無電柱化特集 景観向上だけでなく防災機能も高める

第6回無電柱化推進展の会場

今夏に予定していた各種展示会は、コロナ禍の影響から軒並み中止となるなかで、「無電柱化推進展」が7月29〜31日の3日間、東京ビッグサイトからインテックス大阪に会場を移して開かれた。入場制限や「コロナ追跡システム」の導入など厳重な警戒のなかではあったが、あらためて関心の高さをうかがわせた。

「未来の街づくりとして、電柱のない街づくりが求められている。都市の景観向上や防災機能を高めるためにも無電柱化が必要」との観点から始まった無電柱化推進展も今回で6回目を数え、大阪では初の開催となったが、すでに定着をみた感がある。
出展者は、前回よりも1小間拡大した東拓工業をはじめ、前回に続いて2度目の出展となる因幡電機製作所、数少ない地中埋設管メーカーのカナフレックスコーポレーション、古河電気工業など、3団体・16社。
全体の印象からいえば、パイプよりも周辺部品メーカーの出展が多く、昨今のニーズを反映してか、低コストに主眼を置いた製品が目立った。入場制限があったとはいえ、会場を訪れた関係者らのまなざしは真剣そのもので、あらためて関心の高さがうかがえた。
ところで、最近の無電柱化を巡る動きだが、ここ数年の甚大な自然災害から、道路などの防災が主目的となっている。

出展各社ブース

災害といえば、近畿地区を襲った一昨年7月の21号台風が記憶に新しいが、それに匹敵、あるいは、以上とみられるのが昨年9月の台風15号。
暴風雨や飛来物による電柱など配電設備の故障から9月11日現在、千葉県で46万1400戸、神奈川県で9400戸の停電が発生。東京電力では、災害対策本部を設置して対応するほか、東北や関西など他電力からの応援を得て復旧に当たるものの、住民の不自由はなかなか解消されなかった。

自然災害による家屋倒壊(熊本市)

このような災害の対策に加えて、最近では、従来にも増して、景観の向上といった観点からも、無電柱化に対するニーズが高まりをみせる。とりわけ、国会議員時代から必要性を唱えてきた小池百合子都知事のおひざ元である首都圏でその傾向が強いようだ。
地域限定といった側面や、満足のいく進行状況ではないにしても、我が国特有の事情から、無電柱化は、着実に浸透しつつある。
たとえば、日本国内には現在、約3600万本の電柱があり、いまもなお年間約7万本前後増加している。そんななかで、安全性・快適性の確保や良好な景観という時代の要請もさることながら、稀にみる近年の自然災害の激甚化、あるいは頻発化から、無電柱化を巡る動きは活発化している。

景観無視の状態に…(京都市)

無電柱化ですっきりの街並み(大阪市)

自治体レベルでは、無電柱化条例の制定や「無電柱化を推進する市区町村長の会」の発足などの動きがでている。
期待がふくらむ一方で、先行きが不安視される要因もある。既存の電柱を巡るもので、電力会社による電柱の老朽化対策もそのひとつ。
電柱は1980年代までに建てられたものが多く存在し、2050年ごろに立て替え期を迎えるが、その需要が施工(建て替え)能力を上回る可能性がある。このため、電力会社では、立て替えを前倒しし、工事量を平準化する方針を固めた。
ちなみに、関西電力管内では、配電設備に年間300億円程度を投資し18年度だけでも2万本の電柱を新設している。

もうひとつは、いわゆる既存設備の有効活用で、電柱などの送配電設備をITインフラとして活用するもの。
具体的には、電柱にカメラを設置して、車からは死角になっている場所の情報を収集したり、ドローンの飛行経路に送電網を活用するといったことがあげられる。すでに、メーカーと協力して今年1月から電柱を使った自動運転関連の実験を開始した電力会社もある。これらの施策に共通するのは、「電柱ありき」の前提があることだ。
既存設備を有効活用したいという選択肢は理解できなくもないが、このような計画がせっかくの無電柱化の流れに水を差す結果につながるといった懸念も拭えない。もちろん、無電柱化と既存設備の有効活用という並立の可能性もあるだろう。

いずれにしても、災害対策と景観の整備という狙いからは、無電柱化は欠かせない。とりわけ、近年のように台風や地震が毎年のように猛威をふるい、大きな爪痕を残す状況においては、それが強く求められる。喫緊の課題といっても、言い過ぎにはならないだろう。
このため、無電柱化が期待ほどの進展をみないことから苛立ちも出始めている。自民党「無電柱化小委員会」の宮内秀樹事務局長は、現状を憂慮しつぎのように訴える。
「電柱は全国に3600万本ある。電柱を減らせば、景観もよくなり地域の経済発展につながる。2018年の台風21号で約1300本の電柱が被害にあった。住民にとっては非常に危険だ。電柱なら1㎞あたり2千万円だが、地中化すると約10倍になる。国民に理解してもらい、コストを電力料金に上乗せしてはどうか。16年に電柱新設の抑制をうながす基本法が議員立法で成立。新設を強制的に禁止する法改正も今後考えられる」
平成30年には、「重要インフラの緊急点検の結果及び対応方策」を踏まえ、「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」が閣議決定した。これは、無電柱化市場にとっては、追い風といえるだろう。
3カ年緊急対策は、7月の豪雨をはじめ、大阪北部地震、北海道胆振東部地震など、昨年に激甚な災害が相次いで起きたことから、防災や国民経済・生活を支える重要インフラについて点検を行い、その結果に基づいて対応する。
計画では、「国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持」の観点から、緊急に実施すべきハード・ソフト対策について2020年度までの3年間で集中的に行う。
このうち、地域における総合的な防災・減災対策、老朽化対策等に対する集中的支援(防災・安全交付金)では、「無電柱化推進計画支援事業」(290億円)を創設。
無電柱化推進計画(2018年度〜2020年度)に定めた目標(約1400㎞の無電柱化着手)の確実な達成に向け、事業に係わる地方公共団体による無電柱化の整備を計画的かつ重点的に支援する。

無電柱化が進めば、安全で快適な歩行空間の確保はもとより、防災機能の向上などのメリットが生まれるが、それには工事費用や電機設備の省スペース化などの課題も多く、その早急解決が待たれるところだ。