トップインタビュー  矢崎エナジーシステム 矢﨑航社長

電線、黒字転換目指す 18FY電線部門 増収も損失増加
量より、物流値上げと適正利益の確保を継続推進

矢﨑航社長


矢崎エナジーシステムの矢﨑航社長は物流費や適正利益確保の問題に触れ、「19年6月期単体業績は、売上高1千569億円(前年度比2.2%増)だが、利益は減少した。非電線事業部門は健闘したが、電線部門は、売上高1千96億円(同2.4%増)と増収も、損失幅が増えた。銅価差損が発生し、さらに物流費が上昇した上に、適正利益の確保ができなかったことが影響した。また、電線切断における短尺品の加工費(アップ分)請求により、一旦は受注量が減少した。しかし、最終的には、ユーザーからご理解いただいたと判断している」とした上で「20年6月期の当社事業計画は売上高1千520億円に設定している。このうち電線事業部門は、売上高1千52億円で利益増を目指す。物流費上昇分の値上げや適正利益の確保を引き続き推進し、足下をしっかりと固めたい」と述べた。


—国内の19年度下期の需要見通しは?
「建販市場は東京五輪向けを中心に現状、活況を呈しており、当社工場の生産ラインはフル稼働を持続している。特にエコ電線は、品種やサイズによっては品薄であり、当社では残業や休日出勤で需要に対応している。また、東京五輪向けの主な需要は19年度いっぱいで終了するだろうが、首都圏等の再開発や電鉄関連の需要、公立小中学校の教室・体育館のエアコン設置にともなう電線需要は、しばらく継続する見通し。学校のエアコン設置では、財政事情が都道府県ごとに異なり、設置時期もそれぞれ違うため、当社としては適切に対応していきたい。
一方、工事現場では人手不足で作業者が足りず、全般的に工期がズレ込みがちという。それを勘案すると、五輪需要等による建販需要のピークが軽減され、五輪後の極端な需要減はないとみられる。従って、20年度も建販市場は堅調に推移するだろう。
また、消費増税の影響については、需要変化に対応できる態勢で事業に取り組み、市販向けの動向などを注視している。しかし、市場の反応等をみると、あまり大きな波はないと捉えている」

タイ矢崎、20年6月期は需要増で伸長に期待

—御社のタイ拠点の市場動向は?
「タイ矢崎電線の19年6月期電線出荷銅量は、前年比約5%減少した。総選挙などの影響で全般的に需要環境は厳しく、伸び悩んだ。ただ、20年6月期は伸びる余地があり、需要増に期待している。それは、タイ投資委員会(BOI)による投資申請に底打ち感が出てきて、20年6月期は、そうした投資が上向き、やや期待できそうなうえ、タイ矢崎のブランド力が強いためだ」

—建販電線分野において昭和電線グループと古河電工グループの再編・統合による影響は?
「(来年、4月以降)2社グループの再編・統合によって、何らかの影響が出るだろうし、建販電線分野の商流も、やがて何かしら変化するだろう。ただ、当社のスタンスは従来から変わっておらず、今後とも矢崎らしさを貫く。もしユーザーに何らかの影響が出た場合には、ユーザー目線、顧客第一主義の精神でしっかりと対応したい」

—ところで物流・配送費の上昇については?
「電線ドラムは、ほかの製品と形状が異なり、積載効率が低いため、物流・配送費の値上げ交渉で不利な部分があるが、適正マージンの確保とともに、実費分の物流費の値上げについて、引き続きユーザーにご理解いただけるようお願いしていく」

—御社の業績は?
「19年6月期の当社の業績は、売上高1千569億円(前年度比2・2%増)と増加したが、利益は減少した。計装機器などの非電線事業部門は健闘したものの、電線事業部門の伸び悩みが響いた。電線事業部門は、売上高1千96億円(同2・4%増)と増収も、損失幅が前期よりも増えた。電線の出荷銅量では8万4千㌧(計画値比6・3%増)と善戦したが、銅価差損が発生し、物流費上昇や適正利益の確保ができなかったことが影響した。また、電線切断における短尺品の加工費(アップ分)請求により、一旦は受注量が減少したが、最終的にはユーザーからご理解いただいたと判断している」

—御社の20年6月期の業績見通しは?
「20年6月期の矢崎エナジーシステムの計画は売上高1千520億円に設定している。うち電線事業は、売上高1千52億円で利益増を目指す。電線出荷(銅量)計画は、8万2千㌧で前年度比並みに設定し、当社グループ内の需要調整により富士工場の荒引線生産を削減する方針でいる。並行して出荷銅量の増加などにとらわれず、物流費の値上げや適正利益の確保を引き続き推進し、足下をしっかりと固めたい」
物流戦略の見直し必要

RPAで効率化を徹底

—御社の20年6月期の事業戦略は?
「未来インキュベーションプロジェクト(タネをまいた事業を未来に孵化させるの意)を展開している。これは社会的に様々なニーズを捉えながら、当社の新たなビジネスの育成や新商品の研究・開発を手掛ける取り組み。前期から、コンサルタントを交え全社員で企画やコンセプト作りから着手し、協議しながら進めている。非電線を含む各ビジネスが対象で範囲は広い。新規ビジネスや新製品等の発想や計画性〜将来性まで社内で審査した上で、当該事業部門で予算を取り実施する。例えば、既存のEV充電器に、様々なネットワーク機能を持たせたるなど、高度化した充電器等の製品開発を目指している。EV市場の見通しは、急伸を見込めないが、微増ながら堅調に伸びるとみられ、それにマッチできればと期待している」

—御社の営業や物流への取り組みは?
「東日本物流センター(神奈川県海老名市)の建設やほかの物流拠点の整備・拡充で、当社の物流拠点網の整備は完了した。ただ、建販市場の活況下では、ピークを迎えると切断キャパ・配送キャパが一杯になる。従って、ユーザーが必要な時に、必要な分だけの電線を提供するために、物流戦略の見直しが必要になってきた。また、当社ではRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入し3年目に入り、支店・営業所や物流拠点等で業務の効率化を徹底的に進めている」

—RPAの内容は?
「今年はRPAの刈り取りの年になる。つまり、RPAの利用が浸透し余力が出てきた。そこで空いた時間を他の業務に活かし、会社全体として生産性を高めることが刈り取りだ。同時に、空いた時間を、他の業務にあてる仕組みや制度が必要になってきた。一例を挙げれば、支店等の内勤者が、営業のサポートなどの裏方業務を行う。さらに、顧客とのコミュニケーションを一層密にして、一歩踏み込んだ独自のサービス展開や新たな販促に繋げることができればと思う。本来、人でなければできない付加価値の高い仕事に専念するためRPAを入れた。さらにAIを含む基幹システムへの変更に力を注いでいる」

コト売りを支える基幹 システムの切換が大切

—AIを含む基幹システムへの変更とは?
「当社は電線に限らず、様々なサービスを提供しており、モノ売りだけではなくコト売りの側面を持っている。工場などの新設・改築などを進めると同時に、それを支える最新鋭基幹システムへの切り替えが大切になっており、プロジェクトを組んで進める。今年は、どのような基幹システムにするのか、その要件出し作業を行っているところだ。AIやIoTの登場で、基幹システムの幅や活用範囲が広がったり、高度化したりする可能性が高い。当社の業務全般で、その拡大や変化、発展性・成長性を想定しながら、自由が利く最適なAIを含む基幹システム構築を目指す」

電線新聞 4177号掲載