インタビュー 新社長に聞く フジクラ 岡田直樹 取締役社長 CEO 『構造改革でV字回復』

先端技術の情報通信事業が中軸事業
革新的光ファイバから高温超電導まで

岡田直樹 取締役社長 CEO


今年で創業137年を迎えた老舗大手企業のフジクラ(本社・東京都江東区)で、4月1日新社長に就任した岡田直樹氏は、奇しくも創業者藤倉善八氏と誕生日が同じという、運命的なものを感じる人物だ。岡田新社長は「厳しい損失決算となった19年からの2年間で、徹底した構造改革に取り組んだことのより、21年は業績が回復、資産や事業の売却はあったものの過去最高の純利益となった。22年も情報通信事業などの重要な事業への注力や、メリハリのある研究/設備投資により、21年度を超える過去最高の営業利益を見込んでいる。さらに、次期中期三カ年計画を策定し遂行することにより、将来に向けて夢のある持続的な会社にしていきたい」と柔和な笑顔からにじみ出る決意とともに語った。


—就任から3カ月経ち、あらためて意気込み、抱負と持続的成長フェーズの戦略は?
「顧客への挨拶や株主総会の対応時などに、大役をと実感している。
当社の19年度決算は385億円の純損失となり、それを機にこの2年間は構造改革に取り組んできた。その結果、21年は業績が回復し、資産や事業の売却があったものの、過去最高の当期純利益を達成した。今期は420億円の過去最高の営業利益を見込んでいる。
持続的な成長フェーズと位置付け、次期中期三カ年計画を来年5月頃に発表し、遂行することで、夢のある持続的な企業にしていきたい」

—CEOとCFO、CTOの補完体制をどう生かしていく?
「今年度の大きな経営体制の刷新として、全体はCEOである私が率いていくが、CFOは専門的なスキルやノウハウを必要とするため、外部から招へいし補強した。CTOは、フジクラ全体の研究開発を統括するため社内から選出した。
加えてアメリカフジクラLtdからギャラガー氏を取締役に迎え、海外事業に注力していく」

—事業を取り巻く環境に対する認識と今後の展望、中長期戦略は?
「当社は大きく3つの部門で構成されている。
情報通信部門はコロナ禍により世界的に情報通信に頼る部分が大きくなり、光ファイバインフラも日本ではほとんど整った。だが、欧米では35%程度と、まだまだ市場として期待される。また、日本をはじめDCインフラの市場は大きい。情報通信事業にとって重要だ。
電子部品/コネクタ部門自体は個々のビジネスでは小粒ではあるが、DCや産業/医療、ドローン向けなど、フジクラの技術を活かした収益性の高い事業であり、存在感が増してきている。
自動車部門はコロナ禍とそれに伴う半導体不足の影響で厳しいが、それでもEV用の高圧ハーネスや急速充電技術、車両の情報端末化など将来性が高く、フジクラの技術力を活かしていける分野と認識している」

—世界的なサプライチェーンの混乱や原材料高騰については?
「銅価の歴史的な高騰が大きく影響しており、価格改定もしている。エネルギーや物流費の高騰も深刻で、市場の変化に追いつけるよう、随時対応していく」

—コロナ禍における海外拠点の戦略転換や、FOVのロックダウンによる機能停止後の状況は?
「自動車部門については東欧の生産拠点を北アフリカに移すなど、欧州の構造改革を進めており、ウクライナの拠点もモロッコに移すなどしている。FOVは一時ベトナム政府の意向に影響されていたが、現在ではほぼ元に戻っている」

—設備投資や研究機関については?
「一時期の過剰な設備投資が19年の損益に影響していた。その反省を踏まえ、設備投資や研究開発に関してはメリハリのある戦略的な投資が重要だと考えている。その観点でCFOを外部から招へいした。HSDCなどでは新技術が求められ、その傾向は続いていくため、新たな技術には精力的に取り組んでいく。
注力する分野のひとつとして超電導がある。核融合技術で超電導コイルが必要とされるため、将来的には必要とされる技術だ。低温超電導には液体ヘリウムが必要だったが、当社の高温超電導は液体窒素レベルでの実現が可能である。ウクライナ侵攻により入手が難しくなった高価なヘリウムを必要としない点で有望な技術であり、非常に期待している。
また、無線領域の技術に注力しており、特にミリ波の研究開発において、成果が出つつある。ほかに医療関係では高密度、高信頼の電子部品開発に取り組み、すでに事業化しているものもある」

革新的技術の高密度光ファイバケーブル

—光事業の22年度最重要課題については?
「メインとなるのはフジクラ発の技術である革新的なSWR/WTC光ケーブルだ。DC向けの多心ケーブルやロンドン地下鉄で採用された細径高密度型光ファイバケーブルで、通信能力や細さだけでなく、欧州の厳しい安全性に関するスペックを満たしている。これらケーブルを中心としてコネクタや融着機をセットで提供することにより、DCなどの施工現場での作業が効率的になり、好評をいただいている。当社が提供する多心MTコネクタは世界トップレベルの技術であり、シェアを維持していると自負している」

—エネルギー関連事業の施策方針や、送電・メタルケーブル事業分社化の進捗状況は?
「エネルギー事業に関しては構造改革を進めてきたが、10月1日をめどに分社化を進めている。子会社化することで意思決定の迅速化を図り、機動的に事業を運営していく。昨今は再生可能エネルギー普及に関するインフラ整備や、設備の老朽化対策、災害の激甚化を鑑みた耐性化など、今後事業としてのチャンスがあると考える」

—汎用的なメタル電線部門をFDCに移管するが、今後の関わり方は?
「今回分社化する事業もフジクラであることに変わりなく、本体側からも適時適切に関わっていく。エネルギー事業はすでにFDCに一部移管しており、本体に残っている事業をFDCとは別会社に移管していく。基本的には独立自営で、必要以上の関わりを持つものではないと考える」

情報通信技術が将来的な中核事業に

—新規事業をどう育み、将来、どれぐらいのポジションにするのか?
「情報通信が大きなウェートであり、NTTのIOWN構想に非常に注目しており、世界を変えるプロジェクトだとみている。当社もフォーラムに参加し、必要とされるだろうマルチコアファイバやコネクティビティ部分などに取り組んでいる。また、超電導分野では近未来的な話になるが、核融合は世界を変えていくもので、関連技術を持ち合わせている当社としては、期待が持てる分野だ」


【略歴】岡田直樹(おかだ・なおき)氏=1964年1月生まれ。86年入社以来、海底光ケーブルなど情報通信光ケーブル分野を担う。14年次世代光ケーブル推進室で海外を回り、19年1月に本社へ。20年1月常務/経営企画室室長に就任し、21年には中核事業を担当する。22年4月取締役社長CEOに就任。
モットーは「夢無き者に成功無し」「環境を自ら変えていく」「差別化は時間差でしかない」。休日は九十九里浜のウオーキングやゴルフをして過ごしている。


電線新聞 4286号掲載