LED照明特集

LED照明は、東日本大震災を契機に飛躍的に普及した。その際求められたのは、交換が簡単で省エネ性の高い直管LEDランプだったが、2020年を目前に人の快適性や作業効率に配慮したあかりの質の向上が求められている。照明メーカーは、調光・調色制御をはじめ空調、音響、香りと組み合わせることでその実現を試みている。東京オリンピックを前に人手不足が顕在化するなか、省施工製品も開発され現場から高評価を得ている。加えて、大規模な自然災害が例年のように発生する昨今、日本照明工業会はエリア防災照明を提示。あかりが安全・安心を実現する役割を担おうとしている。

明るさや省エネ性に加え 快適性や施工性の向上も

LED照明の普及の歩みを振り返ると、2009年以降から増加し、なかでも2011年3月11日の東日本大震災を契機に、電力供給への不安から節電、省エネへの流れが加速され飛躍的に普及した。
しかし、その際、LED照明に求められたのは、節電を意識した省エネ性の高さであったため、蛍光灯からLED照明に入れ替わっても、一部の高品質な商業施設などを除き、従来からの明るく均一に照らすという傾向に大きな変化は見られなかった。
そのため、オフィスをはじめ大規模量販店などでは、直管形蛍光灯に代わる照明器具として、直管LEDランプが普及し、施設用照明器具のLED化が進んだ。
2009年から10年が経過するうちに、LED照明に求められるものは、単なる明るさや省エネ性の高さから、生活空間を心地良くする快適性や職場など生産現場で働く人の体調、作業効率を考慮する、あかりの質の向上が求められるようになってきた。

パナソニック ライフソリューションズ社(当時エコソリューションズ社)は今年3月、2019年度のライティング事業の新コンセプト「ライティング新時代、始まる」を発表。「つながるあかりが、これからの基本になる。そこに音、映像、香りなど人間の五感に訴えるような様々な要素技術を組み合わせて、それを価値として提供する」と強調した。
特に今後重要になるのがオフィスと位置づけ、「ライティング・フェア2019」の会場ブースでは新しいコンセプトの2種類のオフィス空間を作り上げ、来場者の関心を集めた。
その一つ「オフィスの集作業スペース」では、文字の視認性を高めるため、デスクを照らすライトの色温度を文字が見やすい色温度6200Kに設定。また、作業向上のため、木漏れ日の映像や新緑の香りなど、自然に包まれるような空間を設けた。
一方、「オープンコミュニケーションルーム」では、スポットライト型プロジェクター・スペースプレイヤーで桜吹雪などの映像を壁に投影し、季節の移ろいを演出。また、スピーカー付きダウンライトから自然環境音を流し、さらに香りを循環させることでアイデアや活発な議論が生み出されると訴えた。
その後、この新コンセプトをより具現化し実現性を高めたオフィス空間を、7月に東京・東新橋に開設したショウルーム「Professional BOX」の一角に設けた。ここは、ビジネスユーザー向けのショウルームで、照明をはじめエネルギーマネジメントや電気設備が並ぶ。
オフィス空間では、事務機器メーカーとコラボレーションした空間を設け、光・空気・音・映像・香り・健康管理を連動させ、快適で健康的な働き方を提案している。
具体的にはオフィス内に、生産性向上の観点からふんだんに植物を配置、空間除菌脱臭機「ジアイーノ」でウイルスを減退させる。またアロマ発生器により癒し効果をはかる。照明はスポットライトを制御しデスクワークに最適な作業照度を確保する。
また、同僚の声が聞こえつつも、好きな音楽を聴きながら業務に集中できるよう骨伝導ヘッドセットが使用できる。

三菱電機照明は、照明に自然の要素を取れ入れようとしている。開発中の「青空照明」は、窓のない会議室や地下街、病院等に青空を再現し、快適性の向上に貢献する。厚さ100㎜以下の薄型構造の青空照明は、空が青く見える原理であるレイリー散乱を応用し、奥行き感のある青空と自然光を表現できる。
また、朝焼けや夕焼けなど、時の移ろいを感じさせる色変化を見せるスペックの設定も開発している。

