LED照明特集

出荷数量で限りなく100%に近付いたLED照明は、ストック分野やセカンドリプレイスを次の市場と捉え主戦場を移しつつある。日本照明工業会も新たな照明成長戦略を策定し、ストック市場でのSSL化率100%の達成を目標に、側面からの協力体制に入った。しかしながら長期的には市場の縮小も見えていることから、「ウェルネス」「スマート化」といった新たな価値の創造や、産業分野での利用も求められており、複眼的な視野を持つ企業への脱皮が大きな課題となっている。LED照明の現状と展望を探ってみた。

「あかり文化の向上」と「地球環境」への貢献

新照明成長戦略を発表する道浦会長(ライティング・フェア 2019のセミナー会場)

 今年3月に開かれた「ライティング・フェア 2019(第14回国際照明総合展)」で、我が国の照明市場の行方を予測するうえで欠かせない、照明成長戦略「Lighting Vision 2030~あかり文化の向上と地球環境への貢献~」が、日本照明工業会から発表された。
道浦正治同工業会会長が記念講演会で明らかにしたもの。
それによると、工業会活動のキーワードとなる「CSL&HCL(Connected Smart Lighting & Human Centric Lighting:様々なモノ、コトにつながるインテリジェントなあかりと人にやさしい、安全・快適・便利なあかり)」の普及により2030年までに、照明器具ストック市場においてSSL化率100%の達成を目指そうというものである。
その達成のためには後で詳述する次の3つの重点課題を抽出した。
①「Connected Industriesによる対応」
②「あかりの質向上とSDGsへの貢献」
③「グローバル化・ボーダレス化への対応」
この目標を達成した暁には、消費電力量は2013年度比で半減となり、世界に向かって公言した地球温暖化ガスの排出量削減目標に大きく貢献できる。
すなわち“あかり文化の向上”と“地球環境への貢献”をビジョンとして大きく前面に掲げたのである。

国内市場は緩やかに縮小

照明器具市場の現状

ところで、照明市場の現状はどのようになっているのか、日本照明工業会自主統計表からみてみると、17年度の照明器具類全体の出荷実績は数量で前年度比103.4%(7163万6千台)、金額で同103.6%(7579億8600万円)となり、自主統計を取り始めてから初めて出荷金額で7千億円を超えた15年度以来、順調に右肩上がりを続けている(グラフ参照)。

しかし、前年度比は出荷数量、金額ともにプラスとなっているものの、各前年度比の折れ線グラフから見て取れるように13年度から17年度まで大きな上昇は示していない。前述したように、これはとりもなおさず、照明器具の出荷数に占める割合が現実、限りなく100%に近付いている証左でもある。政府目標である「LED・有機EL照明の普及率を20年にフローで100%の達成」は想定よりも早く到達できそうな勢いでもある。逆に言えばフローでの需要はこれ以上望めないといえよう。
富士経済がこのほど発表した「次世代光源の市場調査」でも次のような厳しい見方をしている。
「照明製品の国内市場は緩やかに縮小しており、2018年は前年比1.9%減の8205億円が見込まれる。
LED照明(LED照明器具とLED管球ランプ)は伸びており、18年は全体の80%以上の6868億円が見込まれる。オフィス・ビルや店舗、施設で使用されるLED光源一体型ベースライト、工場や倉庫、体育館で使用されるLED高天井照明、住宅照明のLEDシーリングライトが中心である。LED光源一体型ベースライトはLED直管ランプのリプレイス需要を取り込んでおり、今後も安定した需要が期待される。LED高天井用照明は、水銀条約に伴う水銀ランプの規制を背景に伸びるとみられる。LEDシーリングライトは市場が成熟しつつあるが、高機能・多機能化やホームIoTの流れで製品開発が進んでおり、照明の新たな価値(ウェルネス、見守り、演出・エンタメ性など)を提案する製品として期得される。
照明製品の国内市場は、LED照明の低価格化の進行や製品リプレイスサイクルの長期化などを要因とし、今後も緩やかに縮小し25年には17年比l9・6%減の6729億円が予測される。
LED照明はストック市場からの置き換えにより当面は伸びるものの価格下落のため2020年以降は縮小が予想される」とみている。

