高まる需要の刈り取りへ「工・製・販」が緊密に連携
新型コロナウイルスの感染拡大は、緊急事態宣言が解除されてもなお、増加の一途をたどっている。昨年、感染拡大が顕在化して以来、住宅・非住宅を問わず換気の重要性がこれまで以上に高まっている。とりわけ非住宅においては、売上げにも直結する部分もあって日々神経をとがらせている。各メーカーにおいても、こうしたニーズを取り込むべく、業務用換気機器(システム)の開発・販売に注力している。
外出時のマスク着用やソーシャルディスタンス、さらには飲食店など複数集まる場におけるアクリル板設置は、いまやあたり前のこととして実践されている。しかしながら、感染者がいまなお増加しており、これらの実践だけでは感染を防ぐことはむずかしいのではないかと考えられる。
そういった意味でも、「これで感染を防げる」と100%は言いきれないものの、社会全体が換気に対してもっと目を向けるべきかとも思われる。
省エネ大賞
昨年末に発表された「2020年度省エネ大賞」では、三菱電機の全熱交換形換気機器「業務用ロスナイ」とダイキン工業のエネルギー回収装置付き追加換気機器(全熱交換機ユニット「ベンティエール」)が「省エネルギーセンター会長賞」を受賞した。省エネ性に加えて、感染対策への有効性が評価された。
【受賞概要より】
◇三菱電機・全熱交換形換気機器「業務用ロスナイ」
DCブラシレスモーターの搭載により、機器単体の消費電力低減を図りつつ、風量制御の多様化により建築物全体の消費電力低減を可能とする全熱交換形換気機器。給気・排気の換気風量を従来の3段階から11段階に多段階制御化し、CO2センサー装着時には室内のCO2濃度に応じて外気流入量を必要最小限に自動調整することで空調負荷を軽減。
また、人感ムーブアイ360との連動時には人の不在情報を入手した際に自動で最小風量運転に切り替えることで空調負荷を軽減。これにより、定格風量500m3/h機種での従来比で、機器単体では約38%、さらに、CO2センサー装着により空調機とあわせて約27%、また、機器とムーブアイ連動においては空調機とあわせて約15%の省エネを達成。コストと性能を両立させ、省エネルギー性とともに、ウイルス等の滞留を防ぎ安全な空間を提供することを実現している。
◇ダイキン工業・エネルギー回収装置付き追加換気機器(全熱交換機ユニット「ベンティエール」)
既存店舗に後付で追加設置が可能な換気機器。新型コロナウイルス感染症対策として、換気が重要とされ、多くの店舗では窓開け等の換気を行っているが、換気負荷により空調機器の電気代が急騰する。同機器は、エネルギー回収装置を内載することにより、室内の熱や湿度を排気せず室内に戻すことを実現。25㎡の小型店舗に厚労省推奨の30m3/h/人を満たす一般的な換気機器(250m3/h)を入れると、消費電力は約0・6kWが約1・2kWに倍増するが、同機器であれば約0.85kWに抑えることができ、約26%の削減となる。同機器は既存店舗に後付設置でき、天井裏に設置する従来機器に比べ工事が楽、かつ給気・排気の一体型であり、小規模店舗向けの、簡易設置、省エネ性の高い換気機器として評価できる。
市場動向
業務用換気機器の市場は、これまで以上にニーズが高まっているのは明白だが、各メーカーはどのようにみているのか。
◆パナソニックエコシステムズ
感染対策のひとつとしての換気の重要性が大きくクローズアップされるなか、とくに店舗などにおいては不特定多数の人の出入りも多く、換気対策について確実に実施していることを前面に出すことが求められるようになった。
簡易的な対策として定期的な窓開け換気も有効ではあるが、冷暖房負荷の増大や花粉、虫などの侵入、外部の騒音などの問題を多く含み、かつ店舗従業員の手間も甚大であるため確実な機械換気が求められる。
既存店舗においては後付け設置や増設などが基本となるが、設置場所や施工面など様々な問題を抱えるので、簡易に後付け設置ができ、かつ有効な換気量を確保する機器が求められる。機器設置にあたって1人あたりの必要換気量は建築基準法上の20m3/hから厚生労働省推奨の30m3/hを基本とする。
国や地方自治体の各種補助金、優遇策は積極的に発信され、換気設備を含む感染対策機器の導入は後押しされている。閉鎖空間における換気は季節を問わず要求されるため冷暖房負荷を低減する熱交換換気が注目度を高めている。
環境省発信の施策である「大規模感染リスクを低減するための高機能換気設備の導入支援事業」においても全熱交換型の換気設備の導入が必須とされており、今後の非居住市場において空調と熱交換換気の併存がスタンダードとなる素地ができつつある。
具体的な業務用換気設備の動きとしては、2020年度スタート時は国内に発令された初の緊急事態宣言下において店舗の時短や休業、現場調査が困難など具体的な設置の動きは鈍かったが、第2四半期以降、先を見越した設備導入検討に加えて補助金活用などの後押しで業務用換気機器については需要増の傾向が続く。とくに熱交換形については、その認知度の向上と有効性に対する認識が高まっている。
◆三菱電機
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、既存建物への業務用換気機器の後付け設置の需要はこれまで以上に高まっている。建て方別でみると、不特定多数が訪れる店舗や医療施設、学校等の需要アップが顕著となっている。
コロナウイルス感染防止対策が優先される店舗などの施設に対しては、厚生労働省より建築基準法が定める1人あたり20m3/hの換気風量を上回る1人あたり30m3/hの換気量確保がガイドラインとして示されていることも、取組み加速の後押しになっていると考える。
