電工さんの工具箱 第30回「ヤスリ」用途も形も多種多様

平、丸、三角、はまぐりとは?

「鏃(やじり:矢の先端部)をこする」が名称の語源だという説もあるヤスリは、金属などの表面や角部を研磨して滑らかにする工具である。電気工事の場合は、たとえば切断した配管の断面のバリ取りなどに用いる。
ヤスリを、鉄の板や棒に細かい溝が刻み付けられている単純な構造のハンドツール、と思ったら大間違いだ。まず、種類の多さに驚かされる。金属加工全般に使う「鉄工ヤスリ」をはじめ、ノコギリの目立てに使う「目立てヤスリ」、チェーンソーの刃を研ぐ「チェーンヤスリ」、硬質な素材などに使う「ダイヤモンドヤスリ」、その他にも木工用、ステンレス用、プラスチック用、馬のひずめ用など多種多様だ。用途だけではない。ヤスリの形状も、平、半丸、丸、角、三角、先細、鎬(しのぎ)、楕円、腹丸、刀刃、両甲、菱、蛤(はまぐり)と、さまざまな形がある。基本的に、素材の加工箇所に合ったヤスリを用いる。さらに、ヤスリの目も、粗い方から荒目、中目、細目、油目と分かれており、荒目から油目へ順に使って仕上げていく。そしてさらに、目の入り方も一様ではなく、目が平行の「単目」、格子状の「複目」、曲線の「波目」、突起状の「鬼目」などの種類がある。極めて奥の深い道具なのだ。

古今東西のヤスリ

ギリシャのクレタ島で、今からおよそ4000年前のものとみられる青銅製のヤスリが見つかっているという。日本では、奈良県明日香村にある遺跡からヤスリが発掘されている。7世紀後半のものだそう。
現代では、製造業の盛んな広島県呉市の仁方という地域がヤスリの生産地として有名であり、国内トップシェアを誇っている。
さて、ここで問題です。仁方のヤスリは、その製造工程の一つである焼き入れの前に、あるものを塗ります。それは何でしょう?

A 味噌
B アナゴの油
C 牡蠣のエキス

正解はAです。
焼き入れとは、高温に熱した鋼を水や油の中に入れて急冷することによって鋼の硬度を高める工程。その前に、ヤスリの表面に味噌を塗って乾燥させるのだそう。「広島地区鈩工業組合」のホームページによると、味噌で覆われたヤスリは、水に入れた際に水蒸気膜が付着せず、冷却が早くなって完全な焼き入れができるという。

鉄工ヤスリの選び方

ヤスリは種類が豊富なだけに、形状や目の粗さを考慮して用途に合ったものを選ぶことが大切だ。もちろん自分が使いやすいことも重要。鉄工ヤスリは一般的には、ヤスリの長さが150mm前後、全長250mm前後のものがオーソドックスで使い勝手が良いとされている。
また、板状の「平」が基本形といえるが、バリエーションを何本か揃えていると対応の幅が広がる。そうした、形状や目の粗さが異なる数本をセットにした「組ヤスリ」というのもあり、電気工事士技能試験対策用といったセットも販売されていて便利だ。