自然エネルギー財団が提言「2030年エネルギーミックスへの提案(第1版)—自然エネルギーを基盤とする日本へ—」

第4章 持続可能なエネルギーミックスのあり方

◇化石燃料の時代から自然エネルギーの時代へ
日本のエネルギー政策は、「日本は資源小国であり、化石燃料資源の確保と準国産エネルギーと位置付ける原子力の開発を進めなければならない」という考えにとらわれてきた。
しかし、自然エネルギーが安価に大量に供給できる時代を迎え、エネルギー供給は、もはや少数の国家の独占するものではなくなった。日本の有する豊富な自然エネルギー資源に依拠すれば、化石燃料だけに着目した「資源小国」の呪縛から自由になることができる。
また気候危機が進む中で、石油も石炭も天然ガスも、もはや燃料として使用することが許されない時代が、すぐ目の前に来ている。脱炭素社会へ移行する中で、エネルギー安全保障のあり方も、化石燃料確保を至上の命題とするものから、大きく変わらなければならない。
自然エネルギーを基盤としたシステムに移行していくことを前提にして、持続可能なエネルギーミックスのめざすべき目標として、つぎの4項目を提起する。
 ①脱炭素社会の実現
 ②化石燃料に依存しない安定供給の確保
 ③自然災害やテロなどによるリスクの低減
 ④アフォーダブルなエネルギー供給

◇エネルギー需要の見通し
政府の需要見通しでは、2030年度までの間、GDP成長率1.7%が継続することを見込んでいるが、実際のGDP成長率は2013年以降2019年度までの平均では0.9%となっている。こうした過大な見通しを見直すとともに、革新的な技術の導入や産業構造の転換ではなく、既に確立され、普及し始めているエネルギー効率化技術の性能向上、普及拡大することを想定して推計を行った。
その結果、2030年度の最終エネルギー需要は、現状政策ケースでは政府見通しと同じ12620PJ(ペタジュール)であるのに対して、転換促進ケースでは9810PJとなった。これは、2018年度よりも25%の減少である。電力需要は、現状政策ケースでは980TWhであるのに対し、転換促進ケースでは、850TWhとなった。
◇現状政策ケースに基づくエネルギーミックスの姿
自然エネルギー割合は政府のエネルギーミックス(22〜24%)よりは高くなるが、30%程度にとどまる。原子力発電の供給量は再稼働済みで40年の運転期限内の原子炉のみが稼働する場合の3%を下限とし、これに加え規制委員会の認可をうけている原子炉が全て稼働する場合の7%を上限として想定した。石炭火力については、政府が26%を供給するという方針を維持しているため、この目標どおりとした。石油火力等は副生ガス等の利用を推定し2%程度残る。
残余の電力需要を満たすために、天然ガス火力が35〜39%を供給すると想定した。

◇転換促進ケース(持続可能なエネルギーミックス)

電化が進むもののエネルギー効率化と活動量の変化により、電力需要は減少し、850TWhとなる。自然エネルギーは、第3章での検討を受け、太陽光、水力、風力、バイオエネルギー、地熱という5つの電源がそれぞれ拡大し発電量の45%を占める。原子力発電は再稼働の低迷する現状、経済性の低下、エネルギーミックスの持続可能性の考え方を踏まえ、ゼロと見込んだ。また、パリ協定の目標実現のためには石炭火力フェーズアウトが必要であり、利用を見込まない。天然ガス火力は他の火力発電に比べてCO2排出量が少なく、また、柔軟な出力調整に優れており、変動型自然エネルギーとの適合性がある。脱炭素社会の実現に向け、電力部門においては、できるだけ早期に自然エネルギー100%を実現しなければならないが、2030年においては、自然エネルギー電源に加え天然ガス火力が電力供給の中心になることを想定する。

 ◇持続可能なエネルギーミックスの意義と課題

①めざすべき4つの目標に照らした評価
 ▽脱炭素社会の実現
電力部門の二酸化炭素排出量は政府需給見通しのケースが3・60億トン—CO2であるのに対し、2・04億トン—CO2と大幅に削減される。電力以外も含む総排出量では6・48億トン—CO2であり、2013年度比では47%削減となる。国の目標26%を大きく上回る。

 ▽化石燃料に依存しない安定供給の確
国産資源である自然エネルギーの割合が大幅に高まり、輸入依存度が低下することから、エネルギー安定供給に寄与する。

 ▽自然災害やテロなどによるリスクの低減
自然災害やテロなどによるリスクの低減という点では、何よりも原子力発電に依存しないため、大幅にリスクが低減されている。更に自然エネルギー電源には分散型のものが多いため、地震などにより大規模電源が一挙に失われるというリスクが小さい。

