そこが聞きたい 日本データセンター協会 増永直大事務局長 国内大型DC市場 19暦年2000億円(10%増) 今後3年で15案件

日本データセンター協会 増永直大事務局長


日本データセンター協会の増永直大事務局長は「国内DC市場は、大型データセンター建設投資を支えに伸長している。19暦年の国内大型DC建設市場規模は2千億円で前年比10%伸長し、この勢いが少なくとも23年度までは続く見込み。近年3千ラックの標準的なDCの総額は、1棟700億円。このうちLANケーブルは1億円程度で、数量ベースでは約1万㎞と試算している」とした上で、今後の市場動向について「DC建設案件は、今後3年間で関東圏、大阪などでクラウド事業者を中心に約15件を建設する見込み。同案件は、電源容量20~100MW超まで様々ある」と述べた。


―国内データセンター(DC)業界への新型コロナの影響は?

「新型コロナウイルスの影響でTV会議などのニーズが増えており、DCのサーバーの容量が追いつかないほど情通トラフィック量が伸びている。また、人と接触せずに決済できるキャッシュレスの普及加速も、情通量拡大を後押ししている。

さらに、厚生労働省は4月13日から初診の『オンライン診療』を一時的に解禁した。これにより、従来は、初診では患者と医師の対面診療に限られていたが、スマホなどを通じた遠隔診療が行えるようになった。あくまで一時的ではあるが、情通トラフィック量が一層伸びるとみられる。

業務面では、DC事業者は原則テレワークを推進している。しかし、DCはインターネットを担う社会インフラであり、DC自体の運営業務はリモートでは対応できない。従って、一部のDC事業者では、原則在宅勤務とし、DCの要員などで出社した従業員などに出社手当を支給するなどしている」

 ―(新型コロナの影響を除いた)国内DC市場の動向は?

「国内DC市場のメインプレイヤーは、DCにユーザー自身のサーバーを設置するハウジングを中心とした国内DC事業者から、外資系クラウドサービス事業者や同サービス事業者にコロケーションとして提供する事業に変わっている。これは、アマゾンウェブサービス(AWS)やGoogleなどのハイパースケールデータセンター建設投資を支えに伸長している。大型DCは、首都圏や大阪などを中心に構えており、地方には少ない」

00年代のDCが老朽化設備更新で配線需要増

「また、2000年代のインターネット初期に建設されたDCでは、LANケーブル、サーバー、電源設備が更新時期を迎えている。設備更新のスパンは15年ほどだが、さらに30年経つと設備更新をしても、エンドユーザーが求めるニーズにDCの性能・設備が追いついていけない。日本政策投資銀行によると、19暦年の老朽化DC(築20年以上)の比率は関東で40・2%(サーバールーム面積29万2千㎡)、関西で44.8%(同17万3千㎡)となっている。閉鎖を予定しているDCも増えており、今後、老朽化DCの比率はますます高くなる見込み。これにともない、新規DCの配線の需要が増えてくるとみられる。

5GによるDC需要は現時点で動画、ゲームなどに限られており、用途次第で伸びてくるとみている」

 ―19暦年の国内DC市場規模は?

「19暦年の国内の大型DC建設市場規模は、2千億円で前年比10%伸長している。これが少なくとも23年度までは拡大するとみている。近年、標準的な3千ラックのDCの総額は、1棟700億円(建物100億円、電源・空調設備など200億円、サーバー・ネットワーク機器など400億円)となり、都市圏の大型DCは年間3棟ペースで建設されてきた。このうちLANケーブルは1億円程度とみられ、数量ベースではおおよそ1万㎞と試算している」

 ―今後のDC建設動向は?

「当協会で把握しているDC建設案件は、今後3年間で関東圏、大阪などでクラウド事業者を中心に約15件ある見込み。DC建設案件は、電源容量20~100MW超まで様々ある」

 ―DC業界の課題は?

「データの地産地消にある。全国の小・中・高に端末を一人一台配備する文科省のGIGAスクール構想などで地方でのDC需要が伸びるとみられる。しかし現状では、地方にはそのデータを処理する大型DCや通信・電源インフラが少なく、そのデータ量を大都市圏のDCで支えることになる」

新設はバスダクトを使用 試算では1ラックで2m

 ―DCの技術動向は?

「クラウドサービスの伸長により、従来ハウジングなどで行っていたユーザーのサーバー設置によるラックの構成変更などは少なくなる。これに替わってソフトウェアで最適化するようになった。そのため、ユーザー自身がサーバーなどの運営管理を行う必要がなく、DCの配線などの設備、性能は均一化する傾向にある。

電源システムは、一部直流化の動きがみられるものの、おおむね従来と変わらない。新設のDCでは、電気抵抗や曲げ・加工でのレイアウトの自由度からケーブルではなく、ほとんどバスダクトを採用している。当協会の試算では、バスダクトは1ラックで2m使用している。

また、AIでの空調管理などは、もともと国内のDCは効率的な空調管理を徹底していたため、コストメリットが出にくく、改善している段階にある。一部では電源設備などの故障予知などの技術が進む」

 ―協会の取組みは?

「当協会の設立10周年を迎えた19年は、『地方DC事業者との情報交換の場』として、当協会の取組みを全国5都市(札幌、福岡、岡山、富山、名古屋)でタウンミーティングを開催した。参加者は1カ所約100人に達し、有意義なディスカッションとなった。

また、電源設備などの稼働状況をネットワーク上で監視するようになり、セキュリティの向上が課題となってきた。サイバーテロなどを想定して、セキュリティの向上に向けた方法を検討している。

当協会の会員数は、20年4月時点で270社(前年比12.5%増)となり、設備メーカーを中心に増えた。DC市場への関心はますます高まっている」

 ―20年度の最重要課題は?

「先ほども述べたが、データの地産地消だ。地方のDC建設にともない、通信・電源インフラの強靱化、クラウド開発の支援なども必要になる」

電線新聞 4199号掲載