電工さんの工具箱 第18回「手袋」感電を防止するために。

古今東西、手袋のうんちく


SriomによるPixabayからの画像

 現存する世界最古の手袋は、エジプトの「王家の谷」から発掘されたツタンカーメンの手袋らしい。18王朝末のものと考えられ、麻の綴れ織りによる精巧なつくりだという。

 手袋は5本指に分れたグラブ型と、親指だけが離れたミトン型の2種類に大別できる。

グラブ型
naonさんによる写真ACからの写真

ミトン型
rose015さんによる写真ACからの写真

歴史は古く、旧石器時代の人類が指の分かれていない袋状のまさに手袋を、寒さ対策として使っていたとみる考古学者もいるそうだ。防寒用に始まり、やがてミトン型の労働用や武装用が登場し、7世紀以降には貴族の装身具としても用いられるようになる。12世紀にはグラブ型が誕生し、次第に装飾性を増して16世紀には式服の一部となり、18世紀には肘まで届く長手袋が御婦人たちの間で流行した。

日本に目を移すと、赤穂四十七士の大将である大石内蔵助の息子、大石主税の手袋が今に残されている。江戸時代初期のものだ。また、幕末期には徳川幕府が軍隊を創設したことから、軍服とともに木綿編みの作業用手袋が普及する。これは下級武士たちが内職で縫っていたのだとか。その後、旧日本軍にも用いられたこの手袋は「軍用手袋」と呼ばれた。

そう、軍手である。

matsumeguさんによる写真ACからの写真

軍手は日本独特のものだそう。

現代は、作業用、防護用、医療用、調理用、スポーツ用、美装用、防寒用などなど、多種多様な手袋が世界中で使われている。

電気工事には電気絶縁用手袋

 さて、作業や工事に用いる手袋といっても、軍手や一般的なゴム手袋、皮革手袋といったものから、耐熱性・耐冷性、薬品などを扱う際の耐溶剤性、刃物などを扱うための耐切創性、手に伝わる振動を軽減する防振性、そして電気絶縁性といった機能性を持つものまで、素材や用途の違いによって千差万別である。電気工事の場合は、電気絶縁用手袋が最適であることはいうまでもない。

 通常、電気工事を行うときは、感電を防ぐためにブレーカーを切って電流を遮断してから作業をするのが原則だ。しかし、電流を遮断できない現場などは通電したまま作業をすることになる。つまり、活線作業である。また、家屋の配線工事などは手袋をしないことも多いようだ。特に夏場は暑いかもしれないが、安全のためには、どのような現場や作業でも手袋を着用したほうがいいだろう。電気絶縁用は大きく分けて高圧用と低圧用があり、近頃は薄手のタイプなども発売されている。

ヨツギ株式会社低圧用電気絶縁ゴム手袋

ヨツギ株式会社高圧用電気絶縁ゴム手袋

 長く電気工事に従事していると、ビリッという程度の感電を経験した人は多いだろう。しかし、たとえ命にかかわらない程度の感電でも、雨や汗で皮膚が濡れていたりすると電気が流れやすくなり、危険度が増す。油断は禁物である。

もし、人体に電気が流れたら――

人体に流れる電流値と人体の反応

● 1mA……最小感知電流。ビリッと感じる程度

● 5mA……苦痛電流。相当痛い

●10mA……可随電流。耐えられないほどビリビリくる

●20mA……不随電流。筋肉の収縮がはげしくて、感電者自身で充電物から逃げられない。

      呼吸も困難。引き続き流れると死に至る

●50mA……心室細動電流。短時間でも生命が相当に危険

●100mA…致命的な結果を招く

(関西電気保安協会「感電ってなんだろう」より)