トップインタビュー 全日本電線販売業者連合会 吉田康一会長

全日本電線販売業者連合会 吉田康一会長

配送高による電線物流問題 運賃と料金 区別を
製品価格に食い込む輸送費

全日本電線販売業者連合会(全電連)の吉田康一・会長(関東電販理事長兼丸吉電機会長)は、建販需要が好況な中、運送料のアップにともなう配送問題について「電線業界にとり『運賃』と『料金』の区別が重要になる。電線の物流で、電線の品代の中に、運賃が含まれるケースがある。そうすると運賃が上昇した分、製品価格に食い込んでくるため、品代と運送費を区別表記して請求書を作成することが大切。ただ、市販と電設の違いやメーカー便、自社便、運輸便等の区分けを、いかに調整していくかが、ポイント。同時にコンプライアンス上、問題は無いのかなどの検討も必要と思う」と述べた。

—建設電販分野などの足元の電線需要の動向は、どうか?
「東京五輪・パラリンピックの施設建設等が追い込みに入ったことを筆頭に、首都圏等の都市再開発プロジェクトや、公立小中学校のエアコン設置関連にともなう受注が動き出していることや、電鉄関連の案件も相まって、建販の需要は活況を呈している。エコ電線ケーブルは、製造メーカーや生産能力が限られていることもあって、サイズや品種によってはタイトとなり、そのタイト感は少し前に比べると増している。エコ電線ケーブルの需要は、五輪向けが牽引している。
我々、電線問屋・流通も繁忙となり、エコ電線ケーブルの調達では、メーカー1社からでは間に合わず、方々から手配している状態」

 —建販電線分野などの今後の電線需要見通しは、どうか?
「建販市場分野は例年、年度の第2Q、第3Qと需要が盛り上がりをみせる。従って20年東京五輪・パラリンピック開催本番を控え、尻上がりに需要が活発化し、月間の建販出荷が3万㌧を上回ることに期待している。先行き、見込まれる消費税率の引き上げにともなうマンションや戸建住宅、自動車などの駆け込み需要は、消費マインドの冷え込みであまり望めない。つまり増税駆け込み需要は、ほとんど発生せず、逆に需要の反動減の懸念も無いだろう。
また、21年度以降の需要見通しは、高水準が継続すると見ている。東京五輪で後回しになっている首都圏等の都市再開発などの大型プロジェクトが動き出すことや、駅舎ビル建設も含めた電鉄関連の案件も期待できるためだ。
一方、電線ケーブルの出荷銅量全体に占める建設電販の割合がアップし、自動車も増えても、他の品種で伸び悩む可能性も否めない。従って、総出荷銅量は、70万㌧プラスαまたは70数万㌧プラスα程度に留まる可能性もある。総出荷銅量では、大きな成長が期待しにくくなった」

 —エコ電線ケーブルの浸透については?
「一連のエコ電線需要を除けば、電線工業会がまとめた建設電販部門に占めるEM電線・ケーブル(エコ電線)出荷銅量は、10%弱で低い。これが30%ほどに達することを期待している。現状、エコ電線が採用されるのは、官公庁案件等に留まっている。やはり施主や設計事務所、ゼネコン、サブコンの方々に、火災対策でエコ電線が必要なことや優位性があることを認識していただくことが求められる。そうした働きかけを電線工業会や消防庁などと連携を組んで行うことが大切だと考えている。
また、エコ電線の普及促進に向け、国からの助成金などの優遇制度や措置の導入も期待している」

建販の再編、現在は響かず、今後に影響

 —建設電販(5品種)分野で大手電線メーカーグループ同士の事業統合が打ち出され、この再編が動き出したが、その影響は?

「現状は、取り立てて影響は無い。しかし、やがて何らかの形で響いてくるだろう。今後とも、建販電線分野などでこうした統合・再編が発生する確率は高い。率直に言えば、建販等の電線需要が伸び悩んでいる上、電線産業の収益性が極めて低く、適正マージンの確保が難しいためだ」

 —配送費の上昇など物流問題については?

「建販電線の需要が好調で、電線流通のビジネスも繁忙となっている。ところが関東電販などの理事の席上、各会社からは、笑顔が無い。収益が従前以上に厳しいためである。周知のとおり電線など取扱製品の利幅は薄い。電線需要が活況なさなか、燃料費の高騰、配送費のアップは、待ったなしで我々の経営を一段と圧迫。加えて人手不足で人件費が上昇し、さらに運送会社のドラム巻電線の配送拒否などにともなう諸コストの上昇は、より一層収益を低下させている。
電線業界と、似た環境にあった配送業界、トラック業界は、従来の商習慣改善に向け動き出している」

 —そのトラック業界の取組とは?

「今までトラック業界は、運賃の範囲が不明確だった。運送賃、付帯業務費、積込み取卸し作業代、荷待ち時間などがサービス業務として見なされるケースもあった。それを今回、『運賃(運送の対価のみ)』と『料金(運送以外の付帯業務費、積込み取卸し作業代、待機時間料)』を区別することになった。荷主は運賃とは別に、付帯業務費、積込み取卸し作業代、待機時間料金が発生した場合は、支払う義務が生じた。
『運賃』と『料金』の区別は、電線業界にとっても重要になる。電線の物流で、電線の品代の中に、運賃が含まれるケースがある。そうすると運賃が上昇した分、製品価格に食い込んでくることになるので、品代と運送費は請求書に区別表記することが求められる。ただ、市販と電設の違いやメーカー便、自社便、運輸便などの区分けを、いかに調整していくかが、ポイントになると考える。また、並行してコンプライアンスのうえで、問題は無いのかなどの検討も必要と思う」

経産、国交省の支援で新品問題が解決へ

 —電線の新品問題は、どうか?

「お陰様で経産省や国交省、電線工業会などのご協力によって、新品問題は、ほぼ解決した。経産省と国交省は連盟で17年3月29日付けで、『電線の取引条件の改善に向けた取組について(要請)』と題した要請文を、日本電設工業会などの建設業者106団体宛てに発出された。経産省がまとめた『金属産業取引適正化ガイドライン』に基づき、電線取引で、新品偏重問題の是正を促した。これは行政指導に相当した。また、国交省も、ユーザー向けに、そうした情報をホームページで開示されている」

 —11月18日が電線の日に制定されたが?

「『電線の日』の制定は、意義深く、業界のPRになった。今後、『電線の日』を迎えた時に、業界の人全員が喜んで、その日を迎えられるようにしたい。各社の本業または祖業である電線は、社会的には大事な産業だが、余り元気が無い。元気を取り戻し、魅力ある商品にしていかなければならない。
また、以前にも申し上げたが、『電線の日』という仏は、できたと思う。次は、仏に魂を入れる必要がある」

 —19年度の全電連の最重要課題は?

「前に掲げた物流問題の改善に尽きる」

電線新聞 4170号掲載