電工さんの工具箱 第28回「金切りノコギリ」金属を切断するパワフル工具

旧石器時代から使われていた


ノコギリの歴史は、200万年前にさかのぼる。人類は、旧石器時代にはすでに石製のノコ
ギリを道具として使っていたという。

フランスでは、その時代のものであろう非常に硬い燧石(ひうちいし)製のノコギリが発見されている。また、古代エジプトの遺跡からは銅製のノコギリが見つかっている。そして日本では、古墳時代の出土品の中にノコギリがある。このノコギリは長さ約10cmと短く、刃も細い。従って木材を切るのではなく、ヤスリのように用いて硬いもの、例えば金属や鹿の角などを加工していたと考えられているそう。一般的な木工用ノコギリが普及するのは飛鳥・奈良時代、仏教伝来とともに建築技術を持った渡来人が日本へやってきて、さまざまな建造物を手掛けたことで大工道具が発達したという。

押すタイプ? 引くタイプ?

ご存じの通り、ノコギリには“押し切り”と“引き切り”がある。西洋のノコギリは押すと切れて、日本のノコギリは引くと切れる。日本はレアなケースらしい。

西洋のノコギリ

日本のノコギリ

なぜ日本のノコギリだけが引いて切るタイプなのかは、さまざまな説がある。例えば、引いて切る刀と突いて刺す剣の違いから。あるいは、体の大きな西洋人は押す力が強く、体の小さな日本人は引く技が優れているため。または、日本の木材は杉など軟質な木が多く、力まかせに押し切る必要がない。等々、文化や民族性、体力や技術、自然環境の違いなどが“押し引きの違い”の根拠として挙げられていて、理由は一つではないようだ。200万年も前から存在するため単純な道具と考えがちだが、実は奥が深いのである。
ちなみに大工道具のカンナも、西洋は押して、日本は引く。

金切りノコギリは押し切る

ノコギリと一口にいっても用途や形状など多種多様で、木材用のほか金属材用や石材用などもあるが、電気工事士が主に使うのは金属の板や管を切断するための「金切りノコギリ」、いわゆる「金ノコ」だ。もちろん硬いプラスチックも切れるし、刃に変えればレンガも切れる。電動式もあるが、ここでは手引きのものを紹介しよう。コの字を長くしたような形のフレームにグリップが付いていて、コの字の間に一直線の刃を装着する、あの最もポピュラーなタイプだ。あれを弓ノコ型という。同じ弓ノコ型でもグリップの部分が手を入れる形になっている洋ノコタイプもある。また、最近はナイフのような形状のものなど、新しいタイプが色々と市場に登場している。

その使い方だが、金切りノコギリは基本的に、一般的な木工用ノコギリとは逆の“押し切り”だ。金ノコの刃は着脱できるので逆向きに付ければ“引き切り”もできるわけだが、押し
て切るのが本来の使い方である。

手作業で金属を切断できるのだから、やはりパワフルで便利な工具だ。厚みのある鉄管などは少々根気がいるが、押すときは力を込めて、引くときは力を抜くのがコツ。引くときにも力を入れると疲れるし、刃の切れ味が悪くなりやすい。そして、刃を真っすぐに動かすのがポイント。変な方向に力を入れて動かすと、刃が折れることもあるので注意が必要だ。できるだけゴーグルや軍手をして作業をしよう。