大光電機は、5月に開催した新製品発表会「DAIKO ADVANCE STAGE 2019」で、オフィス環境を向上させる照明設計を提案した。
人とじっくり話をするのに適したスペース・ミーティングコーナーを取り上げ、光の環境を変化させることで、互いの距離感をコントロールし、より充実した打ち合わせができると説明した。
ダウンライトと間接照明を設置したミーティングコーナーで、高照度・低色温度空間は開放感が増し、和やかな雰囲気を醸成。さらに照度を下げることで、相手との距離感を縮め、親近感のある雰囲気づくりができ、じっくりと話をしたい時に向いていると説明した。
一方、高照度・高色温度空間は緊張感を高め、緊張した雰囲気のなか、重要な話をする際に向くと説明。逆に照度が下がると圧迫感へと変化してしまうと注意した。

コイズミ照明の研究開発拠点であるコイズミ照明R&Dセンター(大阪市東成区)では、新タイプのLEDベース照明器具を開発・実用し、従来のオフィス照明のあり方を変える試みが行われている。
その一つ「φ300ダウンライト型調光調色ベースライト」は、形状はダウンライトでありながら、オフィス向けベースライトとして開発され、事務所照明のイメージを変えるデザインとなっている。その機能は、光源がどこからも見えないグレアカット構造により、グレアの評価値でUGR19を実現し、まぶしさを極力抑え、作業に集中しやすい空間を実現している。
また、センター内は、この他にもベース照明の「ソリッドシームレスラインシステム」を設置。共にDALI制御により調光・調色が行われ、季節や時間の移ろいとともに変化する光環境を創出している。
このほか、快適なオフィス環境を構築するために、社員がアイデアを出し合いフリーアドレスやクリエイティブスペースを設けた。その結果、竣工から1年後、社員に調査を行ったところ、残業が17%減少、また17時30分以降の在社時間も25%減少するなど、働き方に変化が生じたことがわかった。

遠藤照明は、対応照明器具の導入だけで手軽に調光空間が実現可能となる「Smart LEDZ Fit」を発売。従来の調光システムは、有線・無線に関わらず照明器具以外に、コントローラやゲートウェイ等が必要となり小規模なオフィスや飲食店等ではコスト面で課題があった。しかし同製品は、コストを抑えて居心地の良い空間が実現できると注目されている。

岩崎電気の高効率な電源内蔵形LEDスポットライト「LEDioc UNO」は、多様な演出が可能。5種類の光色を有し、青みがかった6500Kは草木のグリーンが映え、暖色系の2700Kは木目やレンガなどの素材感を引き立て、落ち着いた雰囲気を演出できるため、事務所周囲の樹木のライトアップや入り口の照明に最適。

直管形蛍光灯がLED照明に替わった当初、単なる省エネ性の高さが求められ直管LEDランプが普及したがその後、器具本体と光源・ライトバーが一体となったLEDベースライトが登場。一体型LEDベースライトは、照明器具の厚さが従来の逆富士型に比べ薄く、天井面の見栄えも良いという特長を持つほか省エネタイプや調光タイプ、色温度可変タイプまで揃う豊富な機種群が市場に受け入れられた。

なかでも、パナソニック ライフソリューションズ社の一体型LEDベースライト「iDシリーズ」は、2012年12月の発売以来、本年11月で累計出荷台数3千万台を突破した。明るさセンサー付タイプや工場の油煙環境に対応するタイプ、高演色タイプなど多様な機種をラインアップしたことで、オフィス、学校、店舗、マンション、病院、工場、美術館、博物館など、幅広い施設に広がった。

東芝ライテックは、LED照明と映像録画カメラを融合させた新しい一体型LEDベースライトとして、「カメラ付きLED照明器具ViewLED(ビューレッド)」を発売した。
安心・安全対策の観点から監視カメラの設置ニーズが高まっているが、導入には設置条件、コストなどの課題がある。対して、同製品は、照明器具を設置するだけで、手軽に録画機能付きカメラの設置が可能となる。
また、天井に設置することから、俯瞰した映像を記録できる。映像は照明器具本体に搭載したSDカードに記録されるため、専用録画機器やレコーダー、専用配線、電源工事などは不要となる。
たとえば、工場では製造・組立ラインでの工程エラーの改善や、店舗のバックヤードの安全・防犯、施設内ゴミ置き場での管理などへの活用が期待される。

