無電柱化特集

無視できない災害対策と景観の整備という課題

無電柱化については、工事費用や関連機器の設置場所確保など、未解決な問題も多々あるが、昨年12月には「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」が閣議決定し、追い風としての期待が高まっているだけに、今後とも市場からは目が離せない。


日本国内には約3600万本の電柱があり、いまもなお年間約7万本ずつ増加している。先行する欧米やアジア諸国との比較による無電柱化論議もなんのそのといった情勢だ。
ただここ数年来、無電柱化にも活発化の兆しがみられることはたしか。安全性・快適性の確保や良好な景観という時代の要請もさることながら、稀にみる近年の自然災害の激甚化、あるいは頻発化が背景にあるからだ。
自治体レベルでも、無電柱化条例の制定や「無電柱化を推進する市区町村長の会」の発足などの動きがみられる。
そんな状況ではあるが、気になる動きも一方にある。電柱を巡るもので、ひとつは電力会社による電柱の老朽化対策。
電柱は1980年代までに建てられたものが多く存在し、更新期を迎える2050年ごろには施工(建て替え)能力を超える可能性がある。このため前倒しで工事量を平準化する方針を固めた。
ちなみに、関西電力管内では、配電設備に年間300億円程度を投資し18年度だけでも2万本の電柱を新設している。
もうひとつの動きは、電柱などの送配電設備をITインフラとして活用するというもの。
電柱にカメラを設置して、車からは死角になっている場所の情報を収集したり、ドローンの飛行経路に送電網を活用するなど。すでにメーカーと協力して、今年1月から電柱を使った自動運転関連の実験を開始している電力会社もある。
これらに共通するのは、無電柱化を指向するのではなく、あくまでも電柱ありきの対策であること。たしかに、2020年までに無電柱化を1400㎞延長するという国の計画が実現できても、国内全体の道路約120万㎞からみれば、わずか0.1%程度にすぎない。
このため、既存設備を有効活用したいという選択肢を選ぶのも理解できなくはないが、このような計画は、無電柱化にとっては、水を差す結果にならないか。そんな懸念を拭えない。

とくに、災害対策と景観の整備という喫緊の課題は到底、無視できるものではない。とりわけ、台風、地震などの自然災害に見舞われる可能性を払拭できない日々にあってはなおさらである。
災害といえば、近畿地区を襲った昨年7月の21号台風が記憶に新しいが、それに匹敵、あるいは、以上とみられるのが今年9月の台風15号。
暴風雨や飛来物による電柱など配電設備の故障から9月11日現在、千葉県で46万1400戸、神奈川県で9400戸の停電が発生。東京電力では、災害対策本部を設置して対応するほか、東北や関西など他電力からの応援を得て復旧に当たるものの、住民の不自由はなかなか解消されなかった。
自民党「無電柱化小委員会」の宮内秀樹事務局長はこうした現状を憂慮し、次のように訴える。
「電柱は全国に3600万本ある。電柱を減らせば、景観もよくなり地域の経済発展につながる。2018年の台風21号で約1300本の電柱が被害を受けた。住民にとっては非常に危険だ。電柱なら1㎞あたり2千万円だが、地中化すると約10倍になる。国民に理解してもらい、コストを電力料金に上乗せしてはどうか。16年に電柱新設の抑制をうながす基本法が議員立法で成立。新設を強制的に禁止する法改正も今後考えられる」。

このような状況のなか、昨年12月には「重要インフラの緊急点検の結果及び対応方策」を踏まえ、「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」が閣議決定した。無電柱化市場にとっては、追い風といえるだろう。
3カ年緊急対策は、7月の豪雨をはじめ、大阪北部地震、北海道胆振東部地震など、昨年に激甚な災害が相次いで起きたことから、防災や国民経済・生活を支える重要インフラについて点検を行い、その結果に基づいて対応していく。
計画では、「国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持」の観点から、緊急に実施すべきハード・ソフト対策について、2020年度までの3年間で集中的に行う。
このうち、地域における総合的な防災・減災対策、老朽化対策等に対する集中的支援(防災・安全交付金)では、「無電柱化推進計画支援事業」(290億円)を創設。
無電柱化推進計画(2018年度~2020年度)に定めた目標(約1400㎞の無電柱化着手)の確実な達成に向け、事業に係わる地方公共団体による無電柱化の整備を計画的かつ重点的に支援する。

一方、回を重ね、着実に定着をみつつある「第5回無電柱化推進展」が今年も7月24日~26日の3日間、東京ビッグサイトで開かれた。


無電柱化により、安全で快適な歩行空間の確保や防災機能の向上などのメリットが生まれるが、半面、地中化には工事費用や電機設備の省スペース化など、早急に解決が求められる課題も山積している。
展示会では、これらの諸課題を解決する新しい省コスト工法や新技術・製品・サービスを多数展示して、来場者の関心を集めていた。
期間中に開かれたセミナーは、東京都をはじめ、千葉県の「むつざわスマートウェルネスタウン住宅」など、他に先駆けて、無電柱化に取り組む自治体の事例や省コスト技術などが紹介され、会場を埋めた聴講者は熱心に耳を傾けていた。
主催者発表では、3日間の来場登録者数は、4万5199人(併催展含む)と前回を上回った。
なお、「第6回無電柱化推進展」は、来年の7月29日~31日の3日間、大阪・南港のインテックス大阪3・4・5号館に会場を替えて開催する予定となっている。

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【防災・減災、国土強靭化のための3カ年緊急対策】(要旨)
□無電柱化
既往最大風速が一定程度以上で、電柱倒壊の危険性の高い市街地の緊急輸送道路の区間(約1万㎞)において、災害拠点へのアクセスルートで事業実施環境が整った区間約1千㎞において無電柱化を実施。
□耐震
耐震対策未実施の橋梁約600箇所(緊急輸送道路上の橋梁のうち、今後30年間に震度6以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域にあり、事業実施環境が整った橋梁)、道の駅30箇所(地域防災計画に位置付けがあり、耐震対策未実施の道の駅)について、耐震補強に係る緊急対策をおおむね完了。
□踏切
救急活動や人流・物流等に大きく影響を与える可能性がある踏切約200箇所について、長時間遮断時に優先的に開放する踏切への指定等や踏切の立体交差化等の緊急対策を実施。うち約20箇所において期間内に立体交差化を完了。
□停電・節電
停電により情報が遮断され、管理上支障が生じる恐れのある道路施設約1600箇所(事前通行規制区間内等にある道路施設で無停電設備が未設置な箇所等)、道の駅約80箇所(地域防災計画に位置づけがあり、無停電設備が未整備な道の駅)、無停電設備(発動発電機、蓄電池)の整備等の緊急対策をおおむね完了。
□豪雪
道路上での車両滞留の発生を踏まえ、大規模な車両滞留リスクのある約700箇所について、待避場所等のスポット対策や除雪車増強の体制強化等の緊急対策をおおむね完了。