トップインタビュー 住電日立ケーブル 門田徹也社長 

20FY出荷目標 7.5万㌧弱(19FY並み)黒字化
物流改善、流通と協業も

住電日立ケーブル 門田徹也社長

住電日立ケーブルの門田徹也社長は本紙・インタビューの中で「当社が年度初めに(切断・加工含む)物流費高騰分の価格改定を実施した効果も重なり、19年度業績は売上高719億円(前年度比0・3%増)、営業利益12億5千万円(-)と微増収、黒字転換した」とした上で、20年度の見通しは「厳しい情勢下ではあるが、20年度は、出荷銅量19年度並みの7万5千㌧弱必達を目指し、黒字計上を図る。また、配送や在庫運営に必要な倉庫費用の圧縮が最大の課題。在庫品種や納入日数で、ユーザーに迷惑が掛からないように妥協点を見いだしたい。各地域の流通の方々との協業も視野に入れながら、従来にない新選択肢を設けて、検討して行く。『現状維持』に解は無い」と述べた。

 ―御社ビジネスへの新型コロナの影響及び、建販電線分野などの現在の市場情勢と20年度の市場見通しは?

「元々、オリパラ期間中の工事中断の懸念や大型件名の踊り場もあり、20年度の電線出荷銅量は、19年度比で約10%減とみている。さらにコロナの影響が、どこまで出るのか現在、精査中だ。

電設分野で、工事中の大型件名については、ほぼ予定通りに完工される見通し。しかし、今後の自動車等の設備投資は、かなり懸念される。一方、市販分野では、電材店の春期展示即売会の中止や商業施設、飲食・娯楽施設の休業で改修工事等が減り相当、響いている。また、学校の夏休み短縮が検討されているため、GIGAスクール構想やエアコン整備に絡む需要への影響も懸念している。また、緊急事態宣言の解除後も、新型コロナの第2、第3波の発生懸念が残るが、第2Qから需要が戻ることに期待したい」

 ―SFCC設立にともない事業への影響は?

「SFCC社は、この未曽有の厳しい状況下で営業を開始され、大変なご苦労があったと思う。特に大きな混乱も聞こえてきておらず、見事なスタートに敬意を表する。影響については、建販市場への新規参入ではなく、既存2社の統合のため、状況は様変わりしないだろう。ただ、統合効果で競争力の増強は脅威であり、当社も負けないように体質強化を図る」

―御社の注力製品&注力技術は?

「昨年、上市した『ぴたっとCVケーブル』に傾注する。布設作業の軽減に向け、低反発で柔らかいケーブルを実現。ケーブルを曲げた位置で固定でき、しかも電線ドラムの巻癖も簡単に真直ぐにでき、延線作業を楽にした。顧客の反応も良好で、引き合いが増えている。ただ、市場全体への認知度はまだ低く、中小電設等をしっかり回り、地道にPRを推進する」

20年度の必達目標は出荷銅7・5万㌧弱

 ―御社の19年度業績は?

「19年度末にかけ銅価が下落した。ただ、学校の空調整備や都市再開発の案件等に加え、東京オリパラ用施設建設も発生し建販需要は堅調に推移。当社の年間出荷銅量は7万5千㌧弱で前年度比7%伸びた。当社が年度初めに(切断・加工含む)物流費高騰分の価格改定を実施した効果も重なり、19年度業績は売上高719億3千100万円(前年度比0・3%増)、営業利益12億5千100万円(―)と微増収、黒字転換した」

 ―御社の20年度業績見通しは?

「コロナの影響は足下、不透明な部分があるが、いずれにしても当社にはマイナス要因。さらに大型件名が踊り場に入ったため、20年度は厳しい年になるだろう。また、延期された東京オリパラの影響で、期間中に予定されていた都市再開発等の工事が、前倒しまたは、後ろ倒しになるかで業績に響きそう。厳しい情勢下ではあるが、20年度は、19年度並みの出荷銅量7万5千㌧弱必達を目指し、黒字計上を図りたい」

 ―御社の20年度事業戦略は?

「20年度は、大きな需要拡大は見込めないため、この機会に、社内外の基盤整備に力を注ぐ。ユーザーや流通の方々との関係は適正なのかを再点検し、最適解を見いだしたい。この実現に向け社内の営業体制、物流体制を見直す。

また、建販分野では、成熟商品を扱っており、ユーザーも旧態依然とした商慣習を引きずるケースが多い。ただ、このコロナ騒動で、在宅勤務やテレワークなど新形態の働き方も、『やればなんとかなる』ということに気づかされた。同様に、やらずに否定している事項にも、果敢に取り組みたいと考える」

 ―電線ケーブルのアルミ化への対応は?

「従来から述べているように、ケーブルのアルミ化は1970年代に既に実用化され特段、目新しい技術ではない。最近、建築物の高層化や施工時の負荷軽減から、再び注目されている。しかし、現行の銅電線に代わるとは考え難く、限定的になる見通し。需要があれば即応する製造態勢等を整えているが、拡販や在庫販売などは現段階では考えていない」

建販市場、30年頃迄は堅調な需要が見込める

 ―御社の建販電線などの適正マージン確保&配送費高への対応は?

「適正マージンの確保は、永遠の課題といえる。13年頃から建設電販市場の価格が下落。メーカーも流通もギリギリの状態で事業継続し、加工・切断や配送の経費を吸収できないのが実態だ。契約外の事項については、ユーザーに請求することを了解して頂きたい。当然、当社も経費圧縮の改善を進めるが、それには限界があり、改めて理解をお願いしたい」

 ―御社の営業&物流(拠点網)体制への取り組みは?

「配送や在庫運営に必要な倉庫費用の圧縮が最大の課題である。在庫品種や納入日数で、ユーザーに迷惑が掛からないように妥協点を見いだしたい。そのうえで、現在の拠点の要否について、各地域の流通の方々との協業も視野に入れながら、従来にない新選択肢を設けて、検討して行く。『現状維持』に解はない」

 ―御社の中長期事業計画は?

「前述のように20年度は、大型件名の踊り場で電線需要が一時的に下がる見通しだが、その後30年頃までは、大阪万博や各地での再開発案件など、堅調な需要が見込める。ただ、長期的には『人口減少』は否めない。そのほか、不透明な要素も多い。当社では銅価変動に左右される不安定な経営基盤から脱却し、かつ電線需要量の変化にも対処できる営業の在り方と、健全な財務体質の構築を目指す」

 ―最重要課題は?

「ここ数年、件名の大型化やVE(バリューエンジニアリング)推進のせいか、『件名先物契約』で、契約時に準備した『先物銅』を、契約通りの納期や数量で引き取って頂けないケースがあり、当社は損益で大ダメージを被っている。このままでは長年続けた『先物契約』自体を見直さざるを得ない。また、『先物契約』に合意して頂いた件については、契約通りの数量を、契約通りの期限内に引き取って頂くという、当たり前の事項について、確認頂くよう、電設工事業者、流通の方々と交渉を開始した。コロナ関連による訪問制限等で、交渉の進捗が予定より遅れているが、何とかご理解を頂き、適正な契約の運用を実現したい」

電線新聞 4206号掲載