SSL化率100%達成と照明制御システム導入

新たな照明成長戦略

とはいっても、本紙照明専業メーカー座談会で大光電機の山本善教副社長が「ストック市場にある照明器具は約17億台あるといわれており、その34%がLEDに置き換わった」と述べているように、残る10億台の照明器具は大きなストック市場に変わりない。
こうした状況を踏まえて、日本照明工業会は、照明成長戦略「Lighting Vision 2030~あかり文化の向上と地球環境への貢献~」を新たに策定した。同工業会の道浦会長が発表した新たな照明成長戦略からそのトピックを拾ってみると…。
まず、同ビジョンの作成にあたっては国内の照明器具ストック、あるいはSSL化率を調査。それによれば、2017年度末でストック台数は17億2900万台。分野別では、住宅用が9億6700万台、非住宅分野が7億2500万台という数字を上げている。さらに、SSL化率も約3分の1、約34%に達しており、山本大光電機副社長が指摘した数字と同じである。
この基礎データをもとに試算すれば、18年度には約40%までSSL化率が進展すると予測している。したがって、照明成長戦略2020で出したストック市場での50%達成目標は、2020年度末にはほぼ達成が見込まれるという。この流れで行くと、30年度末には少なくとも98%に持っていけると予測する。

省エネの効用

前述した30年度末におけるストック市場がSSL化率100%を達成した場合、消費電力量の削減効果は、20年度末で50%達成とすれば13年度比で約20%の削減。また、30年度末で100%達成時には同じく13年度比で半減すると試算する。さらには、照明制御システムの導入等により、一層の省エネを図れることにもなるとみている。一般的には、照明制御システムの導入で約10程度の更なる省エネ効果が見込めるという。
いずれにしても、SSL化率目標達成と照明制御システムの導入によって、政府が掲げる地球温暖化ガス排出量26%削減(13年度比)目標に、大きく貢献できることは間違いない。

3つの重点課題

東日本大震災を契機とした省エネ意識の高まりは、LED照明普及の大きな推進力となったのは言うまでもない。同時に、玉石混交の時代をも経て今日に至っている。全く照明とは関連のない企業の参入が相次ぎ、安かろう、悪かろうといったLED照明も混在し、様々な問題を引き起こしてきた。そうした時期を経てきたが、その歴史はわずか10年程度にしかすぎない。しかし、革新的な技術開発によって大幅なコストダウンとともに、蛍光灯と遜色ないメインの灯りとして社会に定着し、最近では商品のコモディティ化が進み、セカンドリプレイスも注目されている。もちろん、企業淘汰も行われてきた。平成から令和へと元号が変わり新しい時代を迎えたが、LED照明もまた新たな時代を迎えている。だからこそ、「あかり文化の向上」と「地球環境への貢献」を実践しなければならないわけである。
その達成のためにはまず、「Connected Industries」によるパラダイムシフトへの対応である。
すなわち、先進技術を活用した“Connected Industries”による様々なビジネスモデル、社会の変化に対応するため、分野を超えた異業種との連携による標準化等、事業環境を整備しそれに適応する工業会組織体制を強化すること。
二つ目は、「あかりの質向上とSDGsへの貢献」である。
すなわち、地球温暖化ガス26%削減(13年度比)という国際公約達成のため、政府目標でもある30年までに照明器具ストック市場におけるSSL化率100%を目指し、地球環境向上に貢献する。そのためには、ストック市場のSSL化加速が求められている。
また、“CSL & HCL”(様々なモノ、コトにつながる多機能照明と人にやさしい、安全で、快適・便利なあかり)の普及を通じて、新たな機能の創出、あかりの質向上により、新たな空間価値を創造しなければならない。いわゆる“あかりの質向上”による 新たな空間価値の創出である。
三つ目の「グローバル化・ボーダレス化への対応」についてはまず、「海外市場展開のための環境整備」と、「日本照明のブランド化」が求められる。
そのために、国内照明器具の出荷数量は、人口減少、新設住宅着工件数の減少に伴い、新設物件での照明器具の出荷数量は減少が予想される。一方、主に新興国での人口増加と中産階級の拡大に伴い、世界照明市場は拡大する。30年には世界経済の中心となる広域アジアをメインターゲットとした市場参入と事業拡大のための環境整備と日本照明製品のPRを行うこと。
さらに、「公正で適正な競争ができる 健全な市場の維持向上」のためには、LED製品普及による製品のグローバル化、ボーダーレス化による日本市場にマッチしない輸入海外製品の増加に対する市場監視体制の強化を行う必要がある。

