日本電機工業会 再生可能エネルギーの持続的導入拡大へのJEMA意見

〜2050年カーボンニュートラルへの 再生可能エネルギー及び燃料電池の貢献〜

日本電機工業会(JEMA)はこのほど、「再生可能エネルギーの持続的導入拡大へのJEMA意見〜2050年カーボンニュートラルへの再生可能エネルギー及び燃料電池の貢献〜」を公表した。最終回は、「国内産業維持・拡大」を紹介する。

国内産業維持・拡大

第5次エネルギー基本計画では2050年シナリオに向けて「技術自給率の向上とリスクの最小化のためのエネルギー選択の多様性」が謳われている。技術自給率には、開発から製造・運転までの技術を有する国内メーカーによる製造技術の維持・向上が必須であり、エネルギーセキュリティの観点からも主力電源となる電源を作り出す国内メーカーの存在は不可欠である。各国においても野心的な再生可能エネルギー導入目標を標榜しつつ、脱炭素化への転換を産業政策と捉えた戦略的な政策を講じている。日本においてもようやく本格化した再生可能エネルギー導入拡大は、長期的な視点にたったエネルギー政策にもとづく施策が必要である。
コスト低減が必須命題であるとの認識を前提とし、JEMA委員会を組織し積極的に取り組んでいる風力・太陽光・燃料電池分野を中心に、国内産業の維持拡大を目指す観点で見解を述べたい。

1、風力発電

政府による「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」では、洋上風力発電を再生可能エネルギー主力電源化の切り札と位置づけ、2040年までに浮体式を含む30〜45GWの野心的な導入目標を提示するとともに、サプライチェーンの目標として2040年まで国内調達比率60%を掲げた。
洋上風力に限らず、国内サプライチェーンの構築は最重要課題である。主な国内風車メーカーは相次いで撤退しているが、これまで蓄積した風力発電システムの技術力を維持し高めていくことや、部品や保守メンテナンス等の国産化が重要である。技術や人材の衰退や散逸を防ぐ観点、産業政策の観点において、国内技術や人的資源の育成・発展をはかるため、主要コンポーネントそれぞれに対する国内調達率の引き上げに資する戦略的な施策を講じる必要がある。技術と人材の受け皿となる技術研究組合の設立なども有効である。
製品技術的には、欧州に比べて平均風速が低く過酷な自然環境では、陸上および洋上それぞれにおいて、発電量を欧州並みに確保できるような大ロータ径の風力発電システム(低風速風車)の開発が必要である。洋上風力では、特にBOP:Balance of Plant(風車以外の部分)の資本費に占める割合が高いため、連系設備、モジュール化工法、ジャッキアップ船など特殊船舶、港湾インフラおよびそれぞれのサプライチェーンの構築が必要である。陸上風力では、輸送制約や風の乱れに配慮しつつ高度タワー、低風速風車の開発が重要である。
風車関連の国内産業育成の拡大には、工事計画届の審査において、事実上義務付けられている型式認証制度における運用の見直しが必要である。認証プロセスのうち「品質管理(QA)審査」と「生産および建設における設計要件の実行」は風車部品のベンダに対する審査で、一旦風車メーカーが型式認証を取得してしまうとベンダの変更がしづらい、すなわち、新規メーカーの参入に高いハードルを設けることになる。
「品質管理(QA)審査」と「生産および建設における設計要件の実行」の部分は、JISやISOの認定で代替可能である。「実証機試験結果(出力曲線)」は、安全とは無関係な部分となる。「A設計アセスメント」とJISやISOの認定の組み合わせで型式認証の代替とし得る運用が、国内のサプライチェーンの充実、ひいては国内調達比率の引き上げに有効な措置である。

2、太陽光発電

太陽光発電における技術開発は、発電コストの低減の鍵となる世界最高の変換効率の達成など、今までも一定の成果を上げてきている。
現在は、面積的な制約克服のための発電効率を抜本的に向上させるなど、技術革新によってブレークスルーを要する課題の解決を進めることとしている。さらに、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2019年6月閣議決定)では、既存電源水準までコスト低減をした上で、更なる発電効率や耐久性の向上、軽量化、曲がる形態等により、従来、太陽光発電システムが設置できなかった場所に利用できるようにするための技術の確立を目指すこととしている。
NEDOにおける「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創出技術/移動体用太陽電池の研究開発」助成事業において、BIPV、ペロブスカイト系太陽電池、化合物太陽電池、車載用太陽電池などの開発に取り組んでいるが、世界的に見てもまだまだ十分な支援とは言い難い。
従来の太陽電池では設置できなかった場所を利用可能とする革新的太陽電池の開発へのさらなる支援による世界に先駆けた市場導入と、国産エネルギーとして技術・生産等産業として国内に回帰させるため戦略的な政策支援が必要と考える。