三菱電機照明は、LEDライトユニット形ベースライト「Myシリーズ」で、工場・倉庫の高天井に適した人感センサー付タイプを発売している。4つのセンサーを搭載し、自動点灯、消灯できめ細かい節電が可能となる。
ほかにも、照明信号のやり取りや他機器への電力供給ができるデジタルインターフェース機能を電源部に搭載したMyシリーズ新製品もラインアップ。無線調光ユニットや信号調光ユニットを後付けできる。
また、LED高天井用ベースライト「GTシリーズ」のSG、HG,RGモデルに、デジタルインターフェース付電源を搭載。後付オプションで調光システムの導入や人感センサー機能の追加ができる。人感センサーユニットを付けることで、人が不在がちな倉庫などで、自動点灯および自動消灯または減光が可能となる。
同社は、デジタルインターフェース機能のIoT化への活用について「たとえば、デジタルインターフェース機能を使いUSB給電で、ネットワークカメラや無線LAN中継器等の機器と照明器具を、簡単にセッティング可能にし、室内の監視や見守りなどができる」と説明している。

現在、東京オリンピックなどを控え、新築物件へLED照明が導入されるとともに、既築のビルや施設でもLED化が進行している。一方施工の現場では、人手不足が問題となり、施工性の高い商品が求められている。

こうしたなか、パナソニック ライフソリューションズ社は、一体型LEDベースライト「iDシリーズ」にリニューアル専用器具本体の直付型と埋込型を発売した。
蛍光灯照明器具からリニューアルする際、器具を吊り下げる吊ボルトをカットしたり継ぎ足しする必要がないように、器具の高さをあえて高くした寸法設定にした。また、配線スペースを大きくし、施工性を向上させ既設配線をそのまま使用できるようにした。
これにより、現行品と比べて直付型では約28%、埋込型では約55%の施工時間の短縮を実現。現場では、施工時の手間を大幅に削減でき高い評価を受けているという。
また、店舗照明「TOLSOシリーズ BeAm Free」のスポットライトとユニバーサルダウンライトは、設置後でもシーンに合わせて自由に配光を調整ができる。従来は配光によって異なる品番を手配・購入する必要があったが、施工後のレイアウトや展示物の変更などに応じて設置後でも、現場の条件に合わせて調整が可能だ。

三菱電機照明の一体型ベースライト「Myシリーズ」は、独自設計のクイックバネ方式でライトユニットをすばやく装着できる。また高天井照明のGTシリーズのRGモデルは、業界最軽量クラスの2・2㎏を揃え、2人の施工から、1人での施工を可能にした。さらにスポットライト「AKシリーズ」クラス300は、電源内蔵構造で1㎏以下の軽量化をはかり、片手での施工ができる。
オーデリックでは、Bluetoothを使った照明コントロールシステムの「CONNECTED LIG
HTING」のラインアップを強化している。
Bluetoothセンサー「OA253392」は、配線工事が不要で、後付けでの設置ができる人感センサー。CONNECTEDシリーズの照明器具との組み合わせで、キッチン・トイレ・廊下・ロフト空間などでセンサー化を簡単に実現させる。

自然災害が続くなか 安全安心の役割も担うあかり


大規模な自然災害が例年のように発生する昨今、安全・安心を確保するために様々な予防対策が望まれているが、夜間は照明も重要な役割を果たす。
日本照明工業会は「ライティング・フェア2019」で、エリア防災照明を紹介した。これは、大規模停電時のあかりの確保による不慮の事故防止や、被災者の避難所への適切な誘導・案内および避難所での適切な照明制御など、照明による災害支援を目的とした非常用システム。
具体的には、家庭ではバッテリー付きシーリングライトやダウンライトを設置し避難準備のあかりを確保する。また、避難経路ではバッテリー付き街路灯で、避難所まで夜道の移動の安全を確保する。さらに、一時避難所の公園にはソーラーライトや避難情報伝達ポールを設け、電源の利用や情報収集に役立てる。最終避難所の体育館等では、消灯後に真っ暗にならないよう調光機能付きLED高天井用照明器具で、安心のあかりを提供する。

LED照明は、普及当初の効率の高さを求める段階から、調光・調色などの制御やセンサー機能を搭載することで安全・安心、快適性の向上など、付加価値を実現する段階に入った。
安全・安心、快適性の向上などの要望は現場にあり、現場に近い電気工事業者をはじめ電材卸業者の役割は大きい。当然ながら、ユーザーの声を反映させるためにはメーカーとの連携も欠かせない。LED照明が新しい段階に移行するいま、あらためて三位一体の行動に期待したい。