求められる複眼的視野での製品開発

市場監視体制の強化も

新たな価値創出へ

こうした方向性を見定めつつ、単なる照明器具といった従来の役目から、新たな分野へとLED照明は舵を切りつつあり、照明の新たな価値創出が始まっている。具体的には健康を訴求する「ウェルネス」、省人・省力化などの「スマート化」、防犯・防災機能を高める「セーフティ」、他の設備と連携する「IoT・コネクティッド」などである。
富士経済の次世代光源市場調査によると、具体的な「ウェルネス」訴求としては快適性、心理的健康効果(明るさ感、色温度など)、生理的健康効果(ブルーライト抑止、睡眠改善など)、知的生産性の向上などを挙げている。
自然光のスペクトルに近づけた無電極ランプやLEDパッケージなどを用いた照明器具が2017年頃から開発され、18年には自然光関連の照明器具やデスクライトなどが相次いで発売されている。今後、これらの光源と制御・ソリューションを組み合わせたウェルネス照明ソリューションの提案が広がるとみられ、病院や福祉・介護施設、オフィス・ビルなどを中心に普及が予想される、としている。
「スマート化」や「セーフティ」機能では、家庭用機器で一般的に使用されているWi-FiやBluetoothを用いて、スマートフォンやタブレット端末を介して操作を行う製品が多い。特にシーリングライトは、従来蛍光灯からLEDへのシフトが完了し低価格化・汎用化が進んでおり、カラーやシーン別の調光・調色機能も一般化したことで、さらなる高機能・高付加価値品としてデザイン性と共にIoT化が開発のキーワードとなっている。
大手または新興の照明・家電メーカーから、スピーカー付きLEDシーリングライト、スピーカー付きLED電球、スマートスピーカー対応LED電球/LEDシーリングライト、LEDシーリングライト一体型空気清浄機、監視カメラ付きLED照明器具などが製品化されており、照明の多機能化や照明をハブにした設備連携を想定している製品が増えている。
現状、既存の住宅照明に通信連携機能を付与した製品が多く、照明器具同士の連携機能にとどまる活用が中心であるが、今後は多機能化や他設備との連携という点で改良が期待される、といったものがあげられている。

今後の展望

照明メーカー各社は、照明製品をベースに前出の「ウェルネス」「スマート化」「セーフティ」「IoT・コネクティッド」―の4つの価値の連携提案を行いつつ、短期的には制御・ソリューション・IoT化を駆使した製品づくりに邁進し、長期的には有機ELなどの次世代光源開発を進めるとみられる。
ターゲットとなる市場は当面、ストック需要に向かって大きく舵が切られることとなるが、それに加えて、買い替え需要(セカンドリプレイス)の取り込みも活発化するとみられる。このため、一層ユーザーニーズに沿った製品開発が求められるわけである。その一方で、産業分野でも利用価値のあるLEDは、深紫外光による殺菌用途や高出力赤外光LEDによるセキュリティ、光通信用途といった灯り以外の利用も見えており、関連メーカーは複眼的な視野での製品開発が一層求められるのではないだろうか。