伝統の墨壺
墨出し器は、電気工事に限らず建築現場において広く使われている道具である。最近はもっぱらレーザー墨出し器であり、出すのは墨ではなくレーザー光線だ。若い職人さんの中には、元々の墨出し器を知らない人もいるのではないだろうか。それは工具というよりも、美しい工芸品なのである。
ここで述べるまでもなく、工事を進めるのに必要な縦横などの線を、建物の床や壁にしるす作業を墨出しという。その線に沿って大工がドアを取り付けたり、電気工事士がコンセントを設置したりする。つまり、さまざまな工事の基準となる極めて重要な作業であり、失敗はできない。本来の墨出し器は、墨壷(すみつぼ)と呼ばれる。
クワやケヤキなどの木からつくられていて、墨を入れる壷状にくり抜かれた〝池〟があり、そのかたわらに綿糸を巻く水車のよう な車が備えられている。そして、凝った墨壷になると龍や鶴亀やさまざまな模様の細工が施 されているのだ。工事は墨出しから始まるため、墨壷には工事の安全祈願といった職人の思いが込められており、その精神的な意味合いが、他の工具とは一線を画す造形美として表現されているのだそう。歴史は極めて古く、古代エジプトで原型が生まれ、中国で改良され、そして日本に渡って きたらしい。わが国では、奈良の法隆寺に用いられている木材に、墨壷を使って引いたと思われる線の跡が残っているという。法隆寺の建立は607年。今から1400年以上も前である。
多彩なレーザー墨出し器
電気工事における墨出しは、配線や配管、コンセントや照明器具などを図面通りに配置するために行う。そこで活躍するのがレーザー墨出し器だ。この画期的な工具の登場が、素早く正確な墨出し作業を可能にした。 さまざまなメーカーが開発・製造し、年々進化するレーザー墨出し器には多種多様なタイ プがあり、どれを選ぶかは迷うところだが、ポイントは大きく3つある。
1つ目は、照射できるレーザーの数。〝水平360度・たちライン4方向のフルラインレーザー〟などが人気だが、照射ラインの数が増えるに従って価格も上がるのは当然のこと。日頃の現場や作業をかんがみて上手に選びたい。また、安価な縦横ラインのタイプの中には地墨点が照射されない機種もある。
2つ目は、レーザー光の色。赤色と緑色に大別されるが、普及しているのは赤いレーザー光で比較的安価。緑のレーザー光は視認性が高く目に優しいとされるが、赤に比べると高価。低温にも弱い。それぞれ一長一短があり、屋内・屋外のどちらで使うかにも関係してくるので、詳しくはメーカーに問い合わせてみるといいだろう。
赤のレーザー
緑のレーザー
画像元:工機ホールディングス
3つ目は、そのメーカーの信頼度。レーザー墨出し器は精密機器であるため、性能もさることながら、メンテナンスやアフターサービスの面も重要なポイントだ。日本のメーカーは総じて信頼度は高いといえるが、サービスの方法などは各社それぞれ特色があるはず。比較検討材料の一つだろう。
いずれにせよ、工事の始まりをしるす重要な工具である。墨がレーザーに変わろうとも、工事の安全と成功を願う思いは変わらない。