日本電線工業会 2021年度電線需要見通し改訂 および2025年度の需要予測

2021 年度改訂 電気機械、自動車、輸出増加

日本電線工業会はこのほど、3月に策定した2021年度の電線需要見通しの改訂および2025年度の需要予測を取りまとめた。
内需は、日本経済マクロ指標を前提に公知情報(電線出荷の足元状況含め)から統計的手法による分析に基づいた当委員各社のアンケート結果を集約し、輸出部門については国際問題専門委員会幹事会で策定した。

概要

2020年度の日本経済は、上期は新型コロナウイルスの世界的拡大の影響を受け大きく減速したものの、下期には長期化するコロナ禍においても多少の回復傾向となった。
2021年度は、前提となる参考指標では2020年度比では大きく回復するものの、鉱工業生産指数・輸出・輸入以外の指標はコロナ前の水準にまでは戻らない状況となっている。
2025年度までの経済動向については、2023年度以降成長率は鈍化するものの国内景気は緩やかな成長が持続すると見られる。2024年度までは首都圏再開発や大阪・関西万博関連の需要が見込まれ、電力部門では老朽化したインフラ維持更新需要や再生可能エネルギー関連の需要増が期待される。一方で、コロナ長期化によるサプライチェーン等のリスクの増大や国内の人口減少による個人消費や住宅投資の伸び悩み、労働力減少による人手不足や建設工事費の上昇等が懸念される。また、関連諸国の貿易摩擦が長期化すると、輸出関連事業の減速も引き続き懸念される。

①2021年度改訂見通し
2021年度の銅電線出荷量は、内需62万3千トン(2020年度実績比+2.0%)、輸出1万4千トン(同+18.6%)、内外需計で63万7千トン(同+2.3%)と予測した。
需要部門別の内訳を当初見通しに対してみると、電気機械部門、自動車部門、輸出部門が当初の予測から増となった。一方、電力部門、建設・電販部門は当初の予測から減と見込まれる。結果、内外需計では当初予測と同じ数量となる見通しである。
アルミ電線の2021年度出荷量は、内需2万2千トン、輸出6千トンで、合計2万8千トンと予測した。電力部門の需要は、電力設備投資の端境期に加え、架空線張替工事、AL配電線等の需要低調により、当初予測比減、前年度比減と予測した。その他内需部門は銅相場高騰継続により、アルミ電線への切り替えが進み前年度比微増を見込み、輸出部門は大型案件の終了により、前年度比減を見込み、内外需計で2020年度実績比−12.2%と予測した。

②2025年度中期見通し
2025年度の銅電線出荷量は、内需65万4千トン(2020〜2025年度までの年平均伸び率+1.4%)、輸出1万5千トン(同+4.9%)、内外需計で66万9千トン(同+1.4%)と予測した。
需要部門別では2020年度実績に対し、通信部門は微減を見込むが、その他の部門では緩やかに増加すると見込んだ。電力部門は高経年ケーブル、施設の更新や再生可能エネルギー関連の需要増が期待され、2020年度実績比増と予測した。電気機械部門は電子・通信、電装品の需要増と設備投資の回復に期待し、2020年度実績比増と予測した。建設・電販部門は、首都圏再開発、大阪・関西万博関連の需要は2024年度まで増加が見込まれる。その後、2025年度にはピークアウトするとみられるものの、新型コロナの影響は徐々に回復するとみて、2020年度実績比増と予測した。
アルミ電線の2025年度出荷量は、内需2万6千トン、輸出9千トンで、合計3万5千トン(2020〜2025年度までの平均伸び率+1.9%)と予測した。電力部門の再生可能エネルギーの進展に伴う大型連系線の増強や、ビル用ハーネスや自動車向け電線のアルミ化が進展すると見込んだ。

前提条件と主な参考指標

●(1)日本のマクロ経済指標(2021年度)
※〈〉内は当初予測時の指標
▽実質GDP成長率
+3.4%〈+3.8%〉

▽民間最終消費支出
+3.3%〈+3.1%〉

▽民間企業設備投資
+4.6%〈+4.0%〉

▽民間住宅投資
+1.9%〈+0.0%〉

▽鉱工業生産指数
+12.3%〈+13.8%〉

●(2)日本のマクロ経済指標(2025年度)
※指標は2020〜2025年度の年平均伸び率

▽実質GDP成長率
+2.0%

▽民間最終消費支出
+2.1%

▽民間企業設備投資
+2.9%

▽民間住宅投資
−0.3%
▽鉱工業生産指数
+4・7%
●(3)内閣府
「令和3(2021)年度内閣府年央試算」2021年7月
「中長期の経済財政に関する試算」2021年7月経済財政諮問会議資料

