電工さんの工具箱 第38回「ネジ」奥が深いネジの世界。

鉄砲とともに伝来したネジ

腕時計やスマートフォンなどの身の回り品から家電や家具、ビルや橋、自動車、船、飛行機、果ては人工衛星まで。ネジは、いたるところに使われている。よく見ると、電球の口金も水道の蛇口もペットボトルの蓋もみんなネジだ。私たちはもう、ネジなしでは生きてゆけない。
海の向こうから日本へネジが伝わったのは約480年前、1543(天文12)年のことらしい。場所は大隅国(現在の鹿児島県)の種子島。そう、確か中学校の歴史の授業で習った“鉄砲伝来”である。ポルトガル人の乗った一隻の船が種子島に漂着し、彼らの持っていた火縄銃からわが国の銃の歴史が始まるわけだが、その火縄銃に使われていたネジもまた、日本人が初めて目にするものだったようだ。その頃の日本は戦国時代で、城も寺も存在していたが、そこにネジは使われていないことになる。ちなみに、クギは既にあったが、ほとんどの建物はクギも使わず木組みで建てられたというから驚きだ。

原始人がネジを発見⁉︎

ネジの起源は、なんと原始時代にさかのぼる。物の本によると、ある晴れた日、浜辺で貝掘りをしていたらしい。原始人がである。そこで原始人は先のとがった巻き貝を見つけ、それを葦の棒切れに突き刺し、回転して外したという。これが人類とネジとの最初の関わりと考えられているそうだ。なんだか今ひとつ意味がわからないのだが、とにかくネジの歴史は古いということはわかった。

アルキメデスもダ・ヴィンチも考えた

アルキメデス

レオナルド・ダ・ヴィンチ

もう少し時代を進んでみると、紀元前280年頃、古代ギリシャの科学者であるアルキメデスがネジの螺旋(らせん)構造を活用したスクリューポンプを発明している。これはつまり、ネジの“ぐるぐる巻き”を利用して物(この場合は水)を動かすことに成功した例だ。この頃のネジは物を動かしたり持ち上げたり、木の実をつぶすといった使われ方だったと考えられている。
さらに進んで15世紀、“締結”というネジ本来の役割に着目したのが、イタリアが生んだ万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチである。彼はネジをさまざまな角度から研究し、ネジを製作するための「ネジ切り旋盤」をスケッチに書き残している。
そして18世紀、イギリスで起こった産業革命の頃、後に工作機械の父と呼ばれるヘンリー・モーズリーが実用的なネジ切り旋盤を生み出し、弟子のウィットウォース(ホイットワースとも表記)が改良を加え、精度の高いネジが大量生産されることになる。

どうしてネジは右回り?

ネジは右に回して締める。左回しのネジもあるが、通常は右回転だ。それはやはり、右利きの人が圧倒的に多いというのが理由のよう。確かに、右利きは腕や手首を左側へは回しにくい。ということは、右回しのネジは左利きの人には回しにくいのである。ネジに限らず、例えばステレオの音量ツマミなど、回すものはほとんど右回しではないだろうか。左利きは、右利きの知らないところで苦労しているのだ。
ちなみに、ガスコンロのツマミなどは安全を考えて、(右利きの)小さな子どもが回しにくいよう左回しなっているのだとか。右回しで火が消えるので、(右利きだと)緊急時にも素早く反応できるというわけだ(他説あり)。
また、扇風機や換気扇などは羽根が右回転のため、羽根を固定するネジは緩まないよう左回しのネジが使われている。

ネジとビスとボルト

電気工事でも多くのネジが使われるが、現場で働く人たちはネジのことを「ビス」と呼ぶ。また、「ボルト」といったりもする。それぞれ違いはあるのだろうか? ということで調べてみた。
ネジとは、円筒または円錐の表面に螺旋(らせん)状の溝が切られているものの総称である。棒状の外側に溝があるものを「雄ネジ(おねじ)」、筒状の内側に溝があるものを「雌ネジ(めねじ)」といい、雄雌一対で使用する場合もある。
ビスもボルトもネジの一種であり、ビスは一般的に小さな雄ネジを指し、ボルトは直径が比較的大きい頭付きの雄ネジを指す。また、ボルトはナットと呼ばれる雌ネジとセットで使用することが多くある。
ネジの種類は数万種とも数十万種ともいわれており、用途に応じて多種多様なネジがある。また、ネジを製造しているメーカーは、新たなカタチを開発するべく日々、研究開発を重ねている。例えば、用途を絞り込んだ「電工ビス」という商品なども登場している。各ネジの特性をよりよく知って使いこなせば、作業効率もアップするのではないだろうか。