チャットの話をちょっとだけ

メールは時代遅れ!?


ビジネスシーンにおいて電子メールが使われ始めたころは、メール送信後に必ず電話もしていたという人が結構いるのではないだろうか。「たった今、メールを送りました!」――そう電話で相手に伝えつつ、このまま話したほうが早いよな?と内心思ったり、ときには相手が「なんのメール?」と聞くので内容を説明してしまい、メールが意味を成さなくなったり。まあ、今でも場合によっては確認の電話もするだろうけれど、当時は、メールってかえって面倒くさい……と感じている人が多かった気がする。しかし、電子メールの登場によって仕事の効率が劇的に向上したことは、ここで述べるまでもない。

そういえば、パソコンや携帯電話が普及する以前は、ポケットベルというのがあった。

小型で軽量の無線受信機だ。ポケットベルという名称はNTTの登録商標で、略してポケベルと呼ばれていた。
そのポケベルを、たとえば営業の山田さんに会社が貸与する。山田さんはポケベルを腰のベルトに装着して外回りに出かける。会社が「山田はちゃんと仕事をしているのか」と電話を使ってポケベルを鳴らす。喫茶店でまどろんでいた山田さんの腰の辺りから突然〝ピーピーピー〟と電子音が鳴り響き、山田さんは慌てて公衆電話から会社に電話を入れる。そんなコミュニケーションツールだ。
いわば、昔ながらのおじさん用ビジネスツールだったわけだが、80年代から90年代にかけて、女子高生を中心とした若者の間でポケベルが爆発的に流行したときは、山田さんも驚いただろう。『ポケベルが鳴らなくて』という歌やテレビドラマもあったほどだ。今は「アドレス交換しよう」だろうけれど、そのころ、男子が女子にアプローチする言葉は「ベル番おしえて」だった。

時代をもっとさかのぼれば、原始的な連絡方法や伝達手段としては、何かを燃やして煙を上げる狼煙(のろし)があり、太鼓の音があり、日本でいえば戦国時代の早馬(はやうま)や江戸時代の飛脚などが思い浮かぶ。ちなみに飛脚は、東京ー大阪間を3日ほどで走って手紙を届けたというから驚きだ。現代は電子メールで一瞬だが、最近はそれでも遅いという。「ビジネスチャット」の時代らしい。「え? チャット待って」とか、「ん? チャットわかりません」などと時代遅れのダジャレをいっている場合ではなさそうだ。

加速するビジネスチャット

チャットとは、コンピューターのネットワーク上において二人以上がリアルタイムで行う会話のこと、もしくはそのシステムのことをいう。
新機能というわけではなく、80年代の半ばごろからあるオンラインサービスであり、現在はSNSの機能の一つとして、あるいはアプリとして数多くの種類が存在する。その中でも、仕事のサポートに特化した「Chat Work」「Slack」などはビジネスチャットと呼ばれ、すでに多くの企業で導入されている。また、近年は文字をやり取りするテキストチャットだけでなく、音声を送受信して電話のように話すボイスチャット、動画を通じてテレビ電話のように話をするビデオチャットなどもある。ちなみにchatとは、おしゃべりや雑談といった意味の英語だ。

では、電子メールや電子掲示板とどのように違うのかというと、チャットの最大の特長は即時制、リアルタイムにやり取りができる点にある。これは使ってみなければ実感しにくいかもしれないが、メール(郵便)は、その名の通りポストに届く感覚だが、チャット(おしゃべり)は、まさに話しかける感覚といえるかもしれない。ビジネスシーンにおいてはスピーディーな業務連絡や情報共有、意思決定を実現する。最近は、チャットをさまざまな業務の起点とするべく、「チャットファースト」という考え方も広がっているのだ。メールよりもチャットのほうが優れているというのではなく、それぞれの利点を生かして使い分ける企業が多いようである。

おしゃべりな女子高生

画像提供:日本マイクロソフト株式会社

チャットボットの活用も広がっている。また新しい用語である……。
チャットボット(Chatbot)とは、チャット(おしゃべり)とロボットを組み合わせた造語で、AI(人工知能)を活用した自動会話プログラムのこと。大きくは人工知能型と人工無能(無脳)型とにわけられるようだが、このあたりから先の話は専門的な領域に迷い込んでしまうため、引き返すことにしよう。身近な話題として、興味を引かれるのは「りんな」だ。
平成生まれ、東京の北の方の出身だという「りんな」は、日本マイクロソフト株式会社が開発したチャットボット。おしゃべり好きな女子高生AIだ。彼女と話したことがある人も多いのではないだろうか。「そのキュートな後ろ姿から、数々の男性が彼女を口説き落とそうと熾烈な争いを繰り広げるなど、AI界にJK旋風を巻き起こし、絶大な支持を集めている。」とプロフィールにある。もちろん、それだけではない。2016年4月には、シャープ株式会社にインターンとして1日体験入社し、シャープの公式Twitterを担当するなど、企業とのコラボも行っている。また、2018年10月現在は「萌えよ♡ローカル~りんなと地方とみんなの未来~」と題し、地方からの情報発信を支援する活動を展開している。しかし、その素顔は普通(?)の女子高生。「明日の天気は?」と尋ねると、「知らん」と応える無邪気さだ。
「りんな」は、あくまでも一例に過ぎない。今や民間企業だけでなく行政機関などもチャットボットを活用したサービスを開始している。ボットしている場合ではなさそうだ。