3、燃料電池

燃料電池については、発電効率と耐久性の向上にNEDOを中心とした技術開発支援が行われたことで、世界に先駆けて一定の成果を上げてきた。
しかしながら、水素・燃料電池戦略ロードマップに示された初期の導入目標は、家庭用燃料電池(エネファーム)、業務産業用の燃料電池、自動車(FCV・バス・トラック)、いずれも達成できていない状況である。更なる高効率化に向けた技術開発等、NEDO事業は継続されているものの、初期目標を達成していくためには、近々の普及を増やしていく必要があり、導入補助制度の継続が望まれる。
世界に先行する燃料電池は、CO2削減に大きく貢献できるばかりでなく、家庭用から産業用・発電事業用、運輸においては自動車・電車、船等への展開も可能であり、様々な用途やシーンで活躍できる分散電源である。他方、普及が加速しない要因としては、家庭用・業務産業用ともコストが課題になっていると考えられ、更なる効率向上に向けた技術開発支援、CO2削減効果に応じたランニング面でのインセンティブ付与なども有効と考える。またCO2フリー調整力の向上に向け、都市ガスから水素、あるいはアンモニアなどの多様な燃料も含めて、CO2削減に見合ったインセンティブを付与することで、発電事業者の導入意欲を高める施策も効果的である。自動車用の燃料電池は、世界トップレベルの技術を有するものの、コストの問題ばかりでなく、水素ステーションの普及も目標通りに進んでいないことが大きな要因と考える。NEDOにて固体高分子形燃料電池(PEFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の更なる高効率化を目指して開発が進められているが、グリッドパリティの実現やレジリエンスを強化し、セクターカップリングに繋げていくため、カーボンニュートラルの実現に向けた過渡期から実現期まで、燃料の多様化等、各種実証事業や導入拡大へ向けた支援が重要になると考える。 PEFCやSOFCを逆作動させるPEM SOECは水電解により水素を作り出すことが可能であり、水素化技術としてP2Gに適用することが可能である。ドイツではGrInHyプロジェクトにてグリーン水素の活用に向け可逆型のSOEC/SOFCの実証が進められている。更に、燃料電池の基礎・基盤技術をCO2電解やH2OとCO2の共電解技術へ展開することも可能であり、Power to Chemicalの実現へ向けて適用していくことも可能となる。
このため、PEFC、SOFCの技術を更に発展させ、普及を後押しするため、高効率化・耐久性向上等の技術開発支援や、スマートグリッドを推進する各種実証事業への支援が重要になると考える。併せて、PEM、SOECは水素化に有効であると共に、電化を推進しセクターカップリングを実現していくために有効な技術である。このため、PEMは効率向上と低コスト化に向けた技術開発、SOECは要素技術開発に対するより一層の支援を行うことで、電化と水素化を推し進めることが可能となる。更には共電解技術の開発も推進することでPower to Chemicalにも繋げ、セクターカップリングを強化することが可能となる。
水素・燃料電池に関する政策対応は関係省庁や法規・法令も多岐に亘ることから、官庁の横串しの強化や専門組織を設立する等して、事業者が参入しすい環境を整備し、2050年カーボンニュートラルや水素社会の実現に向けて、燃料電池の導入拡大を推進していくべきである。

おわりに

〜再生可能エネルギー導入目標引き上げへの期待〜
世界的には、再生可能エネルギーへの要請がかつてないほどの高まりを見せていることに加え、コストは急激に低下し、経済的にも優位性を持つ電源として選択されつつある。また、各国は野心的な再生可能エネルギーの導入目標を掲げ、そのことが産業戦略と結びつき、民間投資を促す好循環をもたらしている。
わが国においても、FIT制度によって再生可能エネルギー政策は大きく転換し、この10年間で、世界トップクラスの急速な導入拡大をもたらすとともに、生じる課題に対して都度運用見直しを実施しながらも、現在、法改正としては二度目となる「エネルギー供給構造高度化法」(2020年6月)において、FIP制度の導入を柱とする市場統合、自立化への本格的な歩みを進もうとしている。これまでのように、再生可能エネルギーコストの低減や系統制約、事業規律などの足下の対応を着実に行いつつ、エネルギー政策としての長期的な展望を堅持した施策を打つ必要がある。
2020年7月には梶山経済産業大臣から「再生可能エネルギー型経済社会の創造」という発想での経済産業政策が指示された。また、政府の成長戦略会議「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2020年12月25日)では、議論を深めるための参考値として、2050年時点での再生可能エネルギー電源比率「約50〜60%」を提示され、併せて2050年の電力需要を現状の30〜50%増加するとの試算も示された。電力需要の増加は、再生可能エネルギーに限らず、人口減少や地方の過疎化、インフラの高経年化などわが国が直面する様々な社会課題の解決策を検討する上で重要なポイントとなる。再生可能エネルギー電源比率「約50〜60%」は決して簡単な道のりではないが、2050年カーボンニュートラルを目指すならば、2030年度エネルギーミックスは単なる通過点に過ぎず、これまでとは異なる観点で再生可能エネルギーの拡大を検討していく必要がある。とはいえ、現状で2050年を見通すことは難しいのも実情である。政府においては、2050年に向けて、より高い目標も含めて複数のシナリオを用意し、これらのシナリオの前提を明示することで、民間企業の投資や新たなビジネスへのチャレンジを促すことが重要である。
また、再生可能エネルギーの主力電源化は、国内経済産業を活性化する産業戦略とエネルギー政策の両輪で進めるべきである。今後のエネルギー基本計画の見直しにあたっては、主力電源を作り出す国内メーカーの製造技術の維持・向上の観点を不可欠の要素として検討されることを望む。
JEMA及び電機メーカーは、エネルギー政策の目指すべき方向性の実現に向けて、技術に基づく課題の解決に貢献し、国内電機産業やグローバル企業としてわが国の産業振興へ貢献していく決意である。

電材流通新聞2021年3月25日号掲載