無電柱化特集

安定供給のためにも無電柱化の動き加速

災害の被害抑制が急務高額な施工費が課題も

無電柱化が進む芦屋市・さくら参道

 台風21、24号や北海道胆振(いぶり)東部地震は、電柱の倒壊や発火など大きな爪痕を各地に残した。被害を重くみた芦屋市(兵庫県)では、「電柱の無い街づくりを進める条例」を近畿地区で初めて可決した。無電柱化については、全国的に盛り上がりがみられるだけに、今後の動きに目が離せない。

今年の9月4日に近畿地区に襲来した「21号台風」、その再来が懸念された24号台風、北海道胆振東部を震源とする北海道胆振東部地震(9月6日)。いずれも、被害は甚大だった。
とくに、21号台風では、9月5日時点で大阪府で約28万戸、京都府および福井県一部で約3万5100戸、兵庫県で約7万4千戸、奈良県で約6千戸、滋賀で約3万3千戸、和歌山県および三重県一部で約7万1100戸の停電があったという。
また、今月に入り、中部電力管内では、御前崎市佐倉の浜岡原発の敷地内で送電用鉄塔の航空障害灯が消える不具合が発生。さらに、東京電力管内でも、電柱や電線から火花が出るなどの被害が相次いだ。
台風24号によって、電柱や電線に吹き付けられた海水が乾燥して起きた塩害が原因とみられている。
こうした状況のなか、当然のことながら、電線類を地中化できていたら、被害はもっと少なくてすんだかも知れない。そんな声が一部であがったことも事実である。
台風の被害を重くみた芦屋市では9月25日、近畿地区で初めてとなる「電柱の無い街づくりを進める条例」(全国で4番目)を可決した。課題も残るが、市内の幹線道路から優先的に「無電柱化」を進めるという。
そのひとつ、朝日ヶ丘町のさくら参道では現在、地下埋設管や桜の老朽化などのため「災害時の安全性の向上、安全な歩行空間の確保、景観の向上を目的に、歩道上の桜の植え替え、ガス管・水道管・下水道管の入れ替えと併せて無電柱化」(都市建設部道路課工事係)が進行中。
無電柱化の動きは、芦屋市にとどまらず、いまや全国的規模で盛り上がりをみせる。
今年2月9日から23日まで都民に意見を求めた東京都に続き、国土交通省でも「無電柱化推進計画」の策定にあたり、2月19日から3月12日までの間、広く国民から意見を募集した。
同計画の骨子は次の通り。
〈無電柱化の推進に関する基本方針〉
①取り組み姿勢
増え続ける電柱(年間7万本とも)を減少させる歴史の転換期とする。
②進め方
・適切な役割分担による無電柱化の推進
・国民の理解・関心の増進、地域住民の意向の反映
・無電柱化の対象道路 防災/安全・円滑な交通確保/景観形成・観光振興/オリンピック・パラリンピック関連
・無電柱化の手法
地中化方式:電線共同溝方式、自治体管路方式、要請者負担方式、単独地中方式
地中化方式以外:軒下配線方式、裏配線方式
〈計画の期間〉
2018年度から2020年度までの3年間
〈推進に関する目標〉 ①防災
都市部(DD)内の第1次緊急輸送道路
無電柱化率34↓42%
②安全・円滑な交通確保
バリアフリー化の必要な特定道路
無電柱化率15↓51%
③景観形成・観光振興
世界文化遺産周辺の地区を代表する道路
無電柱化率37↓79%
重要伝統的建造物群保存地区を代表する道路
無電柱化率26↓74%
景観法に基づく景観地区等を代表する道路
無電柱化率56↓70%
これらの目標達成には約1400㎞の無電柱化が必要と試算しているが、具体的な数値が提示されたことで本格導入に向け、現実味をおびてきた。数値の高さが気になるところではあるが、期待がもてることもたしかだろう。
一方、先行する東京都では、今年2月9日から23日まで募集した都民の意見を踏まえ、東京都無電柱化推進条例に基づく「東京都無電柱化計画」を策定した。
同計画は、今後10年間の基本方針や目標を定め、一層の防災性の向上をはかるとともに、市区町村が実施する無電柱化とも連携し、都内全域での面的な無電柱化を推進する。
□計画期間
今後10年間(平成30年度から同39年まで)
□主なポイント
・都道の重点整備地域をセンター・コア・エリアから環状7号線の内側エリアまで拡大
・第一次緊急輸送道路の整備を進めるとともに、重点的に整備する路線を、区市町村の庁舎や災害拠点病院など、災害時や災害復旧の拠点となる施設等を結ぶ路線に拡大
・市区町村の取り組みを財政、技術面で支援するとともに、モデル路線の実施事例を拡大
・再開発等のまちづくりにおける無電柱化の面的な展開
・技術開発の推進により、整備コストを3分の1カット

無電柱化が実現したJR尼崎駅前

 【大阪府】
計画期間
今後10年間にわたって優先的に取り組む箇所を考え、重点的に整備する。当面3カ年計画で府管理道路約15㎞において事業に着手。

主なポイント
広域緊急交通路(全体延長1214.5㎞)のうち、地域防災計画で災害発生時に最重要な重点14路線(延長374.6㎞)を対象とする。
さらに、南海トラフ巨大地震などの大規模な地震で大きな被害が想定される都心部や沿岸部へ向かう緊急車両の通行ルートを優先する。
重点14路線以外では、①現地災害対策本部(府民センター)②広域防災拠点③後方支援活動拠点④災害拠点病院(大阪市・堺市除く)、その他密集市街地事業区内の幹線道路(都市計画道路)において無電柱化を行う。
国土交通省近畿地方整備局は3月、大阪市北区のディアモール大阪でパネル展「無電柱化と私たちの暮らしを考える。」を開催した。
会場では、無電柱化の現状や推進にあたっての取り組みなどをパネルで紹介。
課題のひとつである1㎞あたりの高額な施工費に対しては、現行より浅い位置に埋設する工法や、小型ボックスの活用、ケーブルを直接埋設するパリの事例などを提案していた。
低コスト無電柱化のモデルケースとしては、京都五花街のひとつ・先斗町の施工がある。
昨年2月に着工し、幅員が狭く従来の電線共同溝の整備が困難なため、小型ボックス活用のほか、特殊部の小型化や地上機器の改良、美装化などを実施している。
ところで、無電柱化については海外のみならず、我が国でも古い歴史をもつ。
我が国の場合、東京23区の無電柱化率が8%、大阪市でも6%とヨーロッパやアジアなどに比べて立ち遅れていることが引き合いに出されるが、これは諸般の事情からくるもので、短絡的な見方といえる。
実際、戦前に一部の地域ですでに無電柱化を実現しており、戦後の焦土からの復興の際にも無電柱化の議論があったが、さまざまな視点から無電柱化よりも電柱の方が有利と判断したため実現をみなかった。
ただ、最近の無電柱化の流れは、電柱が景観の阻害や国土の安全を損なう原因になっていることを重視したものである。加えて、今回のような度重なる災害を想定すれば、すみやかな普及が望まれるのは、当然のことと思われる。