歴史

 すでにご存知とは思いますが、まず「安全帯」とは何か、についてご説明したいと思います。

 安全帯とは、人体に装着するベルト(帯)にランヤード(ロープなど)がセットされたもの。作業者が高所から墜落する事故を防ぐための個人用保護具です。

 その歴史は意外と浅く、高層ビルが存在しなかった昭和30年代以前は、電柱上の作業者を守り、かつ作業姿勢を安定させるためのもので、皮バンドに麻ロープが付いた簡単なものでした。

 高層ビルの建設が本格化する昭和50年代になると、建設現場において直掛けできる大口径フックが開発され、より安全性が増しました。しかしこの頃はまだ胴に巻くタイプのもので、落下した際に身体が抜けるリスクや、落下阻止時に身体が「くの字」に曲がり腹部や胸部を圧迫してしまうという難点がありました。そこで開発されたのが「フルハーネス型」の安全帯です。

フルハーネス型安全帯とはどんなものか?

 では次に「フルハーネス型安全帯」についてご説明いたします。

 これは肩や腿(もも)、胸などの複数のベルトで構成されており、落下時に身体が安全帯から抜け出すことや、胸部・腹部を圧迫するリスクを軽減しています。

 また、宙吊り状態になっても身体が逆さまにならない機能があり、背中に装着されているショックアブソーバーは、高所から落下した際に受ける衝撃を軽減してくれる役割を果たしています。

 とはいえ現在でも、一部の作業を除くと、まだ多くの作業員が「胴ベルト型」を使用しているのが実情です。これをすべてフルハーネス型に切り替えよう、というのが今回の通達なのです。

厚労省の通達事項と電気業界の対応について

 それでは、今回の厚生労働省(以下・厚労省)の通達について詳しく解説いたします。

 厚労省は、高所作業中の落下事故を防ぐフルハーネス型安全帯について、これを義務付ける労働安全衛生法に基づく新ルールを、2019年2月から適用します。また22年1月からは、現行規格品の着用・販売が全面的に禁止となります。

 厚労省の調査によると、高所からの転落事故は毎年減少傾向にあるものの、2016年の死者数は294人、死傷者数の合計は1万5千人となっています(建設業におけるデータ)。これをゼロにするためにも、フルハーネス化の実施は必要不可欠と言えます。

 新ルールでは、高さ5メートル以上の場所でのフルハーネスの着用を義務化します。5メートル未満の作業では、従来の胴ベルト型でも問題ありませんが、2022年1月には、これも禁止されます。

 ただし厚労省によると、このルールに電気工事は含まれていません。

 電気事業連合会では鉄塔や電柱上など、電力業界特有の作業があることから、厚労省に柔軟な対応を求めています。

 しかし、厚労省によると「(電力業界に向けた)安全帯の買い替えに対する補助金の交付などは考えていない」とのことで、今後さらに検討を進めていくことが必要です。

今後の問題点

 胴ベルト型の安全帯と比べてフルハーネス型の方が、安全性・人体に与える影響などあらゆる点で高性能であることは前述の通りです。しかし問題点がないわけではありません。

 フルハーネス型の装着に関して、2019年2月までに中央労働災害防止協会(中災防)が定める「特別教育」を受ける必要があります。器具の構造や種類、装着法、点検・整備の方法や実技を計6時間ほど受講するのです。

 中災防の幹部は「工事の元請け会社に限らず、下請けやさらにその下の作業者にまで教育の裾野を広げていきたい」と話しています。現場の作業員一人一人が中災防の意図を理解し、どれだけ安全に対して徹底できるかが今後の問題点といえます。

 慣れ親しんだベルト型からフルハーネス型への転換は、まず高所作業に従事する現場作業員の意識改革が必要といえそうです。

 一方、フルハーネス型安全帯自体にも改善の余地が残されているようです。人体を複数の箇所で保持するため、どうしても手足の動きが制限されてしまいます。鉄塔や電柱の上で、細かく正確な作業を求められる電工にとって、この不自由さをどう克服していくか。

 また、夏の作業着「空調服」との相性を疑問視する声もあります。冷却用の空気で膨らむ服に、安全帯をどう装着するのか。細かくあげれば、その他にもまだまだ改善の余地はありそうです。

 しかし「安全」は工事に携わるすべての人とその家族の願いです。転落事故「0人」の実現を目指して、私たち全員でフルハーネス化を推進していきたいものです。