●(4)電力広域的運営推進機関
「2021年度供給計画の取りまとめ」2021年3

●(5)一般社団法人日本鉄鋼連盟
「建設経済モデルによる建設投資の見直し」2021年4月

●(6)一般財団法人建設経済研究所
「建設経済モデルによる建設投資の見直し」2021年4月

●(7)日本自動車タイヤ協会
「2021年自動車タイヤ国内需要年央見直し」2021年7月

●(8)国際通貨基金
「2021年7月世界経済見通し改訂見通し」2021年7月

●(9)民間調査機関資料
▽大和総研「第210回日本経済予測」2021年8月
▽大和総研「日本経済中期予測」2021年1月
▽みずほ銀行「主要産業の需給動向と短期見通し」2021年6月
▽みずほ銀行「日本産業の中期見通し」2020年12月

●(10)日本政策投資銀行
「2020・2021・2022年度設備投資計画調査」2021年8月

需要見通し結果

①2021年度電線需要見通し改訂
〈通信〉
新規通信事業者参入や5Gの普及は継続するものの、光化進展の動きも継続し、当初据置、2020年度比減。

〈電力〉
ケーブル、施設の更新需要、再生可能エネルギーの進展により、当初比減ながら、2020年度比増。

〈電気機械〉
電子・通信、電装品を中心に回復が進み、当初比増、2020年度比増。

●(1)重電
設備投資の再開が見込まれ、当初据置、2020年度比増。

●(2)家電
長引くコロナ禍により個人消費が伸び悩み、当初据置、2020年度比減。

●(3)電子・通信
5G、リモートワーク関連需要の増加により、当初据置、2020年度比増。

●(4)電装品
半導体供給問題の懸念はあるものの、自動車生産台数の回復、CASE機器関連向け需要増により、当初比増、2020年度比増。

〈自動車〉
新型コロナ感染再拡大による需要回復の遅れや半導体供給問題の影響を受け、国内生産台数は当初予測比減となるものの、原単位の上昇により、当初比増、2020年度比増。

〈建設・電販〉
コロナ禍の影響長期化に加え、首都圏再開発等大型案件の端境期となり、当初比減、2020年度比減。

〈その他内需〉
ワクチン接種率の高まりにより、民間設備投資は徐々に回復し、当初据置、2020年度比増。

〈輸出〉
コロナ感染拡大の長期化に伴い、プロジェクトの延期・中止が続いているが、更新需要、設備投資の回復や脱炭素化向け投資需要もあり、当初比増、2020年度比増。

②2025年度中期電線需要見通し
〈通信〉
テレワーク、データセンター需要はあるものの、通信インフラ光化の動きは継続すると見て、2020年度比ほぼ横ばいと予測。

〈電力〉
高経年ケーブル、施設の更新や再生可能エネルギー関連の需要増が期待され、2020年度比増と予測。

〈電気機械〉
電子・通信、電装品の需要増と設備投資の回復に期待し、2020年度比増と予測。
●(1)重電
発電所・プラント・民間設備の改修・高効率化関連投資に期待し、2020年度比増と予測。
●(2)家電
高機能デジタル家電への需要は回復に向かうものの、海外生産シフトは継続し、2020年度比横ばいと予測。
●(3)電子・通信
AI、IoT、ロボット、医療関連向け需要増が見込まれ、2020年度比増と予測。
●(4)電装品
CASEの進展による需要増は長期的に継続するとみて、2020年度比増と予測。

〈自動車〉
国内需要は人口減少、カーシェア等の車利用の多様化による販売減少傾向は継続するも、電動化の進展、グローバル需要の回復による輸出増に期待し、2020年度比増と予測。

〈建設・電販〉
首都圏再開発、大阪・関西万博関連の需要は2024年度まで増加が見込まれる。その後、2025年度にはピークアウトするとみられるものの、新型コロナの影響は徐々に回復するとみて、2020年度比増と予測。

〈その他内需〉
民間設備投資の回復に期待し、2020年度比増と予測。

〈輸出〉
再生可能エネルギーの普及拡大に伴い、欧州やアジア等での連系線需要拡大に期待し、2020年度比増と予測。

電材流通新聞2021年11月18日号掲載