 ▽アフォーダブルなエネルギー供給
アフォーダブルなエネルギー供給という点でも、天然ガス発電量は増えるが、化石燃料への依存は大きく低下する。発電用に用いられる天然ガス、石炭、石油の輸入金額の合計は2019年に約4・5兆円と試算される。化石燃料価格は、国際市場の価格変動や為替変動により大きく変わるため、2030年の正確な予測は困難であるが、石炭火力、石油火力のフェーズアウトにより、発電用の化石燃料輸入額は1兆円程度の削減を見込むことができる。

②今後さらなる検討が必要な課題

 ▽あらゆる時間帯での安定供給
電力の需給は常にバランスしなければならない。この点から、あらゆる時間帯で需要に対して十分な供給力が確保されていることが求められる。特に太陽光発電からの供給力が急減する夕方から夜間にかけて、電力需要が高いまま維持される場合が問題となりうる。電力の安定供給を確保するため、供給力不足の発生は回避しなければならない。今後の需給解析を通じて、供給量不足の発生可能性について解明していくとともに、市場メカニズムの影響も考慮しながら、供給力不足回避のための制度的・技術的な検討を進めていく。

 ▽アフォーダブルなエネルギー供給
転換促進ケースで、電力コストの国民負担感がどうなるか、という検討が必要となる。これには、自然エネルギーのコスト水準、自然エネルギーの供給が増大することによる卸電力市場価格の変化、カーボンプライシングの影響などを考慮する必要があり、別途、今後の研究レポートで検討を行っていく。

第5章 持続可能なエネルギーミックスへの政策課題

自然エネルギー電力を転換促進ケースで示した水準まで導入し、持続可能なエネルギーミックスを実現するためには、政策・制度の改革が必要であり、特に重要なのは電力システム改革の徹底、カーボンプライシングの導入、土地利用規制の見直しである。

 ◇電力システムの改革
今後、自然エネルギー電源の供給量を拡大していくために必要なのは、自然エネルギー電源を特別に優遇する措置を導入することではなく、発電・小売・送電において、公正な取り扱いが行われるようにすることである。公正な電力システムを実現するためには、石炭火力や原子力発電などの既存電源を優先的に利用し温存するような仕組を改めることも必要である。財団の提言(2020年5月)では、こうした観点から発電、小売、送電の各部門及び発送電分離・規制機関の役割に関し、公正で競争的な電力システムを実現するための18の提言を行っている。

 ◇脱炭素への市場メカニズム:カーボンプライシング
日本ではカーボンプラシングが導入されておらず、二酸化炭素の環境負荷が的確に評価されていない。ブルームバーグNEFの新設電源のコスト推計によると、日本でも2025年には太陽光発電と陸上風力発電が、石炭火力、天然ガス火力よりも安価になるが、既存の石炭火力発電は依然として最もコストが安いと推計される。財団の推計によれば、こうした状況を変えるためには、5500円/トン—CO2以上の炭素価格の導入が必要である。OECDの「経済審査報告書日本」でも、「USD50/t—CO2の炭素価格を想定すれば、2030年より前に太陽光発電(発電所規模)のコストが石炭火力を下回る(蓄電コスト含む)」と指摘している。
英国は脱石炭政策を進めるため、EU-ETSに上乗せする形で2013年に炭素税(Carbon Price Floor)を導入した。これらの効果により、2012年に年間電力供給の38%を石炭火力が占めていたが、2019年にはわずか2%にまで激減した。
日本で導入されている「地球温暖化対策税」の税率はCO2排出量1トンあたり289円という極めて低いものであり、殆ど実効性はない。日本においても、これ以上先送りせず、一刻も早い導入を実現する必要がある。

 ◇土地利用規制の再検討
転換促進ケースでは、2030年度までに今後、地面設置型の太陽光発電38・5GW程度の導入を見込んでおり、主に耕作放棄地、荒廃農地、空き地・原野、ゴルフ場からの転用などでの立地を想定している。これらの場所における円滑な導入、立地を実現するためには、自然環境、地域環境との調和を図ることが必要である。また、農地法や農業振興地域の整備に関する法律(農振法)など既存の法律による様々な立地規制との調整を行うことも求められる。
2030年度までの導入を自然環境、地域環境と調和させながら促進するためには、農村漁村再エネ法など既存の仕組みを活用しながら、地域住民や利害関係者を含め、地域における開発プロセスを再構築していくことが重要である。

