住宅用分電盤特集 機能を高め 市場の縮小傾向に対応

新型コロナウイルス感染拡大が騒がれだしてまる1年が経過した。あっという間に世界中に広がるなかで、人類はこれまで経験したことのない規模での日常生活の変化を余儀なくされ、経済にも深刻な影響を与え、いまだその出口は見えてこない。我々電材業界も例外ではないが、今回はその基幹商品ともいえる住宅用分電盤の足元の現状と今後の見通しについてリポートした。

新築マンション 戸建て分譲住宅

不動産経済研究所は、2020年の首都圏の新築マンション発売戸数が前年比12.8%減の2万7228戸だったと発表した。新型コロナウイルスで営業を一時自粛したことなどが響いたとみられるが、3万戸を下回るのはバブル崩壊後の1992年以来となる。
その一方で、在宅勤務の普及にともない、郊外の物件が人気を集めるといった新たな動きもあった。

おなじく大きな市場を握る近畿のマンション発売戸数は2019年比15.8%減だった。こちらも1992年以来の低水準となったが、2021年については1万8000戸と19年とおなじ水準まで回復すると見通している。

新築マンション

戸建て分譲住宅

リフォーム需要は堅調

これらと連動するように、住宅用分電盤の市場も厳しい状況が続いている。
日東工業は「令和2年の住宅着工件数は減少が続いているため、住宅用分電盤もこれにともなった動きとなったと推測される」と、テンパール工業は「令和元年と比較すると新設住宅着工戸数が減少しているが、リフォーム需要や蓄電池関連などが堅調に推移したことで、総じて微減に留まっている」と、河村電器産業は「市場としては縮小傾向にある。そのため、各メーカーはHEMS、ZEHなどの対応で付加価値を加えた製品でシェア獲得を目指している。今年もこの傾向は進むものと考える」と見方はほぼ一致している。
新型コロナウイルスの感染拡大により、住宅着工が減少したことに加えて活発なインバウンド需要を背景としたホテルの客室分電盤での需要が大幅に減少したことで市場環境は厳しくなっている。それに合わせて、資材の調達の遅れによる工期の延長や延期なども相次いでいる。

このように、新設用分電盤の販売については、当然ながら影響を受けることとなり、厳しい市場環境のなかでの販売活動を強いられるものと考えられる。ただ、最近は住宅以外にもホテルの客室盤や小規模店舗の店舗盤、ユニットハウスやパチンコ店の島盤など裾野は以前よりも広くなっている。

もうひとつの新たな動きとしては、在宅勤務にともなう需要が考えられる。新しい生活様式が始まったことで自宅で過ごす時間が増え、家庭でのエアコンの使用をはじめとした電気の使用量が増大し、電力不足などが大きな社会問題にもなっている。

これへの対応については、パナソニック ライフソリューションズ社が「スマートコスモ マルチ通信型はLANアプリに対応しており、スマートフォンでも電気の使用量が簡単に見える化がチェックできる」と語る。河村電器産業は「政府の緊急事態宣言による在宅勤務推進により、住宅の一部改造、通信設備の設定などリフォーム・リニューアルの需要が多くなると予想する。住宅の情報通信設備の充実化にともない通信機器収納ボックス、盤の需要も高まる」と今後に期待している。

今後重要なことは、売上げをいかに伸ばすか。それにはどのような取り組みが必要かが問われているのはいうまでもない。各社とも、これまでの技術を活用し時代の要請に応えようとしている。

 日東工業
「新築着工数の増加が見込まれないなか、リフォーム・リニーアルや、カーボンニュートラルに向けたエネルギーマネジメントなど市場トレンドへの対応に加えて、防災・減災についても継続に取組み、より付加価値の高い製品・サービスの拡充が必要と考えている」

 河村電器産業
「自宅でのテレワーク、在宅活動に合わせ、リフォームなどの案件において、回路の増設、通信機器の収納、安全機能が求められていく。既存に多くの製品があるが、求められる機能をよりコンパクトにまとめた製品が求められてくる」

 テンパール工業
「注文をいただいた住宅用分電盤を販売するだけでなく、環境面や防災・減災などを意識した製品やサービスを提案させていただけるよう、自社の商品への特長を持たせる事が大事だ。またリフォーム市場の受注強化のため、マンション管理組合や居住者の方などへの訴求に注力する必要があると考えている」
これらと呼応するように、各メーカーは時代の流れに沿った製品開発で業績拡大を目指している。

 パナソニック ライフソリューションズ社
「高機能化する電機機器の増加に伴い対応する住宅分電盤スマートコスモと、地震による通電火災から自宅を守る感震ブレーカーに注力する。とくに感震ブレーカーは、新築・既築の分電盤に簡単に設置でき、取り替え交換時期(10年)を知らせてくれるアラーム機能や交換時に施工が簡単にできるコネクタも搭載しており取付け・施工も簡単である。施主様にも大変わかりやすい『地震に備える1分ですっきり』などの商品動画も各種揃えている」

 テンパール工業
「住宅のリフォーム・リニューアル市場は、堅調な推移が予測されるため、蓄電池関連や地震対策の商品と組みあわせて、この分野の深耕を図ることは欠かせない。すぐに結果を出すことはむずかしいが、AI・IoTなどを自社の商品と結びつけることで独自性をうみ出すことに注力する」

 日東工業
「新築着工数の増加が見込まれないなか、リフォーム・リニューアルや、カーボンニュートラルに向けたエネルギーマネジメントなどの市場トレンドへの対応に加えて、防災・減災についても継続して取組み、より付加価値の高い製品・サービスの充実が必要と考えている」
河村電器産業
「情報システム配線盤は、家庭用モデムやルーターなどをすっきり納め、通信設備機器を収めるキャビネット。より良い通信環境に合わせ、多くの通信機器を収めることができ、今後の住宅ワークの必需品となると予測している。入線部を常用回線と非常用蓄電池回路を切替するスイッチを収めた切替開閉器盤は、ZEHなどの付加機能として家庭のエネルギーの自家消費を実現するための家庭用蓄電池システムの普及が進んでいるなかで、停電時の現場復旧や省エネなどの観点からZEHの普及とともに利用が増えると予測している」
いうまでもなく、電気のあるところに分電盤は必要不可欠なもので、生活するうえではなくてはならない基幹商品ある。ビジネスに結びつくまでには時間を要することもあるが、地道な努力は一時も欠かせない。

■日本配電制御システム工業会統計

昨年12月の住宅用分電盤の数量ならびに金額は、数量が19万6348台、金額が前年同月比105・1%の27億7400万円で2カ月連続の前年同月比増加となった。
ちなみに2020年度上期は、数量が104万9835台、金額が前年同期比97・3%の147億5400万円となった。

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