【トップインタビュー】 古河電工・小林敬一社長

洋上風力など電力向け存在感が大切
5Gや自動車等、開発投資緩めれば成長の機会逸する

古河電気工業株式会社 代表取締役社長 小林敬一氏

古河電工の小林敬一社長は共同取材で「光ファイバなどの情通製品は、高付加価値製品を軸に、事業展開し、データセンターやCATV、放送、キャリア市場向けなど様々な顧客ニーズに応じ、古河グループ一丸で需要を捕捉する。5Gは、ローカル5Gから需要が動き、そこから手を打っていく」と積極的に語った。洋上風力発電では「当社の浮体式ケーブル事業が、発電機メーカーや施主等から安心だと言われ信頼され、存在が認知されることが大事」と述べた。また、中計の最終の20年度営業利益目標は、「経営環境が良好な時点で400億円以上から、500億円以上に引き上げた。現状、事業が厳しいものの当初目標は、何とか死守したい。一方、5G分野の伸展や自動車産業の技術革新に沿った開発投資を緩めれば将来、成長する機会を逸する。先行投資は情勢を睨みながら適切に行う」と述べた。また、同社事業の再編については、「19年で完了していない」とした。


—御社のビジネスを取り巻く市場情勢は?
「(汎用)光ファイバ価格の大幅下落に加え、自動車市場がやや緩むなど需要環境が変化し、当社の上期業績は減収減益だった。ただ、データセンター向け光ファイバ需要は底打ち感があり、次第に上向くだろう。
こうした情勢下、必要な手立ては講じてきた。
まず、ローカル5Gをはじめ5G市場向け研究開発や設備投資を進めている。
続いて建販電線ビジネスで昭和電線ホールディングスと(20年4月に)新会社を設立することを決めた。
加えて自動車の電動化に即し、モーター用など平角巻線等を海外の地産地消でユーザーへ提供できるように、巻線で世界最大手の米・スーペリアエセックス社と自動車用巻線事業を軸に合弁会社を設けることにした。
また、銅管事業は、事業資産営業利益率の向上など財務体質の改善を図るため投資ファンドへの売却を決定した」

—5Gを含めた光情通事業分野のターゲットは?
「5Gについては、情通範囲が限定されたローカル5Gから、携帯基地局整備の普及などが進むとみられ、そうした市場を狙いたい。
また、データセンター(DC)向けも期待でき、DC間をつなぐ(6千912心の)超多心細径光ファイバ・ローラブルリボンケーブルの需要が増えるだろう。
当社グループの光ファイバ戦略は、高付加価値製品を中心に展開する。それは、ほかの情通関連製品についても同様だ。DCと携帯電話基地局などとの接続については、大容量伝送に対応するデジタルコヒーレント技術を用いた光アンプ用光部品の波長可変レーザアセンブリ(ITLA)、ルーターなどが有望。さらに家庭内に光回線を引き込むFTTH用途には、曲げに強い光ケーブルが期待でき、引き合いが増えるだろう。また、当社グループの光情通技術をフル活用し、5Gの伸展に備えると同時に、その商機の需要捕捉に向け準備を進めている。
情通インフラでは、(通信や放送事業者、鉄道や公共施設用途などに加え)CATV向け4K・8K放送も含むFTTHシステム提供など、いずれにしてもユーザーが強化・充実を図りたいニーズへ、様々な提案ができるように、種々な技術や製品を融合して対応する。当グループは一丸となってユーザーの声や要望を集めると同時に、これまで培ってきた技術を統合しながら先行的な開発を推進していく。つまり、ユーザーが成し遂げたいことを実現できるようにしたい」

電力ジョインター 採用と育成に注力

—洋上風力発電など電力への取り組みは?
「当社の開発したライザーケーブルが評価され、英国カーボントラスト社から浮体式洋上風力プラント用超高圧ダイナミック海底ケーブル開発業務を受注した。ただ、日本の海のように水深が深いと10MWの風車には潮流によるケーブルへの負担が大きく、それは遠浅な欧州とは比較にならないほど大変だ。風車への電力ケーブル設置技術なども含めた研究・開発をさらに掘り下げて進めている。日本の海での潮流の解析をさらに進めるとともに、より長期間の海流の変化に耐えられるケーブルの開発に向け、メタル及びポリマーの研究から推進している。
当社の浮体式ケーブル事業が、発電機メーカーや施主等から安心だと言われ信頼され、存在がキチンと認知されることはもちろんであり、再生可能エネルギーの強固な送電網の構築への一助になればと考える」