一方で、換気風量の増加にともない空調負荷が増加することが新たな課題と考えられ、必要換気量を確保しつつ熱エネルギーのロスを抑えられる高機能換気設備の採用拡大が期待できる。
さらに、室内CO2濃度は人の目では見えないため、「密の見える化」のひとつとして、CO2センサーの設置がコロナ禍で急拡大している。一部の都府県で適用されている「まん延防止等重点措置」を契機に、CO2センサーへの注目がより高まっている。コロナウイルス感染を教訓に、意識的に換気を実践するニューノーマル時代の到来とともに、今後は換気量の自動制御ニーズや室内空気質の見える化、空気清浄に関するニーズの拡大も予測される。
◆東芝キヤリア
コロナ禍における新しい生活様式には、適切な換気が欠かせないものとなった。とくに、不特定多数の人が集まる飲食店等の業務用施設では、新型コロナウイルス感染症拡大リスク低減のため、適切かつ効率的に換気を行える換気設備を導入することが求められるようになった。
環境省の高機能換気設備等の導入支援事業として注目を浴びた全熱交換器は、室内環境を快適に保ちながら、冷暖房負荷の低減が可能となっている。非居住着工床面積が減少傾向にあるなか、全熱交換器は日本冷凍空調工業会台数ベースで前年同期以上の伸長で推移している。
新型コロナウイルス感染症が長期化していることから、今後もこの傾向は続くと予測している。
◆ダイキン工業
コロナ禍の影響で、小規模店舗やクリニックは、設計段階で換気設備が確保できるビルとは違って換気の課題が顕在化している。一般的な飲食店は、すきま風に依存した換気が主流で本当に十分な換気が行えているか分からないケースが多い。また、換気をするために窓を開ける飲食店も少なくない。窓を開けた状態でエアコンを運転すると室内の温度を一定に保つのがむずかしくなり、電気代も高くなる。冬場は室内の空気が乾燥し、新型コロナの感染リスクが高まる。これらの問題を解消するため、ベンティエールを開発した。
(昨年10月の事業戦略発表会・「BUILT」記事より)
PRで需要掘り起こしをはかる三菱電機㊤とダイキン工業(いずれも公式CMより)
注力製品
今年に入り、三菱電機やダイキン工業のCMがゴールデンタイムでひんぱんにオンエアされているように、各社とも業務用換気機器に注力していることがうかがえる。
◆パナソニックエコシステムズ
昨年11月、既存の店舗事務所等に後付け設置可能な熱交換型機器として床置形熱交換気ユニットを発売した。熱交換換気により冬場は室内の暖かさに近づけて換気し、夏場は室内の涼しさに近づけて換気する。CO2濃度を検知し自動で風量を調整する機能を搭載しているため、1日のなかで来客数の増減がある店舗・施設において必要な換気量を確保しながら効率的に換気できる。
そのほか、店舗・事務所他非住宅向けでは有圧換気扇、空間除菌脱臭機「ジアイーノ」、天井埋込形空気清浄機(一部換気機能搭載)、エアカーテンといった製品が、感染対策起因で伸びている。
パナソニックLS社・床置型熱交換気ユニット(写真は中国向け)
◆三菱電機
今年に入り、「ロスナイ®︎」の新製品を相次いで発売している。
1月発売の既設建物への後付け設置に対応する「店舗用ロスナイ®︎ 全カセット形」ブラックタイプは、外観に新たにブラックを採用することで意匠面に配慮する。落ち着いた空間を演出することで、飲食店や物販店舗などに調和する。壁に据付けるため、ダクト配管の施工が不要となる。
また、今月20日発売のCO2センサー標準搭載、CO2濃度の見える化を実現した「店舗用ロスナイ®︎天吊露出形」も意匠性の高いブラックボディとなっている。天井裏に埋設しない露出形のため、換気機器増設時やメンテナンス時の作業負荷を抑制できる。
学校用製品としては、CO2センサー搭載の「学校用ロスナイ®︎天吊露出形」2機種をこのほど発売した。
オプション部品としては、菌やウイルス、アレル物質対策として「アレル除菌フィルター」を発売している。
◆東芝キヤリア
現在、空調機と集中・連動制御を行うことで冷暖房と換気を両立させ、省エネ換気が実現可能な業務用・全熱交換ユニット天井埋込形マイコンタイプを発売している。室内の温度と湿度を保ったまま新鮮な空気を入れ替えることができるため、1年を通じて快適な空質を保つことができる。
また、軽量ボディでDCモーターを搭載したタイプも発売しており、併せてより快適で健康的な空気環境を創造するため空調機器と換気機器のトータル提案を強化している。
東芝キヤリア・全熱交換ユニット天井埋込形マイコンタイプ
◆ダイキン工業
昨年9月発売のエネルギー回収機能を備えたベンティエールは、露出設置型のため店舗に後付けできる。内部に給気と排気のファンが取り付けられ、給気と排気を1台で行える。内蔵されたエネルギー回収装置は、空気の入れ替えを進める一方で室内の熱気や冷気を外部に放出しない設計で、窓開け換気に比べて夏の消費電力を約2分の1に抑える。
5月からは、新たなラインアップとして小規模店舗や事務所、学校への追加設置向け「屋外設置形」「天井吊形」「露出設置形(150m3/h)」を順次発売する。
まとめ
コロナ禍の収束がいまだ見通せない状況において、安全・安心の観点からも業務用換気機器の需要は今後ますます高まることになるとみられる。各メーカー、電材卸店も思うような営業活動ができない状況が続いているが、高いニーズをしっかり刈り取るためにも「工・製・販」の緊密な連携による創意くふうがいまこそ求められている。