 ◇企業の自然エネルギー利用の拡大
持続可能なエネルギーミックスを実現するためには、制度改革とともに、非政府アクターが実行段階で果たす役割も大きく、大手企業の中で自然エネルギー利用拡大の動きが加速している。これらの企業は自社での利用を進めるだけでなく、日本全体での自然エネルギー拡大を求めている。2020年1月、自然エネルギーの利用拡大に取り組む主要企業20社の意見をもとに、自然エネルギー財団はCDP JapanとWWFジャパンと共同で、日本が自然エネルギーの電力を利用しやすい国になるように、3つの戦略と9つの施策を提案している。

 ◇自治体の実行力の強化
2011年3月の東日本大震災と福島原発事故以降に、全国の多くの自治体で自然エネルギー導入拡大をめざす取組みが始まっている。2020年7月に34の道府県で構成される自然エネルギー協議会は「2030年には自然エネルギー発電比率を40%超えとする」ことを、19の政令指定都市で構成される指定都市自然エネルギー協議会は「主力電源化に必要な目標値として『2030年までに少なくとも45%』を目指し、第6次エネルギー基本計画に盛り込むこと」を国に求める提言を公表している。
今後、自治体が自然エネルギー拡大にむけて大きな役割を果たせるようにするためには、実行力の強化が重要であり、自治体に不足する資源(人材・経験、資金)を充足させる国レベルでの仕組みも必要である。

第6章 エネルギー政策の選択の時

 ◇パンデミックからの緑の回復
年初から世界に急拡大した新型コロナ感染症によりCOP26は2021年に延期されたが、気候危機への取組み強化の重要性は全く変わらない。むしろ、新型コロナ感染症が引き起こしたパンデミックは、エネルギー政策の選択の重要性を更に高めることになった。経済危機からの回復をめざす巨額の資金は、ただ単に以前の状態に復帰するためではなく、脱炭素社会の実現に貢献するように用いられなければならない。
コロナ危機からの回復に向け巨額の投資が行われることになり、欧州委員会が策定しているEUタクソノミーの重要性は一層高まっている。この基準が持続可能な経済活動として認める発電方法は、排出係数が100gCO2eq/kWh(100gの二酸化炭素相当量/キロワットアワー)以下のものだけである。原子力については、排出はほぼゼロであるが、他の環境目的達成を大きく阻害しないか否かについて評価がわかれており、現状では保留扱いになっている。結果として、EUタクソノミーが持続可能な発電方式として、明確に認めているのは自然エネルギー電源だけである。

 ◇この10年で日本を変える
2020年から2021年にかけて、日本のエネルギー政策は大きな選択を行うべき時を迎える。
2021年に延期されたCOP26までに地球温暖化対策計画の改定が予定されており、これに合わせてエネルギー基本計画の再検討も開始される。2030年までの温室効果ガス削減目標をパリ協定と1.5℃目標に整合するように引き上げ、これにふさわしいエネルギーミックスに改定する必要がある。
その中心におくべきは、自然エネルギーの飛躍的な拡大である。政府の中でも従来以上に自然エネルギー拡大を進める方向が強まっているが、その規模と速度が世界で進むエネルギー転換に見合うものになるのか、気候危機の回避に必要なレベルに適合するのかは、これからの選択にかかっている。
本提言が持続可能なエネギーミックスとして提言し、意欲的な企業や自治体のネットワークが提唱するように2030年の自然エネルギー電力の割合を少なくとも45%程度までに高めることが必要である。
直近の政府の審議会資料においては、自然エネルギー拡大の重要性を指摘する一方で、原子力発電と高効率と称する石炭火力発電を継続する意向が明確に示されている。世界がコロナ危機からの回復を脱炭素社会への転換の起爆剤とする中で、日本政府が石炭と原子力への固執を続ければ、日本と世界の乖離は更に大きくなってしまう。
ドイツは2010年に17%だった自然エネルギー電力の割合を2019年に44%にまで高め、2020年前半の速報値では50%を超えた。英国は2012年から2019年までに石炭火力の割合を38%から2%までに劇減させた。
政府が高い自然エネルギー導入を軸にエネルギー転換を行う明確な目標を定め、企業と自治体がその実現にむけて本来の力を発揮できる環境を整えれば、10年間で大きな変化を成し遂げることができる。
四季折々の多彩な自然を享受する日本は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスという自然エネルギーを視野に入れれば、決して資源小国ではなく、持続可能なエネルギー資源に恵まれた豊かな国である。2030年に向けて、この豊かな資源を活かし、原発にも石炭火力にも依存しない日本を実現する。それがいま行うべきエネルギー政策の選択である。

電材流通新聞2020年10月8日号掲載