—電力ケーブルの接続技術者(ジョインター)の育成は?
「ジョインターの採用の際に、PRビデオを観てもらい、プライドを持てる仕事であることをアピールしている。さらに人材育成に力を注ぎ、技能オリンピックも実施している。また、電設会社の接続部隊の方たちと一緒に協働したり、指導したりしてジョインター組織を拡大している。ただ、ジョインターの過剰は避けたい」

——米・スーペリアエセックス社との自動車用巻線事業の展開は?
「米・スーペリアエセックス社とは長年提携関係にあった。こうした中でドイツで進めてきた(17年3月に耐高電圧巻線=HVWW=製造で設立したジョイベン)工場で当社からの技術導入の効果が出たこともあり、車載用巻線事業を軸に合弁契約を結んだ。エ社は巻線で世界トップであり事業規模の差はあるものの、当社は出資比率39%を確保し、事業運営に強い覚悟をもって臨む。当社は、HVWWなどの高電圧に適した車載用巻線の技術にたけており、エ社はグローバルな製造販売拠点体制が強みである。当社のHVWW等のの生産技術を、エ社の製造拠点で生かし(相乗効果が発揮できれば)、ユーザーが求める(より近い)地域から、出荷できるようになる。HVWW等の出荷は、まず北米と中国のエリアからスタートしたいと思うが、どこの拠点で当社技術を用いた巻線を製造するか、現在、考えている」

車部品市場は鈍化も アルミハーネス伸長

—ワイヤーハーネス(WH)など自動車部品事業への取り組みは?
「貿易摩擦などの影響で、自動車部品市場は鈍化したものの、クルマの軽量化に寄与するアルミワイヤーハーネス(AlWH)の採用が拡大している。自動車用アルミ電線ケーブル用端子・導体の合金設計や、コネクタ接続部分の生産技術まで、すべて自前でできる。これは非常に強い製品といえる。当社のAlWH採用車は現状、33車種だが、22年には50車種に増えそうだ。
また、バッテリーの状態検知センサーやエアバッグを作動させる電子部品のSRC(ステアリング・ロール・コネクタ)も、自動車部品市場ほどの落ち込みはなく、健闘している。
現状、しっかり利益を出すことが大事だ。しかし、クルマの電動化や高機能化に即した先行的な開発投資は引き続き、行う必要がある」

—銅管事業売却については?
「世界的に銅管は、供給過多になり、付加価値のある製品に絞り込み、生産量はかなり減った。また、当社で工夫した製品も、機械生産でき収益が厳しくなった。当社として原価低減への設備投資が難しい状況で、今まで培ってきた技術を何とか生かしたいと思い売却を決断した。当社の銅管事業は、新体制のもとで強化されていくだろう。(周知のように、売却先の)ファンドは、当社の銅管事業と傘下にあるコベルコマテリアル銅管事業を一体で運営し日本連合として、世界の大手企業と伍して戦えるようになった」

—中計への取り組みは?
「中計の最終年度となる20年度営業利益の目標は、経営環境が良好な時点において400億円以上から、500億円以上に引き上げた。現状、事業が厳しいものの当初目標は、何とか死守したい。一方、5G分野の伸展や自動車産業の技術革新に沿った開発投資を緩めれば将来、成長する機会を逸することも否めない。20年度営業利益の目標値修正も考えられる。しかし、現状は今後の各市場の情勢や動向と、先行投資について両にらみしながら、その具体的な数値を詰めている段階にある」

—ところで19年は事業の再編や統合が多かったが、20年以降の取り組みは?
「当社事業の再編については、19年で完了していない。当社は、情通・エネルギー・モビリティーの融合や環境配慮など2030年ビジョンを策定している。その中で成長が見込まれる事業をしっかりと伸ばしていく。並行して、事業資産営業利益率の向上も図りたい。社会への貢献とともに、資本コストに見合う収益の双方を大事に照らし合わせながら、今後とも再編を続け、事業の最適化を進めていく」

電線新聞 4188号掲載