トップインタビュー 新事業戦略 ㊤ 矢崎エナジーシステム 矢﨑 航社長

22年6月期の通期事業計画 売上1488億円、0.3%増
AI活用しコト売りにも注力

矢崎エナジーシステム 矢﨑 航社長


矢崎エナジーシステムの矢﨑航社長は、取材のなかで「当社の60期(22年6月期)通期事業計画(タイ矢崎除く)では、電線出荷銅量が7万6千201㌧(前年度比横バイ)に設定した。足下の電線市場の状況からみると、コロナ禍から脱していない。電線出荷銅量も前年度比5%減で推移している。銅価は足下が㌧115万円となっており、これが続けば増収となる見通し。電線事業部門の同計画では、売上高871億円(同1.2%減)、また、当社全体では、売上高1千488億円(同0.3%増)に設定した」としたうえで「AIやIoTを活用しモノに加え、コト売りにも傾注する」と述べた。


 ――御社を取り巻く事業環境は?

「当社の国内外ともコロナ禍の影響を受け、楽観視できない情勢が続いている。また、銅価高や石化高のなかで、銅価は㌧100万円以上、場合によっては㌧115万円以上で推移している。

その情勢下、59期(21年6月期)電線事業部門の通期業績(タイ矢崎除く)は、出荷銅量が7万6千848㌧(前年度比9%減)とコロナ禍が大きく響いた。出荷銅量は減少したものの銅価の上昇によって、電線事業部門の売上高は882億円(前年度比1%増)と増収を計上した。危機感を持って事業展開した結果、増収増益を確保した。

また、当社では、電設分野と市販分野に分けると、電設の方が厳しかった。59期の全般的な市場動向(銅量ベース)は、電設分野が前年度比15%減に対し、当社は同19%減と業界水準よりも振るわなかった。市販分野は同10%減に比べ、当社は同5%減に留まった。これは兼ねてから電設と市販の境界線が、あいまいになってきていた。これに加味してコロナ禍の影響やSFCCの設立によって、建販電線の商流が複合的に変化している可能性もある。

つまり電設ルートで流れていた製品が、市販ルートでも流れるようになったことが左右した。ただ、この変化についての見解は、一時的に判断が難しく、やや時間がかかる見通し」

21年6月期の業績は電線健闘し増収増益

 ――御社全体の59期(21年6月期)通期業績(タイ矢崎除く)は?

「当社全体の通期業績(タイ矢崎除く)は、売上高1千484億円(同1%増)と増収、増益を計上した。空調などの環境システム事業部門、計装機器事業部門は、コロナ禍によって市場は縮小し、双方とも10%前後の減収になったものの、電線事業部門が健闘した。特に銅価高にともなう在庫評価増益が要因で、税引前利益が大幅に伸びた。59期の年平均銅価は、当初㌧65万円に設定したが、期末にかけ銅価は、尻上がりに上昇した結果、年平均銅価㌧84万円となったのが左右した」

 ――今後の建販市場の需要見通しは?

「現状、建販市場の需要はコロナの影響などで、コロナ禍前(の19年度)には回復し切れていない。今後はコロナ禍次第というところもある。期待感も込めて来年1月頃には、コロナ禍前までには戻るとみている」

 ――銅価高や石化高への対応は?

「銅価や副資材は軒並み高騰している。銅価は(10月には)、数日間で㌧14万円上昇したり、その翌日には一気に㌧9万円下がったり乱高下し、先が読めない情勢になっている。ただ、銅建値に見合う適正価格の販売を推進し、収益の適正化を進めていく」

 ――御社の60期(22年6月期)通期業績予想(タイ矢崎除く)は?

「60期(22年6月期)の通期事業計画では、電線の出荷銅量を7万6千201㌧(前年度比横バイ)に設定した。電線市場の足下の状況からみると、コロナ禍から脱していない。電線の出荷銅量も、前年度比5%減で推移している。銅価は足下が㌧115万円となっており、これが続けば増収となる見通し。

従ってこの情勢下、60期の電線事業部門の通期事業計画(タイ矢崎除く)では、売上高871億円(前年度比1.2%減)また、当社全体の同事業計画(タイ矢崎除く)では、売上高1千488億円(前年度比0.3%増)に設定した」

「コト売り」実施しAIやIoTを活用

 ――今後、御社の事業展開において注力する点については?

「当社でプロジェクト・ガンダーラを立ち上げた当時は、①国内外売上高の比率や②電線と非電線の売上高割合を、①、②それぞれ50対50にすることだった。最近では、これに加えてモノ、コト売りの売上高割合も50対50にしたい、と考える。この場合のモノは、電線ケーブルの新製品などである。コト売りとは、様々な設計からサービスまで含むもの。コト売りには、①運んで、②工事して、③サービスして、という後ろの三つの『て』が必要と考える。

例えば当社の計装機器事業では、ドラレコ製品販売後に③のソフトウェア・安全運転診断サービスの一層の高度化を推進しているところだ。電線事業でも、三つの『て』を検討したい。

受注獲得の際には、製品の品質など加味し、コト売り(のサービスなど)の差別化も重要と捉えている。その際にはAIやIoTを活用していく」

 ――ところでコト売りにAIやIoTを活用していくとは?

「例えば、受発注の伝票整理などの煩雑な作業から、営業マンやインサイドセールマン(内勤営業実務)を少しでも解放し、それをAIやIoTが肩代わりする。AI化の一つとして、これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくはより高度な作業を、機械学習などで人間に代わって行うRPA(ロボティック・プロセス・インフォメーション)を用いることで、単なる伝票整理にとどまらず、ネット上で上司の伝票決済を経て、月次の帳簿書類、損益計算書などの作成などまで担う。

RPAを導入し、そこでできた時間を本来営業マンが行うべき、細やかな顧客サポート、営業企画の立案に役立ててもらいたい。

製造現場では、画像診断技術を用いて電線ケーブルや伸線のドラム巻工程を省人化・ロボット化し、自動化を進めたい。これまでドラムの整列巻工程のエラーや不具合防止のために人が張り付き、目視確認を行ってきた。今後、目視確認の時、人の視線がどこを見ているかを、カメラの画像で認識し分析して学習し、無人化・機械自動化に切り替える。その余剰人員には、本来人間がすべき人間らしい仕事、つまり人でなければできない業務に就いていただきたい。

営業実務などや工場でのRPA導入は進んでおり、両現場とも作業品質や生産性がアップすることが期待できる」

電線新聞 4260号掲載